フシンのサンタ

藍の雪

フシンのサンタ(脚本)

フシンのサンタ

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フシンのサンタ
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〇クリスマス仕様の畳部屋
  クリマス明けの朝は凍るような寒さだった
おやじ「トミノブー!」
おやじ「おーい!トミノブー!」
  俺はしょうがなく返事をする
  なにー?
おやじ「ほらっ  サンタさんからのプレゼントだぞ〜」
おやじ「良かったなぁ」
  それは、本当に欲しいものではなかった
  結果、口が滑った
  ありがとう
  お父さん
  あの時の父親の顔はひどく寂しげだった

〇ファミリーレストランの店内
職員「三田さん!」
職員「聞いてましたか?三田さん!」
  はい?
  気を失いかけたのはいつぶりか?
  もう一度、お願いしても?
  お陰で、もう忘れたと思っていた幼い記憶が想起された
職員「ですから三田さんには」
職員「サンタとして働いていただきたいんです」
  この不審な勧誘を受けたせいで・・・

〇クリスマス仕様の畳部屋
  『フシンのサンタ』

〇大学病院

〇大きい病院の廊下
  病院の廊下を幼い子供らが走っている
  俺はあたりをキョロキョロと見渡す
看護婦「あの〜」
看護婦「何かお探しでしょうか?」
  あ、いえ
  ・・・ええと
  三田由良の部屋がこの辺だったと思うんですけど
看護婦「・・・ユラさんなら7階の124室に移動になりましたよ」
  ・・・
  そう、ですか

〇病室のベッド
三田由良「あれ!?」
三田由良「パパ 今日会える日じゃないじゃん」
  ちょっとな
三田由良「も〜 ママにはナイショにしてあげるから」
  ユラは俺の座るべき位置に手をぽんぽんとする
三田由良「で?何のご用?」
  随分と昔の妻に似てきた
  ほらっ
  ケーキ買ってきたぞ
  明日はクリスマスだろっ
三田由良「うっわ」
  なんだ?イチジクのケーキ嫌いか?
三田由良「ここじゃ食べられるもの決まってるの!」
  ・・・そうなの
三田由良「はぁ」
三田由良「だからダメなんだよ パパは」

〇ファミリーレストランの店内
  なんですかこれ?
職員「イチジクのクッキーです どうぞ」
  ファミレスのテーブルの上に直置きするのはあれなので、さっさと口にしまう
職員「それで、サンタの件なのですか」
  はぁ
職員「今年から日本にも公益社団法人ミラビリスを設立する動きがありまして」
職員「プレゼントを配達していただけるサンタ役の方々を募っているんです」
  店内は客の話し声で溢れ
  ウェイターも通路を頻繁に往来している
  いいんですか?こんな場所でそんな話
職員「大丈夫です 軽く認識阻害していますので」
  スーツ男はテーブル脇のスノードームを指差す
  ・・・ハイテクですね
職員「それに、三田さんが誤って情報を口外しようとしましても、マイクロマシンがここ数日の記憶を消去いたします」
  はい?マイクロ?
職員「先程のイチジクです」
  ・・・
ウェイトレス「パフェお待たせしました〜」
  首ほどの高さがあるパフェがテーブルに乗る
職員「どうぞ お食べになってください」
  ・・・
  ほんとに私なんですか?
職員「そうですが?」
  どうにも身に覚えが
  スーツ男は手元の資料をめくり
職員「三田富信さん。32歳」
職員「運送業の経験あり」
職員「現在無職」
職員「奥様とはご離婚」
職員「ご病気の娘様がおひとり」
  もう、
  結構です
職員「この仕事に必要なのは 聖人ニコラウスになることではありません」
職員「サンタとして配達業務に勤めることだけです」
職員「給与もサラリーマンの平均年収は優に超えています」
職員「三田さんにとっても、いい話だと思いますよ」
  そう、言われてましても・・・
  今、情報量が多くて・・・・・・
職員「わかりました」
職員「ではクリスマスイブ、明日の13時まで返答をお待ちします」

