クリプレ 〜恋の落とし穴〜(脚本)
〇田舎の空き地
今夜はクリスマス・イブ。
花梨(かりん)「何その格好? ウケるw」
花梨(かりん)「で、何? “渡したいプレゼント”って‥‥」
恭介(きょうすけ)「うん、実はさ‥‥」
恭介(きょうすけ)「──ずっと前から、花梨のことが好きだった」
恭介(きょうすけ)「──僕と、付き合ってほしい。」
〇黒
僕の幼なじみである花梨(かりん)は、三度の飯よりイタズラ好きという、度し難い悪癖の持ち主だ。
〇大学の広場
日常の些細な悪ふざけはもとより、
〇クリスマス仕様の教室
時には大掛かりなドッキリに至るまで、その内容はバラエティーに富んでいる。
〇黒
恰好の餌食──もといターゲットは、いつだって僕だ。
〇田舎の公園
幼い頃からずっと、いいように弄ばれ、散々に虐げられてきた。
当の本人に、反省の色は見られない。悪びれた様子も全くない。
どころか、僕をからかって悦に入るきらいすらある。
〇黒背景
具体例をいくつか挙げよう。
〇教室
小四のバレンタインデー。
受け取った手作りチョコは、なんと泥で出来ていた。
〇木造の一人部屋
不覚にも、ひと口食べてから気づいた。
〇田舎の学校
中学時代の三年間。
〇学校の下駄箱
下駄箱のラブレターをキッカケにして始まった、
顔も知らぬ少女との──甘酸っぱい恋の往復書簡。
〇木造の一人部屋
僕はそれに青春の全てを捧げ、ありったけの情熱を注ぎ込んだ。
〇学校の屋上
そんな文通相手の正体が──
実は花梨だった。
〇黒背景
‥‥などなど、働いた悪事は枚挙に暇がない。
これらも所詮は、氷山の一角に過ぎない。
〇屋根の上
そして──遡ること7日前。
〇昔ながらの一軒家
花梨が自宅の庭先で、
僕の所有するエロ本秘蔵コレクションを火にくべ、
何食わぬ顔でサツマイモを焼き、
暖を取っていた。
この到底許されぬ暴挙には、さすがの僕も怒り心頭、恨み骨髄に徹し、とうとう堪忍袋の緒が切れた。
〇黒
復讐を心に固く誓い──
〇田舎の空き地
一週間ほど費やして、町外れにある空き地に落とし穴をせっせと拵えた。
しかし、ただ罠に嵌めるだけでは味も素っ気もない。
そこで急遽、架空の告白イベントをでっち上げることにした。
〇田舎の空き地
かくして、積年の鬱憤を晴らすべく、
バイト帰りの花梨を呼び出したわけだが──。
〇田舎の空き地
花梨(かりん)「──うん、いいよ」
恭介(きょうすけ)「えっ‥‥?」
予想外の展開に、動揺を隠せない。
が、花梨はすぐさま俯いて、
花梨(かりん)「‥‥とでも言うと思った?」
と吹き出した。
沸き立つ感情を押し殺し、僕は努めて平静を装う。
恭介(きょうすけ)「こんな時でも、お前は僕を揶揄するんだな‥‥」
苦し紛れの皮肉を吐き、そそくさと踵を返す。
所定の位置に、花梨を誘導するためだ。
ワンテンポ遅れて、地面を踏みしめる足音が聞こえた、次の瞬間──。
いきなり背後から、華奢な両腕で抱きすくめられた。
突然の出来事に、理解が追いつかない。
肩越しに振り返り、驚愕のあまり瞠目する。
花梨の紅潮した頬を、煌めくものが伝い流れていた。
夕陽に照り映える、綺麗な涙の雫が。
花梨は愛おしげに微笑み、僕の耳もとに唇を近づけ、優しい声音でそっと囁く。
花梨(かりん)「──そんなの、大好きだからに決まってるじゃん‥‥!!」
甘い芳香が、ほのかに鼻孔をくすぐる。
刹那、胸の奥で何かが弾けた。
ああ、真に断罪されるべきは──この僕だ。
過去のことをいつまでも根に持ち怨嗟する、醜い僕の方だ。
ならばいっそ、花梨ともども前非を悔い改め、己の積悪を懺悔しようではないか。
出し抜けに、花梨をお姫様抱っこする。
花梨(かりん)「きゃあ! ちょ、ちょっと! 降ろせってばぁ!」
彼女は短い悲鳴をあげて赤面し、まくれかけたスカートの裾を慌てて押さえる。
恭介(きょうすけ)「よーし、しっかり掴まってろよ!」
落とし穴めがけて助走をつけ──ひと思いにジャンプ。
カモフラージュ用に敷き詰めておいた芝生を巻き添えに、フタの役割を担っていたブルーシートもろとも落下した。
〇暗い洞窟
着地の際に尻もちをつき、腰骨を思いっきり強打。鈍痛に顔をしかめる。
しまった。クッション代わりのマットを、穴の底に敷き忘れていた。
あと、いくらなんでも、深さ3メートルは掘り過ぎた──。
表情をこわばらせた花梨が、震える手で上方を指差す。
花梨(かりん)「ねぇ、あれって‥‥」
恐る恐る仰ぎ見て──僕は戦慄した。
削られた斜面が容赦なく牙を剥き、堰を切ったように雪崩れ落ちてきて──。
〇暗い洞窟
〇暗い洞窟
〇暗い洞窟
幸い、大したケガはなく、二人とも無事だった。
降りかかる土砂をまともに浴びたので、お互い泥まみれではあったが。
事情をつゆ知らぬ花梨に、その場で全てを洗いざらい白状した。
意外にも、彼女は僕を咎めなかった。神妙な顔つきで、黙って耳を傾けていた。
いつになくしおらしい花梨を見かねて、
恭介(きょうすけ)「‥‥ほら、あれ見てみろよ」
と彼女を肘でつつき、上向きに顎をしゃくる。
花梨は促されるまま従い、
花梨(かりん)「うわぁ‥‥!!」
顔をパッと輝かせ、うっとりと嘆声を洩らした。
そう、それもそのはず──。
〇空
僕らの頭上には、空があった。
師走の斜陽に染め上げられた、鮮やかな茜色の空が。
まるで、地面という額縁にくり抜かれた──一幅の美しい絵画のごとく。
〇暗い洞窟
暮れなずむ黄昏時の情景に、しばらく二人して見惚れていた。
心地良い静寂の下、もたげた首が痛くなるのも忘れて。
〇空
いつの間にやら、上空には星がチラホラと瞬き、すっかり夜の帳が下りた。
〇暗い洞窟
僕にしなだれかかった花梨が、おもむろに口を開く。
花梨(かりん)「今、思ったんだけどさ」
恭介(きょうすけ)「ん?」
花梨(かりん)「‥‥ここから、どうやって地上にあがるの?」
恭介(きょうすけ)「‥‥あっ」
花梨(かりん)「──おいッ!」
長い年月をかけてせっせせっせと恋の落とし穴を掘っていたのは実は花梨の方だったんですね。やっと相手が恋に落ちてくれたと思ったら本当の穴に二人で落ちる羽目になるなんて。二人にとって一生忘れられないクリスマスになった、という素敵な「オチ」でした。
好きな人ほどちょっかい出したくなるものですよね。
構って欲しい〜って気持ちの表れのように。
この後の展開やこの二人のストーリーがとても気になります!
実は好きだったから…って言うのは当人には伝わりにくいですよね。
でも、心が通じ合った後の甘い感じがすごくよかったです。
やっぱり好意には気づいて欲しいですよね。