どうする?(脚本)
〇フェンスに囲われた屋上
──屋上──
乙女「なぁ、相棒」
乙女「前から思っていたのだが・・・」
乙女「ウチらが乙女ゲームに転生するの」
乙女「ハードモードすぎやしないか!?」
愛子「はぁ?」
乙女「悪役令嬢モノってジャンルがあるだろ?」
愛子「あぁ、うん」
愛子「乙女がよく読んでるやつね」
愛子「最近、広告でもたまに見るわ」
乙女「そう、アレってさ」
乙女「現実にはあんまり無いポジションじゃん」
乙女「あ、乙女ゲームのキャラとしてって意味でね」
乙女「ってことはさ」
乙女「私達は悪役令嬢に転生する可能性が低いし」
乙女「ヒロインもしくはサポートキャラにしか」
乙女「転生出来そうにないってことでしょ」
愛子「うん、まぁ・・・」
愛子「でもそれって良いことなんじゃないの?」
愛子「ある程度の好感度がある状態から」
愛子「攻略対象と関われるんだし」
乙女「・・・この世にある乙女ゲームが」
乙女「等しく平和な世界なら、ね」
愛子「はぁ?」
乙女「私が過去にプレイしてきた乙女ゲームに」
乙女「そんな平和で最初から甘い雰囲気のモノなど」
乙女「ほぼ有りはしないんじゃ!!」
愛子「いや、それは乙女の趣味のせいでしょ」
乙女「というわけで」
乙女「私が今までプレイした乙女ゲームの中で」
乙女「転生したくない主人公を紹介させてもらおう」
愛子「お、おう・・・」
乙女「あくまでもランキングではなく紹介で」
乙女「多少の偏見や自己解釈が混ざるのは」
乙女「どうか許していただきたい」
愛子「いや、誰に言ってんの?」
〇洋館の廊下
エントリーナンバー1番
『吸血鬼に血を吸われるやつ!!』
乙女「いやー、ホント」
乙女「これを抜きにしては語れませんな」
乙女「その界隈では」
乙女「『人権が無さすぎる』」
乙女「『主人公マジで逃げろ』」
乙女「『うるせぇぞ、マザコン共!!』」
乙女「と、言われてることで有名なやつです」
愛子「いや、最後のだけテイスト違くない?」
乙女「いやいや、一回ゲームをプレイするなり」
乙女「コミカライズを読んでみたらわかるよ」
乙女「マザコン扱いされる意味が」
愛子「そうなんだ・・・」
乙女「このゲームの主人公になりたくない理由」
乙女「それは、置かれている立場のヤバさ!!」
乙女「というか尊厳とか自由が無さすぎる!!」
乙女「なんなら初めっから扱いが酷い!!」
乙女「家畜だの、エサだの、チチナシだの・・・」
乙女「好き勝手に呼びやがる上に」
乙女「所構わず襲ってきては血を吸い」
乙女「主人公が貧血になっても血を吸い」
乙女「挙句の果てには母親の面影を」
乙女「主人公に重ねてくる始末」
乙女「なんだったらルートによっては」
乙女「攻略対象の母親になったり」
乙女「身体が麻痺して視力まで失うのもあるからね」
愛子「なんか思った以上にヤバいな」
乙女「しかも赤ちゃんの頃から」
乙女「設定が組み込まれているので」
乙女「前世の記憶が何歳で戻ったとしても」
乙女「ほぼ詰んでる!!普通の生活は望めない!!」
乙女「・・・というわけで」
乙女「いっそ悪役令嬢が出てきてほしいくらい」
乙女「このゲームの主人公には転生したくない」
愛子「まぁ、そうだろうね」
乙女「ちなみに攻略対象の親もわりと最悪なので」
乙女「結婚しても幸せなビジョンが浮かばないし」
乙女「主人公の親も頼りにならないから」
乙女「いざ転生したら即座に死のうと思います」
乙女「それが唯一の逃げ道かもしれない・・・」
愛子「なんかずっと怖いな」
〇華やかな裏庭
エントリーナンバー2番
『不思議の国のアリスがモチーフのやつ!!』