〇病室のベッド
三田由良「そしたらミホちゃんがね サンタさんにお礼したいからって靴下に一万円入れててね」
  病院での日々を快活に語る娘
  その隣のベットには
  そんな娘といくつも変わらない少女が横たわっている
  ベット横の点滴器具の金具には
  おそらく手編みであろう靴下が下がっていて
  点滴のチューブをたどった先にある彼女の手には、銀色のロザリオが握られている
  何がサンタさんだ
  どんなにいい子でいたとしても
  真実、あんなことじゃ
  彼女らが一番欲しいものをプレゼントされる日は来ない
  やっぱり、クリスマスはただの茶番だったんじゃないか
三田由良「パパ?」
  ん?なんだ?
三田由良「なに考えてるの?」
  ・・・えっとな
三田由良「きもち悪いよ」
  え?
三田由良「そのにやけ顔!」
三田由良「きもち悪いって」
  そりゃ笑いたくもなるだろうよ
  あんまりにも不条理だ
  こんな俺がサンタに選ばれたのも
三田由良「どーせ、ろくでもないこと考えてるんだ」
  ・・・
  お前たちはサンタ、好きなのか?
三田由良「ん?好きだよ」
三田由良「前住んでたとこの近所のデパートのサンタさんとかね」
  いや、そういうことじゃ
三田由良「あと、遊園地のサンタさんもアトラクションのタダ券くれたから好き」
  タダ券・・・
三田由良「あの時だよね、12月なのに雪が降ったの」
  そうだったか
三田由良「ほらっ、ママがすべってイナバウアーになったの」
  思わず鼻から息が漏れる
三田由良「あっ、でもなー」
  娘が急に頭を抱えた
  どうした?
三田由良「おじいちゃんの正月サンタはあり?」

〇広い畳部屋
サンタ「メリー!あけましておめでとう!!」
サンタ「はい、お年玉」

〇病室のベッド
  あいつ、めちゃくちゃだ!
  埃で咳きこむくらい、ベットを叩きまくり
  2人で大笑いした
三田由良「あっはっはっはっは」
  はっはっはっはっは
三田由良「あーははははははは」
  はーははははははは
  それで少し看護婦さんに睨まれた
三田由良「また会いたかったなぁ〜」
  ああ、でもそうなのか
  なあ、ユラ
三田由良「なに?パパ?」
  茶番だからこそ、なのか
  俺な
  サンタになってみようと思う
三田由良「へ?」
  今度は役になりきってみせる
  そう口にせず、呟く
三田由良「え?ドユコト?」
  俺は晴れ晴れした気分で、伸びをした
  ふと、ケーキの箱が目に入る
  あっ
三田由良「?」
  イチジクッ
  気を失った

〇クリスマス仕様の畳部屋
  「ありがとう」
  「サンタさん」
  俺の1番欲しいものを
  プレゼントしてくれなかった
  サンタさんへ
  ──
  母さんを
  俺にくれなかった
  サンタになろうとした彼へ
  よいクリスマスを

コメント

  • 主人公が子供の頃プレゼントしてほしかったものが母親というのが切なくも本当にサンタクロースに夢をみる子供心が伝わりました。そういう彼だからこそ、子供達の本心が分かるのでしょうね。

  • 娘さんに笑顔を与えられる、素敵なサンタさんですよ!
    子どもによって事情は違うと思うんですが、みんなサンタさんを待ってるんですよね。
    プレゼントをもらうと「忘れられてなかった」って気持ちになれると思うんです。

  • 子供の頃のクリスマスの楽しみといえば、プレゼント!
    でも頼んだものとは違うものが結構来ましたが…笑
    子供の頃これ頼んだものじゃない!って両親に言ったこと、今でも後悔してます…。

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