オプティミスティック・ワールド

ラム25

前向きな世界(脚本)

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〇荒野の城壁
男「・・・」
  ふらふらと、ボロボロの服を着た長身痩躯の男が歩いていた。
ダブル「あっすみませ・・・」
ダブル「ん? そのなり・・・ お前、シングルだな」
  ぶつかった男は醜悪な笑みを浮かべると、こぶしを振り上げ、勢いよく下ろす。
男「ぐっ・・・」
ダブル「無様だな!」
男(俺はシングル、産まれてきたことが罪なんだ・・・ だからこれは当然の罰だ)
  周りの民衆は見向きもしなかった。
  この世界はシングル、ダブル、トリプルの3つの階級で出来ていた。
  人口はほとんどがダブルだが、ごくまれにシングルが産まれる。
  そしてシングルは酷い差別の対象とされている。
  トリプルは目撃した者がいないが、神格化されており、世界を変える力があるとされている。
  この階級制度を作ったのは1000年前に現れたトリプルらしい。
  細身の男が倒れようとしたときだった。
サツキ「ちょっと! なにしてるの!」
ダブル「ああ、俺はシングルに制裁を加えているだけですよ」
サツキ「だとしてもやめて! あなたも無抵抗でいないでさっさと逃げましょう!」

〇中東の街
  そして女性に手を引かれ、人のいない路地裏まで逃げた。
  細身の男は何が起きたのか理解できずにいた。
  これが〝助ける〟という行為であることを彼は認識出来なかったのだ。
  何しろ人に優しくされたことなどないのだから。
サツキ「ああ、こんな傷だらけになって・・・・・・ 私はサツキ。あなたの名前は?」
男「名前・・・?」
  男は名前がなかった。
サツキ「もしかして・・・・・・無いの? じゃあ私が名付け親になってあげる。 そうね・・・キサラギ、とかどう?」
キサラギ「キサラギ・・・・・・いいな。 ところであんたは何で俺が殴られるのを止めたんだ?」
サツキ「そんなのあなたが悪くないからに決まってるでしょ?」
キサラギ「だが俺はシングルだ」
サツキ「シングルもダブルもトリプルも同じ人間でしょ! 困ってる人間を助けるのに理由なんている?」
  キサラギは自分が生きていることは罪だと散々教えられた。
  だが彼女は違うという。キサラギには彼女が女神のように見えた。
  胸が暖かくなる感覚がする。初めて味わうものだった。
  これが嬉しい、という感情なのだろうか?
キサラギ「あんたはなんでそんなに人に優しく出来るんだ?」
サツキ「私の弟がね、シングルだったの。 それで・・・」
  キサラギは深くは聞かなかった。
  シングルの処遇など嫌でも想像がついたからだ。
キサラギ「なあ、この恩はどうやって返せばいいんだ?」
サツキ「恩返しなんていいわよ。 でも、そうねぇ・・・・・・ 誰か別の人を助けてあげて! それが私への恩返し。じゃあね!」
  そう言ってサツキは去っていった。
キサラギ(人を助ける・・・ そのために俺は産まれてきたのかもしれない)
  それからキサラギは人助けを始めた。
  助けた対象は同じシングルのみではない。

〇荒野の城壁
男「あぁ?シングルの分際で俺に恩を売ろうってのか!?」
  ダブルはシングルに助けられても大概は喜ばなかった。
  しかしキサラギはサツキがくれた生きる意味を直向きに実行し続けた。
  キサラギは時には不気味がられ、時には利用された。
  しかし、あるときダブルの間でこんな声が出た。
  キサラギは悪いシングルではないのではないか。
  それからキサラギを差別する事に疑問視する声は増え、世論は二分割された。
  そして政府は、次のような措置を取った。

〇謁見の間
王「君を名誉ダブルとする。 これからは我々ダブルの同胞だ」
キサラギ「そんな物は必要ない。 俺が人助けをするのは俺の生きる意味だからだ」
王「そう言わないでくれ。 それに君は捨て子で、名前すら無かったと聞く」
王「もしかしたらダブルの可能性もあるから検査を正式に受けて欲しい」

〇病院の診察室
  そして、キサラギは検査を受けることになった。
  血液の検査らしい。
  これでシングルかダブルか分かるという。
キサラギ「なぁ、血を採って何が分かるんだ」
医者「10000年前の2023年の旧人類と比較してね、我々新人類は遺伝子群に変異が起きているの」
医者「この変異は普通は2つ見られるからダブルが多いのよ」
キサラギ「変異数が多いと何が違うんだ?」
医者「たくさん変異してるって事は旧人類より進化してるって事でしょ? だから変異数はステータスなの」
  これは何の科学的根拠も無い話だった。
  このような迷信で世界は創られていたのであった。
医者「検査の結果は明日にでもすぐに分かるわ」
  その翌日のことだった。

〇謁見の間
医者「た、大変です! へ、変異が・・・・・・!」
医者「変異が3つ見られました!」
  その瞬間場は騒然とする。
  これはキサラギが幻のトリプルであることを意味していた。
王「あ、あぁ、なんてことだ・・・・・・ あなたが、あなた様がトリプル様だったとは・・・・・・」
  場にいた者は一斉に恐れおののき、ひれ伏す。
王「トリプル様! 数々のご無礼をお許しください!」
医者「世界に安寧をもたらすにはどうすればいいのですか!? 我々を導いてください!」
  キサラギは世界を支配する権力を一瞬で手にしたのだ。
  群がる人々にキサラギは落ち着き払ってこう言った。
キサラギ「シングルもダブルもトリプルも同じ人だ。 だから区別なんかやめろ。 こんな階級は否定する」
王「ト、トリプル様・・・?」
キサラギ「崇拝するな。差別するな。俺達は平等だ。共に助け合って生きよう。 俺が言いたいのは以上だ」
王「・・・はっ!」
  この日、世界から階級が無くなった。
  キサラギがサツキから与えられた言葉と優しさは、人間を平等へと導いた。

〇荒野の城壁
女性「ありがとうございます、助けていただいて」
  キサラギはまた一人、人を助けると、お礼を断り去っていった。
サツキ「相変わらずクールね」
キサラギ「あんたの真似をしているだけだ」
サツキ「そう言われるとくすぐったいわ」
  キサラギがトリプルだと発覚し、未だ周囲は畏怖の念が消えないまでも、サツキだけは平等に接してくれた。
キサラギ「サツキ、階級が消えて世界は良くなったかな・・・」
サツキ「階級は消えた。 でも偏見は消えない。長い目で見る必要があるわね」
キサラギ「そうか。疲れたな・・・ 少しだけ、寝ていいかな」
サツキ「えぇ、ぐっすりおやすみ」
  そしてキサラギはサツキの膝の上で深い眠りについた。
  夢の中で、人間は分け隔て無く、手を取り合っていた。
  キサラギは、その前向きな夢の中で幸せな笑みを浮かべていた。

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