乙女「弾丸が飛び交う・・・のやつだよ」
乙女「これに関しての1番の悲しみは」
乙女「作ってた会社が潰れて別の会社が引き取ったことかな」
乙女「ストーリーとか主人公の設定が」
乙女「大幅に変わらないように祈るしかない」
乙女「たぶん大丈夫だとは思うけど」
乙女「このゲームはとにかく主人公にクセがあって」
乙女「界隈でも好き嫌いが別れるキャラでもある」
乙女「っていうのが特徴だから」
乙女「転生した時のプレッシャーは凄まじいはず」
愛子「あっ、今度は主人公に問題があるんだ」
乙女「問題っていうか、王道から外れてる感じ」
乙女「普通の主人公に比べたら」
乙女「なんていうか、気が強くてひねくれてる」
愛子「ふーん」
乙女「なりたくない理由としては」
乙女「そもそも世界観が安全じゃない!!」
乙女「倫理観も常識も攻略対象と合わない!!」
乙女「初っ端から失恋してる!!」
乙女「っていうのがあるね」
愛子「待て待て、失恋?」
愛子「攻略対象に一回はフラれるってこと?」
乙女「いや、攻略対象では無いんだけど」
乙女「ずっと好きだったお兄さんが」
乙女「主人公の姉と恋仲でモヤモヤしてるとこから」
乙女「いきなり別の世界に行って」
乙女「そのお兄さんに顔がソックリな男と会い」
乙女「失恋の傷口が痛む・・・みたいな」
愛子「本編前に失恋するなよ、やりずらいわ」
乙女「それ、プレイヤーが言いがち」
愛子「あと、ちょっとお姉ちゃんが心配になる」
乙女「それは、うん・・・」
乙女「ルートによっては元の世界に帰れるから」
乙女「・・・バドエンだと主人公死ぬけど」
愛子「じゃあダメじゃん」
乙女「まぁ、帰りたいかはともかく」
乙女「帰れる家があるだけマシということで」
乙女「だいたいの攻略対象に親は居ないから」
乙女「気にすべきは自分だけってのは」
乙女「ある意味、いいことなのかもしれないね」
〇広い和室
エントリーナンバー3番
『戦う新撰組のやつ』
乙女「そもそも舞台が幕末な時点で」
乙女「だいぶ、いや・・・かなり嫌だ」
乙女「鬼とか関係ないところで生きていたい」
乙女「でも転生にはそんなの関係ないか・・・」
乙女「このゲームの主人公は」
乙女「そもそも血筋からヤバいので」
乙女「生まれた時点で詰んでるし」
乙女「ある方とのルートがそれを理由に」
乙女「絶対に存在するのが難点だね」
乙女「もう自覚した時点で逃げようが無い」
乙女「そのせいで主人公に優しくしてくれた人も」
乙女「傷ついたり、死んでしまうから」
乙女「やっぱり本編前に死ぬしかないな」
愛子「思い切りが良すぎる・・・」
乙女「開始時点では主人公のお父さんも行方不明だし」
乙女「友達も仲間も犠牲にしたくない以上」
乙女「たぶんその方が平和なのが悲しいね」
乙女「なので私は、この主人公にもなりたくない」
愛子「そっか・・・」
乙女「ちなみにルートによっては」
乙女「攻略対象との間に子供が生まれるんだけど」
乙女「この子も同じ運命を背負ってるんだよな、と」
乙女「勝手にシリアスな気持ちになったりもする」
乙女「よくよく考えたら・・・」
乙女「子供が大きくなる頃にまた騒動が起きて」
乙女「大変なことになるかもしれないのに」
乙女「主人公的に大丈夫だったんだろうか?」
乙女「お父さんが頑張ってくれるといいけど」
乙女「たぶん長生きは難しそうだし・・・」
愛子「そこはゲームだし大丈夫でしょ」
〇シックなリビング
エントリーナンバー4番
『いきなり兄弟が十人以上出来たやつ』
乙女「これは舞台が現代社会だし」
乙女「人が死なないから圧倒的に平和だよ」
