Prologue 選ばれし少年―運命の出会い―2(脚本)
〇荒廃した教会
何だかわからないまま彼女と逃げ続けて数分。気付いたら教会へ戻って来ていた。
???「はぁ・・・ここまでくれば・・・大丈夫・・・な筈」
立ち止まりながら呼吸を整える彼女に対し、俺は座り込んでしまった。
五歛子(ゴレンシ)「はぁはぁはぁはぁ・・・一体何なんですか!」
思わず叫ぶように言う。
そんな俺に呼吸を整えた彼女は静かに語り出した。
???「驚かせてすみません。わたくしは・・・苺(イチゴ)と申します」
苺(イチゴ)「少々事情がありまして・・・今、良くない存在に追われているのです」
苺(イチゴ)「そんな時、貴方様が向かってくるのが見えて・・・危険に晒す訳にはいかないと思い、こうして一緒に来て頂きました」
苺(イチゴ)「この場所なら恐らく・・・神様が守って下さるでしょう」
五歛子(ゴレンシ)「・・・どういう事ですか?」
訳がわからず訊く俺に・・・彼女は溜息を吐いてから言った。
苺(イチゴ)「本当は全てお話ししたい所ではありますが・・・そうなると貴方様を危険に晒してしまう」
苺(イチゴ)「だからお話出来るのはここまでなのです・・・申し訳ありません」
言いながら彼女は頭を下げ、それから俺に背を向けた。
そのまま教会の外に向かって歩き出そうとする彼女の腕を掴み、慌てて止める
五歛子(ゴレンシ)「ちょっと待ってください、どこに行くんですか!」
五歛子(ゴレンシ)「ここが安全なんですよね。それならあなたもここに居れば良いじゃないですか」
振り返った彼女は・・・悲しそうな瞳で俺を見る。しかし毅然とした口調で言い切った。
苺(イチゴ)「それは出来ません」
五歛子(ゴレンシ)「どうしてですか。今危ないのはどう考えても俺じゃなくて、あなたの方ですよね?」
苺(イチゴ)「あのものを・・・倒さなければなりません。それがわたくしの使命ですから」
悲しい瞳のまま彼女は告げた。
そんな彼女を見てこのまま行かせる訳にはいかない、と・・・どうしてか俺は思った。
五歛子(ゴレンシ)「・・・それがあなたの使命だって言うのなら・・・俺も一緒に戦います!」
気付いたらそんな発言が口から出ていた。
苺(イチゴ)「な、何を仰るのですか!?」
驚いた様子の彼女にハッキリと告げる。
五歛子(ゴレンシ)「あなたは俺を助けようとしてくれた。だから俺だって・・・あなたを助けたい」
五歛子(ゴレンシ)「これも何かの縁でしょ? 困った時は助け合いましょうよ」
苺(イチゴ)「でも・・・どうやって?」
彼女は言いながら心配そうに俺を見つめた。
確かにどう見ても俺は武器になるような物を持っていない。
五歛子(ゴレンシ)「それは・・・」
そう漏らすしかなかった。だけどどうしても彼女を守りたい。何故かそう思う気持ちはあって・・・。
五歛子(ゴレンシ)(俺に何か・・・出来る事は・・・)
必死に考えようとした時だ。
「ドコだ? ドコに居る?」
あの悍ましい声が聞こえた。
苺(イチゴ)「タイムリミット・・・ですね」
苺(イチゴ)「有難う、気持ちだけ頂いておきます。でもあれと戦うのはわたくしの使命ですから」
苺(イチゴ)「大丈夫。貴方をこの町の人達を・・・危険には絶対晒しません」
言いながら彼女は俺の手を優しく解き、教会の出口へとゆっくり向かう。
五歛子(ゴレンシ)(くそっ! 俺に何か力があれば!!)
彼女の後ろ姿を見送るしか無い無力な自分に・・・腹が立った。
五歛子(ゴレンシ)(どうして俺は・・・大事な時に何にも出来ない)
思い出したのは祖母が亡くなった時の事。
事故死で処理されたが、彼女は明らかに人では無い何かの牙で・・・バラバラにされていた。
五歛子(ゴレンシ)(力が・・・力が欲しい。目の前の人だけでも守れる・・・そんな力が)
そう強く願った時だった。
「そなたの願い、確かに受け止めたぞ」
脳裏に直接響く声。だけど確かに悍ましい化け物とは違った声だった。
同時に眩い光が辺りを包み、眩しさに目を細める。
その光が穏やかになった時、金髪の幼女が目の前に現れていた。
???「妾の名の許、そなたに力を授けよう」
五歛子(ゴレンシ)「あなたは・・・?」
思わず問い掛ける俺に、幼女は呆れたように言った。
???「何を言うておる。 毎日毎日妾に会いに教会に通って来ているのはそなたの方だろうに」
その言葉で俺の頭に浮かんだのは・・・この教会の守り神の名前だった。
五歛子(ゴレンシ)「まさか・・・檸檬(レモン)様?」
信じられない思いで呟くように言えば・・・・・・彼女は満足げに微笑んだ。
檸檬(レモン)「いかにも。ふっ・・・わかっておるではないか。 そんなそなたへこれは礼じゃ。有難く受け取るが良いぞ」
檸檬様がそう言ったと同時に俺の前に大剣が出現した。
重たそうに見える大剣なのに・・・柄に触れると驚く程手に馴染む。不思議と重量は一切感じなかった。
檸檬(レモン)「それがそなたの魔力の宿る武器・・・依代(よりしろ)じゃ。 強い気持ちがあれば・・・きっと使いこなせる筈ぞ」
そう言ったのを最後に檸檬様は姿を消す。
五歛子(ゴレンシ)(これで戦える・・・)
そう思えば走り出すまで数秒も無かった。
苺(イチゴ)「助けて下さい!」
最初に苺さんは俺を見てそう言った。
だけどその後の彼女の行動は助けて貰おうとする所か助けようとしてくれていて・・・完全に言った事と矛盾していた。
だからきっとあれは・・・咄嗟に出てしまった本心からの言葉だったんだと今は思う。
1人で戦う事に彼女自身が限界を感じていたんじゃないだろうか。
だから・・・きっと彼女は待っている。
五歛子(ゴレンシ)(待ってて、苺さん! 絶対助けるから!!)
俺は強い決意を胸に、見送るしか無かった苺さんを・・・急いで追いかけたのだった。