総一郎さん

市丸あや

総一郎さん2(脚本)

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〇病院の診察室
大八木総一郎「──うん。 これならもう頓服はいらないかな。 明日から解放病棟の兵藤先生が担当になるけど、引き続き作業療法頑張るんだよ?」
笠原絢音「はい! 私頑張ります! 先生!!」
更科宮子「・・・・・・・・・」
大八木総一郎「? どうかした?更科君」
更科宮子「・・・あ!その・・・ いえ! 何でもありません! 次の患者さん、呼んできます!」
大八木総一郎「うん。 よろしく頼むよ」
更科宮子「・・・・・・・・・」
  何か言いたげな眼差しをする宮子が診察室から出て行くと、絢音はキュッと総一郎に抱きつく。
大八木総一郎「──こらこら。 まだ仕事中だよ? 絢音」
笠原絢音「いやぁ・・・ だって明日から滅多に会えなくなるもん。 ・・・でも、来てくれるんよね? 総一郎さん」
大八木総一郎「ああ。 解放病棟には時々代診で行くから、会えるよ?」
笠原絢音「時々なんてイヤぁ。 毎日会いたい。 会っていっぱいキスしたい。 ねぇ、総一郎さん・・・」
大八木総一郎「──ホントに君は、純粋に僕を慕ってくれるね。 いいよ。 上手く理由を付けて、会いに行こう」
笠原絢音「・・・嬉しい! 大好きよ。総一郎さん」
大八木総一郎「・・・うん。絢音」

〇田舎の病院の廊下
更科宮子(・・・・・・・・・)
  ──扉の隙間から見える絢音と総一郎のキスの瞬間を見ていた宮子は、キュッと手を握る。
更科宮子(──やっぱり、言うべきじゃなかった。 じゃけど、まさか大八木先生が受け入れるなんて・・・)
  ──自分に総一郎の恋人の有無を聞いてからと言うもの、妙に明るくなった絢音に違和感を覚え探りを入れてみたら案の定。
  医療従事者として、患者に手を出した総一郎を諌めるべきか。
  それとも、恋と尊敬を混同している絢音の目を覚まさせ諦めるよう説得するか。
  誰にも言えない、相談できない秘密を知ってしまい、宮子は悩みながらも、その場を立ち去った・・・

〇田舎の病院の休憩室
笠原絢音「ふふっ! 早く、早く、冬にならないかなぁ〜」
兵藤佳純「あら、今日も調子良さそうね。笠原さん。 作業療法、楽しい?」
笠原絢音「ハイ! 編み物って、日々を綴る日記みたいで・・・とっても楽しいです!」
兵藤佳純「そう。 それにしても、素敵な藍色のマフラーね。 誰かへのプレゼントにするの?」
笠原絢音「えっ!?」
兵藤佳純「だってさっき言ってたじゃない。 早く冬にならないかなって。 身につけて欲しい相手、いるんでしょー?」
笠原絢音「や、やだもう先生! 聞いてたん?! もー! 恥ずかしい!!」
兵藤佳純「ふふっ! 恋する気持ちやときめきは大切よ。 生きる気力や目標になるからね」
笠原絢音「はい! 私、今幸せです!」
兵藤佳純「そう。 なら、しっかり療養して、早く退院して彼氏さんに会えるようになりましょうね!」
笠原絢音「はい!」
大八木総一郎「お! 良い返事が聞こえたなぁ〜 元気そうでなによりだ。 笠原さん」
笠原絢音「あ! 大八木先生!!」
兵藤佳純「あら、閉鎖の大八木先生。 今日って代診の予定ありましたっけ?」
大八木総一郎「ああ。 ちょっとこっちに移動になった患者さんの容態が気になってね。 でも、笠原さんが元気そうで、良かった」
兵藤佳純「そうですか。 私も笠原さんの回復ぶりには驚いてます。 これなら、来月には退院をと考えてます」
大八木総一郎「そう。来月・・・」
笠原絢音「へへっ・・・❤︎」
兵藤佳純「? どうかした笠原さん。 ニヤニヤして」
笠原絢音「あ!その・・・ 早く退院して、彼に会いたいなって・・・ ね、大八木先生!」
大八木総一郎「──うん。 僕もよく惚気を聞かされたよ。 素敵な恋人に巡り会えて、笠原さんは幸せだね」
笠原絢音「うん・・・ 私今、幸せ・・・総一郎さん」
兵藤佳純「えっ? 笠原さん、今・・・」
  不意に同僚を名前呼びした絢音に瞬いた時だった。
  佳純の医療用PHSが、思考を遮ったのは・・・
兵藤佳純「あ! ハイ! 兵藤です!! ・・・・・・えっ?!本当?!」
大八木総一郎「・・・・・・・・・」
笠原絢音「・・・・・・・・・」
  仕事モードになり、作業療法室を後にしていく佳純を見送り、総一郎は絢音に向き直る。
大八木総一郎「──あまり根を詰めるのもよくないな。 そろそろ病室に戻ろう。 送るよ。「笠原さん」」
笠原絢音「ハイ。 「先生」」