乙女「攻略対象とも話が通じるからね」
愛子「もう基準がおかしくなってる・・・」
乙女「問題は攻略対象がみんな兄弟ってことかな」
乙女「乙女ゲームの主人公じゃなくても」
乙女「兄弟がいきなり十人以上増えるのは」
乙女「マジで辛いからね」
乙女「しかも攻略対象には同級生も居るし」
乙女「上の方の兄弟だと十五歳くらい歳が離れてたりするから」
乙女「安心安全な生活でもないっていう」
乙女「あとね、ペットのリスが」
乙女「神谷浩史の声で喋るのも地味に辛い」
乙女「ぜっったいに人間体になりそうなやつと」
乙女「一緒にお風呂とか入りたくない」
愛子「あー・・・」
愛子「それはイケメンになりそう」
乙女「・・・ってことで」
乙女「下手したら家庭内修羅場が起きそうだし」
乙女「兄弟との距離感を掴むだけでも苦労するから」
乙女「主人公になりたくないな」
乙女「義理の母親が別の意味でも義理の母親になるのも」
乙女「楽に見えるかもしれないけど」
乙女「将来のことを考えると止めておきたいし」
愛子「親の存在が今までで1番重いな」
〇フェンスに囲われた屋上
乙女「さて、いろいろ紹介したわけですが」
乙女「転生してもいいと思えるような」
乙女「乙女ゲームはあったかな?」
愛子「あるわけないだろ!!」
乙女「だよねー・・・」
愛子「はぁ・・・もっと平和なゲームをしなよ」
愛子「人が死なないようなやつ」
乙女「まぁ、そういうのもやらなくはないんだけど」
乙女「男子校に一人だけ女子で入学したり」
乙女「イケメンな生徒に手を出してみたり・・・」
乙女「でも、なんか物足りなくて」
愛子「やっぱり乙女の性癖の問題なんじゃん!!」
乙女「うぐ・・・っ」
乙女「それはそうなんだけどさ」
愛子「乙女ゲームの主人公に転生出来るかの前に」
愛子「主人公と同居も居候もしていない」
愛子「正真正銘の人間を愛せるようになれよ」
乙女「はーい・・・」
乙女(・・・ってあれ?)
乙女(私、全部同じ家に住んでるとは言ってないよね)
乙女(義理の兄弟のやつから連想したのかな)
乙女(あと攻略対象が人間じゃないのも一つしか明かしてないよね?)
乙女(一個に釣られて・・・って言うには)
乙女(変な言い方だなぁ・・・)
愛子「ちなみに、私は・・・」
愛子「ディアラヴァと薄桜鬼は」
愛子「まぁまぁストーリーが進んでから」
愛子「バッドエンドを選びたい派だよ」
乙女「お前も乙女ゲームやってんじゃねぇか!!」
──完──
この作品は、乙女ゲームに転生するという設定で、リアルであったら絶対あり得ない状況に置かれる主人公たちが繰り広げるストーリーです。登場人物たちの愛らしさや、独特の世界観が魅力的で、一度読み始めたら止まらない作品です。特に、攻略対象たちとの恋愛模様が、ドキドキさせられるものばかりです。ただし、主人公たちが置かれている状況は、時にハードすぎるものです。それでも、主人公たちが必死に立ち向かっていく姿には、感動を覚えます。この作品を読めば、乙女ゲームに転生してみたいという気持ちが芽生えるかもしれません。
乙女ゲーとか詳しくないので「そうなんだー、なるほどー」と感心しながら読んでいましたが、「ペットのリスが神谷浩史の声が地味に辛い」のだけは共感できました。自分も乙女ゲーやってるのに乙女の長い妄想の聞き役に徹して最後にド正論でトドメを刺す愛子ちゃんは優しいのかドSなのか。いずれにしても羨ましい友人関係だなあ。
転生するとしたらやっぱり今以上に楽しく刺激的に暮らせる状況を選びたいものですね。それか、とことん難関なストーリーに身をおいて自分試しをするのもありかも!と思いました。