読切(脚本)
〇黒
2021年12月某日 日本 X市某所
〇通学路
リョウケ タダシ(6)
X市在住。小学一年生。両親と三人暮らし。素直で明るい性格。登校時は近隣住民への挨拶を欠かさない。
〇通学路
これが今回のターゲットだ
〇古めかしい和室
アルファ「質問は?」
ブラボー「よい子のお手本に見えるが」
ブラボー「親から「表」の方に配達依頼が出されていない理由は?」
アルファ「親が厳しいようだ」
アルファ「諜報部によるとタダシくんは今年一度だけ「ゲームは一日一時間」という家庭内ルールを破っている」
ブラボー「ふむ」
チャーリー「しかし約束は約束だろう。守れなかったタダシくんにも責任はある」
チャーリー「我々が動くほどの案件なのか?」
アルファ「もっともな意見だが、これを見てほしい」
〇黒
チャーリー「この少年は・・・・・・?」
少し前に転校したタダシの親友(貧乏)「・・・・・・」
ブラボー「少し前に転校したタダシくんの親友(貧乏)!?」
アルファ「彼の家は貧しくてな」
アルファ「ゲーム好きのコなんだが、彼の親は彼に娯楽品を買い与える余裕がなかった」
ブラボー「確かに生活必需品もままならないようだ。具体的には服だが」
アルファ「親友が転校することを知ったタダシくんはお別れの日、最後に大好きなゲームをたくさん遊んでもらおうと彼を家に呼んだんだよ」
アルファ「両親には黙って、な」
ブラボー「・・・・・・なるほど。タダシくんは親友に気を遣ったわけだ」
チャーリー「というと?」
ブラボー「もしタダシくんが一日のゲームの時間をめぐって親と対立してしまったら、親友は「タダシくんに迷惑をかけた」と思うかもしれない」
アルファ「ああ。そういう心配を取り除くべく、タダシくんは親に内緒で親友にゲームをさせてあげた」
アルファ「そして後から、ゲーム機の見守り設定をセットしていた母親にプレイ時間を見咎められ大目玉を食らったんだ」
チャーリー「なるほど。そこまでしたタダシくんが親友の名前を出すはずもなし、か」
チャーリー「親友の所為にはしないしさせないと」
アルファ「まさしく」
〇古めかしい和室
アルファ「説明は以上だ」
チャーリー「よく分かったよ」
ブラボー「やろう」
〇古めかしい和室
アルファ「ではブリーフィングに入る。まずはプレゼントの選定だ」
ブラボー「タダシくんの嗜好は?」
アルファ「諜報部の調べによると動物好きの少年とのことだ」
チャーリー「動物好きか・・・・・・」
チャーリー「しかし生き物を扱うことは「表」も「裏」も等しく禁止されている」
アルファ「仕方あるまい。秘密のプレゼントとするには不確定要素が多すぎる」
ブラボー「動物図鑑はどうだ?」
アルファ「タダシくんはY出版の動物図鑑とZ出版の恐竜図鑑、海の生き物図鑑を所持しているとのことだ」
アルファ「諜報部の報告だから確かだろう」
ブラボー「ふむ」
チャーリー「ぬいぐるみは?」
アルファ「三年前に祖父母から熊のぬいぐるみを贈られているが・・・・・・」
アルファ「それ以降の記録はないな」
ブラボー「いいじゃないか」
ブラボー「タダシくんの性格からして犬が好きそうだ」
ブラボー「犬のぬいぐるみにしよう」
チャーリー「異議なし」
アルファ「では調達部に手配しておく」
アルファ「次に当日の段取りを決める。解析班からの見取り図だ」
ブラボー「煙突はなしか。ノーチムニー」
チャーリー「二階のタダシくんの寝室には小窓が一つ」
チャーリー「ここからのアプローチは?」
アルファ「格子はないが幅が狭い。片側40センチってとこだろう」
ブラボー「我々の腹では無理だな」
