サンタと弟子と、プレゼントの少女

久望 蜜

サンタと弟子と、プレゼントの少女(脚本)

サンタと弟子と、プレゼントの少女

久望 蜜

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〇オフィスビル前の道
ルドルフ「なあ、おい、これは何だ?」
ヒジリ「・・・・・・女の子ですね」
ルドルフ「それは見ればわかるんだよ! いや、もしかしたら男の子の可能性もあるのか・・・・・・?」
ヒジリ「落ちついてください、師匠。 何でプレゼントの中から女の子が出てきたのか、僕にもわかりません」
  子どもたちへ配る予定のクリスマスプレゼントから寝息が聞こえたので、中身を調べてみたら、少女が入っていたのだ。
ヒジリ「担当のトナカイに電話してみます」
  トナカイとは、プレゼントを調査・手配する部署、あるいはそこに所属する個人のことを指す言葉だ。
ヒジリ「出ませんね。 とにかく、もっと人目につかない場所へ──」
警官「そこで何をしている!」
  巡回中の警官が通りかかった。
  サンタ姿の不審者の前で、袋に詰められた少女が眠っているという、最悪のタイミングで。
警官「未成年者略取の疑いで、現行犯逮捕する!」
ルドルフ「逃げろ!」
  荷車にプレゼントや少女を乗せたまま、全速力で走った。

〇公園のベンチ
ルドルフ「ここまで来れば、大丈夫か・・・・・・」
  ゼイゼイと肩で息をしながら、公園に辿り着いたときだった。
少女「ここどこ・・・・・・? おじさん、誰?」
  少女が目を覚ました。
ルドルフ「おじさんって、俺のことか・・・・・・?」
  ショックを受けているサンタを無視し、少年が紹介する。
ヒジリ「こちらはサンタのルドルフ、僕は弟子兼護衛のヒジリです」
少女「サンタ? ごめんなさい、わからないの」
ルドルフ「サンタを知らないのか・・・・・・」
  ルドルフが、さらに落ちこむ。
ヒジリ「それより、君の名前は?」
少女「多分、鹿内マリア。 誰かにそういわれた気がするんだけど、それ以外何も覚えてないの」
ルドルフ「記憶喪失か・・・・・・」
  そう呟くと、ルドルフは彼女が包装されていた袋で宛先を確認した。
ルドルフ「届け先は鹿内キリト。同じ苗字だな。 ヒジリ、この2人を配送先リストと照合してみてくれ」
ヒジリ「・・・・・・キリトはヒットしますが、マリアは該当しませんね」
ルドルフ「抹消済みを含むにチェックを入れてみろ」
ヒジリ「ああ、ヒットしました。ですが・・・・・・」
  そこには「2020年に死亡」と書かれていた。
ルドルフ「これはいよいよ、手配したトナカイにナシをつけねぇとだな」

〇飲み屋街
  とある飲み屋街。
  こそこそと店に入ろうとする覆面の男がいた。
ルドルフ「やっと見つけたぞ、トナカイ!」
トナカイ「ルドルフさん!? 何でここに!」
ルドルフ「俺が来た理由が、本当にわからないのか?」
  トナカイは観念したように、ため息をついた。
トナカイ「・・・・・・あのプレゼントのことですね?」
ルドルフ「ああ。彼女は、鹿内マリアのクローンだな?」
トナカイ「あれは姉を亡くして悲しんでいた弟が、プレゼントに望んだから用意したもので、オレは何も・・・・・・」
ルドルフ「嘘つくな。 弟ではなく、両親が『自分たちが依頼した』と白状したぞ」
ルドルフ「しかも、クローンを用意する技術料として、大金まで貰ったそうじゃないか」
トナカイ「くっ、そこまでバレていたか・・・・・・」
ルドルフ「金は返しておくから、大人しく渡せ。 本当に弟が望んでいた、おもちゃと一緒にな」
トナカイ「クローンはどうするんだ?」
ルドルフ「お前、サンタ世界のクローン技術を使っただろ? お前たちトナカイは数が必要だから、クローンで量産していたもんな」
ルドルフ「だが、その技術を他の世界に持ちこむのはご法度だ。彼女をこの世界に残すわけにはいかねぇ」
トナカイ「まさか、あのクローンを処分する気か!? そんなことさせるか!」
トナカイ「お前らはいつもそうだ! オレたちを人として見ちゃいないんだ!!」
  トナカイは、ポケットからナイフを取りだした。
  いい争う2人から少し離れたところに、マリアとヒジリはいた。
  会話の内容がマリアに聞こえてはならず、かといって目の届かないところでも困るというルドルフの指示だ。
  おかげでマリアにはよく聞こえなかったが、耳のよいヒジリには2人の会話が聞こえていた。
トナカイ「オレたちを人として見ちゃいないんだ!!」
  叫び声が聞こえた瞬間、ヒジリは身体が動いていた。
ヒジリ「ここにいて」
  マリアに短く伝えると、ヒジリは駆けだした。
トナカイ「うおおおおお」
  トナカイが手にしたナイフでルドルフを突きさそうとしたとき、ヒジリが滑りこんできた。
  刺さる! と思ったマリアは目を瞑った。

〇飲み屋街
  その一瞬、ヒジリは異形の姿となり、周囲に風や雷が嵐のように吹き荒んだ。
  そして、雷がトナカイの持つナイフに直撃した。
トナカイ「つっ」

〇飲み屋街
  痛みでとり落としたナイフを、すかさずヒジリが拾いあげた。
  そのときには、すでにもとの少年の姿に戻っていた。
ヒジリ「この人に、手は出せませんよ」
トナカイ「何が起きた? 見間違いか・・・・・・?」
  呆然とするトナカイに、ルドルフが話しかける。
ルドルフ「処分なんかしねぇよ。 一人の人間として育てるさ。 彼女はマリアとは別人だ。そんな彼女を贈っても、綻びが生じるだけだからな」
トナカイ「そうだな・・・・・・彼女を頼む」

〇クリスマスツリーのある広場
ルドルフ「さてマリア、お前は行くあてもないだろ? 俺の弟子にしてやろうか?」
マリア「弟子? サンタさんって、何をするの?」
ルドルフ「子どもたちを笑顔にする仕事だ。 俺は忙しいから、マリアのお手伝いが必要なんだ」
マリア「わかった! 手伝う!」
ヒジリ「生活費だって足りないくせに、また拾いものですか?」
  マリアに聞こえないほどの小声で、ヒジリが囁く。
ルドルフ「いいんだよ。 兄弟子だって、立派に育ってきているしな」

コメント

  • おもしろかったです!
    ヒジリくんの能力すごいですね!
    さすがはサンタクロースの護衛だけあって、戦闘能力まであるんだなぁと。
    マリアさんはこれから幸せになってほしいです。

  • 読みやすくてすぐに楽しめるお話でしたが、一人ひとりのキャラクターにしっかり背景があって、読むスピードの割に深く心に残りました。小さい二人もかわいいし、大人たちのストーリーも面白かったです。いつかマリアちゃんがサンタさんとトナカイさんの架け橋になる日もくるのかな?なんて想像してしまいました。

  • 面白かったです^_^
    特に、弟子が変身してバトルするシーンが、カッコよかったです!
    彼は人間ではないのでしょうか……?

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