ハッピーメリークリスマス!

マシュウ

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〇書斎
浩太「はぁ・・・・・・」
  サンタさんへ
  
  ママに会いたいです       自由より
浩太「こんなの、どうすればいいんだよ・・・・・・」
浩太「町子・・・・・・」

〇幻想
  今から10年前。
  俺は幼馴染の町子と結婚した。
  彼女は行事が好きで、中でもクリスマスが好きだった。
  自由が生まれてからは、クリスマスは毎回華やかだった
  クリスマスは我家にとって、一番の楽しみになった。

〇血しぶき
  ——あの日が来るまでは。
  町子はクリスマスの料理を買った帰りに事故にあった。
  頭部を強く打ち、病院へ運ばれたが・・・・・・ダメだった。
  そして俺たちは、初めて町子がいないクリスマスを迎えようとしていた。

〇ファンシーな部屋
  クリスマス。俺は自由の部屋に忍び込んだ。
  目的はもちろん、『プレゼント』を置くためだ。
浩太「よし・・・・・・」
  小型のスピーカーを仕組んだ。
  自由のプレゼントは『ママ』だ。
  そんなのできっこない。町子はもう・・・・・・
  だけど、町子が伝統にしてきた『サンタのプレゼントはどんなものだろうと叶える』を守りたい。
  だから、こそ俺は町子の録音をかけることにした。
  幸い、町子は動画好きで、肉声なら沢山残っていた。
  それを録音した声を、明日の朝6時にかける。
  そうすれば、ママのモーニングコールの出来上がりだ。
  あとは、目覚ましを切って・・・・・・・・・
浩太「よし」
  自由にスピーカーの存在を気づかれないように祈るばかりだ。
  残念ながら、俺にはこんな愚策しか浮かばない。
  町子・・・・・・お前だったらどうした? 俺は、どうしたらいい・・・・・・?

〇おしゃれなリビングダイニング
自由「パパ、おはよう!」
自由「聞いて! 聞いて!」
自由「朝、起きたらママの声が聞こえたの!」
浩太「・・・・・・」
浩太「ほ、本当かい? 何を言っていたんだ?」
自由「『ハッピーメリークリスマス!』だって!」
自由「サンタさんが願いを叶えてくれたのかな?」
浩太「・・・・・・うん、きっとそうだよ」
浩太「自由はママとパパにとって、自慢の娘だ」
浩太「だから、サンタさんは願いを叶えてくれたんだ」
自由「本当!?」
自由「じゃあ、私もっといい子になる!」
浩太「・・・・・・うん、頑張れ」
  胸が酷く痛かった。
  気持ち悪かった。
  たぶん、自由がいなかったら吐いていただろう。
  俺はそれを胃の中に無理やり押し込んだ。
  俺はサンタなのだから。

〇おしゃれなリビングダイニング
  自由にサンタの正体がバレることはなかった。
  だが、自由は毎年『ママ』と書く。
  だから、俺は胃を抑えつつスピーカーを置き続けるしかなかった。
  毎年、毎年、毎年・・・・・・。
  それは無限地獄に近かった。
  唯一の救いは自由が喜んでくれたこと。
  その笑顔を守るために俺は、嘘をつき続ける。
  小学生が終わるタイミングで、打ち明けようとも考えた。
  だが、いざそれを言おうとすると口が開かない。
  そして、来年こそ。来年こそとズルズル先送りにし、気が付くと自由は中学3年生になっていた。
  結局、俺は中学校2年生までサンタをしてしまったのだ。
  自由はというと、グングンと学力を伸ばし、推薦で有名高校の入学が決まった。
  来年からは寮暮らしなので、実質今年が最後のクリスマスだ。
  今日こそ切り出さなければならない・・・・・・!
  俺は、何度もそう言い聞かせた。
浩太「自由。話があるけどいいかな?」
自由「うん。どうしたのパパ?」
浩太「実は・・・・・・いや、その前に——」
浩太「自由は・・・・・・サンタさんはいると思うか?」
自由「急にどうしたの?」
浩太「いや、どうなのかなと思って」
自由「友達は信じてないけど・・・・・・」
自由「私は、いると思うよ」
自由「だって、ママを呼んでくれるなんてサンタさんじゃないとできないよ」
浩太「・・・・・・」
浩太「そうか・・・・・・来るといいな、サンタ」
自由「うん!」
  結局、この日も俺は・・・・・・言えなかった。

〇書斎
  言えなかった。最後の最後まで。
  だが、言わないといけない。
  もしも、来年も町子と会えることを楽しみにしていたのに、会えなかったら・・・・・・
  それが、俺による嘘だって気が付いたら。
  俺は・・・・・・自由に合わせる顔がない。
  だが、俺にそんな勇気はない。
  だから、気が付いてもらうことにした。
  今日は、スピーカーを仕掛けない。
  そうすれば自由はサンタが来ないことに気が付く。
  その時に俺が真実を話す。それしかなかった。
  明日のことを考えると、今夜は寝付けそうになかった・・・・・・。

〇書斎
浩太「うーん・・・・・・?」
  気が付いたら朝になっていた。
自由「パパ、おはよう」
浩太「・・・・・・おはよう」
自由「今日、遅いね。先行くよ」
自由「パパ、今までごめんね」
浩太「え、ちょっと——」
  自由はあっという間に行ってしまった。
浩太「はぁ・・・・・・」
浩太「あれ?」
  プレゼントが置いてあった。
浩太「なんだこれ?」
浩太「スピーカー?」
  再生ボタンを押してみる。すると——
  『ハッピーメリークリスマス!』
  それは、確かに自由の声だった・・・・・・
浩太「ああ・・・・・・メリークリスマス」
  気が付くと俺の目から涙が出ていた。
  その後自由とお互い謝り、いつ気が付いたのかを聞いた。
  中学にあがってから気が付いたらしい。
  それでも、気を遣ってくれた俺のために嘘をついていたそうだ。
  お互いがお互いに嘘をついていたのだ。
  だが、これでちゃんと伝えることができる。
  ハッピーメリークリスマスと。

コメント

  • 万国共通、サンタクロースは存在するか否かは永遠のテーマですね。クリスマスの日に母親を亡くした自由ちゃんならなおさら、サンタクロースを通じてママに逢えると思いたかったでしょうね。優しい父親の愛が、まさにクリスマスプレゼントですね。

  • 親子愛を感じる温かなお話でした。
    みんな徐々に存在に気づくものですが、子供の夢やほしいものって結構大人に対してトゲがささるようなことってありますよね。
    でもそれを叶え続けたお父さん、立派だと思いました。

  • お父さんと娘さんの温かいお話ですね。
    娘さんも気づいていながら黙っていたのは言い出せない優しさで、お父さんもその優しさ故に言い出せなかったんですよね。
    お互いの優しさにお互いが救われてる気がしました。

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