アルファ「進入は難しいが、プレゼントだけをそっと投げ入れる選択肢はある」
ブラボー「なるほど」
アルファ「ただプレゼントは確実に枕元に届けるのが我々のモットーだ」
アルファ「窓からの投擲はプランBだろうな」
チャーリー「となるとエントリーは一階の窓からか」
チャーリー「タダシくんの部屋からは遠くなるが止むを得んだろう。正攻法でいこう」
アルファ「うむ」
入念なシミュレーションを重ねた会議は夜明けまで続いた
〇一戸建て
2021年12月24日 深夜
アルファ「こちらアルファ。1階リビングの窓前。配置についた」
ブラボー「こちらブラボー。屋根上。いつでも動ける」
チャーリー「こちらチャーリー。高台より二人の位置を確認した。バックアップに入る」
アルファ「作戦の最終確認だ」
アルファ「私が一階の窓からエントリーしそのまま階段を使って二階のタダシくんの部屋に向かう」
アルファ「その後、屋根上のブラボーから窓づてにプレゼントを受け取りタダシくんの枕元に置く」
アルファ「もしなんらかのアクシデントにより私がタダシくんの部屋までたどり着けなかった場合はブラボーが窓からプレゼントを投げ入れる」
ブラボー「了解」
アルファ「チャーリーは周囲への警戒と撤退ルートの確保を」
チャーリー「了解」
アルファ「よし」
アルファ「これより聖十字(セイントクロス)作戦を開始する!」
〇明るいリビング
???「わん」
アルファ「!?」
犬「わん」
アルファ「番犬だと!? ばかなっ」
ブラボー「おい、どうした? アルファ」
アルファ「犬がいる! 事前情報にはなかったはずだ!」
犬「わん」
ブラボー「なんだと!?」
アルファ「チャーリー! 解析班に連絡を! 今画像を送るっ!」
チャーリー「了解! 近隣のペットショップと保健所の情報を洗わせる! 一分くれっ!」
アルファ(くっ、想定外の事態だ・・・・・・)
犬「わん」
アルファ(見たところ成犬ではないようだ。まだ鳴き声が小さくて助かっているが・・・・・・)
アルファ「チャーリー! まだかっ!」
チャーリー「・・・・・・きたっ! X市のペットショップにデータがある! 血統書付きのポメラニアンだ! 生後6か月!」
チャーリー「購入者は・・・・・・」
チャーリー「リョウケ キヨコ・・・・・・タダシくんの母親だっ!」
アルファ「!」
「!」
アルファ「そういうことか・・・・・・」
ブラボー「サンタは生き物を届けることはできない・・・・・・「表」も「裏」も」
チャーリー「はっはっは。なんということはない。親はしっかりと子を見ていたということか」
アルファ「ふっ」
アルファ「こちらアルファ。現場から離脱する。作戦中止だ」
ブラボー「ブラボー了解。同じく離脱する」
チャーリー「こちらチャーリー。作戦の中止を了解」
チャーリー「撤収後シャンパンでの乾杯を提案する」
ブラボー「そいつはいい」
アルファ「アルファ了解。帰りにコンビニに寄るとしよう」
アルファ(帰ってからぬいぐるみの置き場所を考えねばな)
〇黒
犬「わん(おしまい)」
タダシくんいい子ですね!
サンタさんたちも上手く連携を取っていて、本当にプロの仕事です。
お母さんも厳しいようでいて、ちゃんと子どものことを見ているんですね。
心が和みました。
組織的なサンタクロースで少し夢から離れたような雰囲気をもちながらも、『プレゼントは枕元に・・』という、さすがの配慮はさすがですね。綿密なデータに基づいての彼らの仕事に感動です。
子供にプレゼントを届けるだけでも本気になれる、なんだか海外の軍隊のようなユーモアを感じました!
プレゼント投下…着弾!今!のような掛け声も想像できてしまいます笑