〇更衣室
大八木総一郎「・・・さっきのような軽率な行為は、感心しないな。 イタズラ好きの、僕の絢音・・・」
笠原絢音「だって、私早く皆んなに自慢したいんよ? こんな素敵な人が恋人なんよって。 総一郎さんは、違うの?」
大八木総一郎「そんな事ないよ。 僕だって、早く菓子パンと牛乳の昼飯から卒業して、絢音が作ってくれたお弁当を片手に、同僚に自慢したいよ?」
笠原絢音「ホント?」
大八木総一郎「うん。 退院が来月って正式に決まったら、必要な家財・・・揃えないとね。 カギ、ちゃんと持ってるかい?」
笠原絢音「うん・・・肌身離さず、持ってる」
  大事そうに両手に乗せられたコリウスの花が添えられたカギごと、総一郎は絢音を側のロッカーに押し付け抱き締める。
笠原絢音「あっ、やっ! 総一郎さん・・・くすぐったい・・・」
  首筋を唇で撫でられ、服の上から身体の線をなぞられるように愛撫され、絢音はいよいよかとギュッと目を閉じる。
  が、
大八木総一郎「・・・・・・・・・」
笠原絢音「? 総一郎さん?」
  不意に距離を取られ呆然としていると、総一郎は優しく絢音の頭を撫でる。
大八木総一郎「ごめんよ。 少し我慢が効かなかった。 怖がらせたね」
笠原絢音「そ、そんな! 総一郎さんなら私──────んっ!!」
  クッと、深く唇を奪われ、口腔内に挿(は)いってくる総一郎の舌に翻弄されること数分。
  ツウッと、唾液の糸を引きながら唇が離れると、総一郎は余韻に浸る絢音の赤い耳に口を寄せる。
大八木総一郎「「初めて」がこんな埃っぽい所なんて、嫌だろ? 綺麗なダブルサイズのベッド、用意して待ってるよ。 僕の絢音──」
笠原絢音「総一郎さん・・・」
大八木総一郎「じゃあ、そろそろ行くね。 作業療法、頑張るんだよ? 「笠原さん」」
笠原絢音「・・・ハイ。 「先生」・・・」
  ──そうして、先に部屋を後にしていく総一郎の広い背中を見送りながら、絢音は手の中のカギをキュッと握りしめる。
笠原絢音「早く、早く、 冬に・・・ 来月に、ならないかな・・・」

〇田舎の総合病院
  ──そうして月日は流れ1か月。
  絢音の待ち侘びた冬が、退院の日がやってきた。
兵藤佳純「──じゃあ、笠原さん! 呉々も無理をせず、ゆっくり生活して行ってね!」
笠原絢音「はい!」
更科宮子「・・・・・・・・・・・・」
笠原絢音「? なあにみやちゃん。 私の顔に、なんかついとる?」
更科宮子「・・・・・・絢音ちゃん。あのな」
笠原絢音「あ! タクシー来た!! じゃあ先生!みやちゃん!! お世話になりました!!」
兵藤佳純「・・・笠原さんに、何を言いかけたの? 更科さん」
更科宮子「あ、や、その・・・ せ、先生実は!」
兵藤佳純「うん?」
更科宮子「・・・・・・・・・いえ。 なんでもありません。 その・・・笠原さん、絢音ちゃんは初めての受け持ちだったから、感慨深くて・・・」
兵藤佳純「そっかぁ・・・ 更科さん、今年入って来たばかりだもんね!! 良かったわね! 受け持ちの患者さんが元気に退院して!」

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