〇綺麗なキッチン
　　今日はクリスマスイブ──の前日。つまり12月23日である。
主人公「ふっふふーん」
　　私は今、サンタクロース業務を担う彼らに渡すためのクッキーを作っていた。
　　クッキーは動物の形がメイン。
　　犬や猫の定番や、トナカイやサンタさんのようなクリスマスならではのモチーフもある。
主人公（ま、単なるプレゼントじゃなくて、必要アイテム？ってところなんだけどさー）
　　私は不思議な能力があった。
　　私が作った動物クッキーを食べた者は、そのクッキーと同じ動物になってしまう能力。
　　ハートや星の形では、何も起きないのだけれど、動物の形だと変身してしまうのだ。
　　しかし、それを活かして、動物を人に変身させて、サンタクロースとして働いてもらうために動物クッキーを作っていたのだ。
「う、うほおおおおおお!?」
　　響き渡る野太い雄叫びに、洗い物をしていた手が止まる。
「うほっうほー！」
ルドルフ「うほっ、うほうほー!? （た、助けてくれー!?）」
主人公「ご、ゴリラ!? ま、まさか、もしかして・・・」
ルドルフ「うほっ、うほほーっ、うほっ？ （ちょっと、味見した、みたいな？）」
　　不幸中の幸いか。
　　私には、クッキーを食べて変身した動物の言葉が分かるのだ。
　　逆を言えば、話が通じる動物は、私のクッキーを食べた犯人、というわけで・・・。
主人公「なるほど？ 美味しい匂いに釣られて、私のクッキーを食べた間抜けな動物ね？」
ルドルフ「う、うほほー・・・。 （そ、そうです・・・）」
　　ため息をついて、彼の話を聞くことにした。

〇クリスマスツリーのある広場
ルドルフ「はぁ〜」
　　俺の名前はルドルフ。
　　ここ数年、ずっとサンタクロース業務の経験がある、ベテランの部類だ。
　　田舎から来た俺にとって、クリスマス一色に染まる街を見たのは初めてで。
　　鮮やかなイルミネーションに、笑顔で行き交う人々・・・
　　それを見るだけで、気分が高揚した。
　　でも、美しい光景に目を奪われたのは最初の年だけだった。
「お母さん、アレ欲しい！」
「君とクリスマスを過ごせて嬉しいな」
「帰ったらケーキ食べようね！」
　　次第に、クリスマスを楽しむ人たちが羨ましくなったんだ。
　　自分は、クリスマスなんて知らなかった癖にな。
　　そこで、俺もクリスマスを誰かと過ごしてみたくて。

〇綺麗なキッチン
　　今日はクリスマスイブ──の前日。つまり12月23日である。
主人公「ふっふふーん」
　　彼女は今、サンタクロース業務を担う彼らに渡すためのクッキーを作っていた。
　　そのクッキーがここで作られていることを知って、ここまで来てしまった。
ルドルフ（これが、動物変身クッキー・・・）
　　自分はそこにあった中で、最も人の形に近い動物クッキーを口にして──
ルドルフ「う、うほおおおおおお!? （ご、ゴリラああああ!?）」
　　・・・
主人公「計画的犯行だったなら、尚更タチが悪いわよ」
　　クッキーの生地をこねながら、彼の、ルドルフの言い分を聞いた感想がするりと口から零れた。
ルドルフ「うほぉ、うほほーっうほっ？ （まさか、ゴリラ型とは思わなかった）」
ルドルフ「うほほほっ、うほほっうほほー。 （一度で良いから、食べてみたかったんだ）」
主人公「待って。 あなた、サンタクロース業務なのに食べた事がないの？」
ルドルフ「うほっ、うほほっほうほうほ、うほ？ （あぁ、俺トナカイだもん、なぁ？）」
主人公「トナカイ!?」
　　なるほど。
　　サンタクロース業務にあたるために、クッキーを食べた動物たち。
　　彼らは数日前から人型クッキーを食べて、ほんの少しの人間生活を楽しむ期間があると聞いたことがあった。
　　元々トナカイの彼は──
主人公「──分かったわ」
ルドルフ「うほっ？ （んっ？）」
主人公「今夜は私がサンタクロースよ。 ・・・人型のクッキー、焼いてあげる」
ルドルフ「うほっ!? （良いのか!?）」
主人公「ただし、クリスマスイブにはトナカイの動物クッキーを食べる事。 ・・・約束出来る？」
ルドルフ「うほっうほほー！ （あぁ、ありがとう！）」
　　・・・

〇クリスマス仕様のリビング
ルドルフ「おはよ、お寝坊さん」
　　ソファでウトウトしていた私は、聞きなれない声に目を覚ます。
　　昨日、ゴリラ──じゃない、トナカイのルドルフが人型のクッキーを食べて人間に変身した。
　　しかし、泊まる場所がなかった彼を、私の自宅の客間に通したんだ。
主人公「お、おはよう。ルドルフ・・・さん？」
ルドルフ「ルドルフで良いよ。 ──ホントに、クッキーありがとうな」
　　ルドルフはいたくクッキーを気に入ったようで、人に変身した後も、ハートの形のクッキーをパクパクと食べていた。
ルドルフ「また、来年も作ってくれるか？ その、なんて言うんだっけ、あれ」
　　昨日も聞かれたその質問に、クスリと笑いながら頷く。
主人公「ジンジャーブレッドマンだって」