読切(脚本)
〇クリスマス仕様のリビング
犬「犬です」
犬「見てのとおり、犬です」
犬「人間でいえば、30歳」
犬「彼女いない歴も、同様」
犬「人間の世界では、30歳=魔法使いとからかわれるらしいですね」
犬「彼女ができて、結婚して。 そんな夢を見ないといえばウソになります」
犬「でも仕方ないです。 飼われている犬ですから」
犬「そんなある日、俺の主人が言いました」
俺のご主人「今週末、彼女を連れてくるからな」
俺のご主人「大人しくしてるんだぞ」
犬「ワン!? (な・・・何だと・・・!?)」
犬「ワン!! (お前、いつの間に・・・!!)」
犬「今、この家にはご主人一人です」
犬「パパとママ、ご主人からすると両親は、昨日から定年退職祝いで旅行に出かけました」
犬「帰ってくるのは1週間後。 クリスマスを過ぎるまで帰ってきません」
犬「つまり、彼女さんとふたりきりです」
俺のご主人「クリスマス、楽しみだなぁ」
犬「こいつ・・・ クリスマスに彼女とイチャつく気満々だ」
犬「おいこら」
犬「仲間だと思っていたのに」
犬「友情って儚いです」
〇クリスマス仕様のリビング
迎えた週末。
犬「クーゥン・・・ (ZZ・・・)」
犬「ピクッ!」
犬「午後の陽射しにうつらうつらしているなか、足音が聞こえてきました」
犬「足音がふたつ」
犬「来ました」
俺のご主人「散らかってるけど、どうぞ入って〜」
彼女さん「おじゃまします」
犬「ワン! (こんにちは!)」
俺のご主人「うちの犬〜」
彼女さん「かわいい〜!!」
犬「ワン! (あなたもかわいいです!)」
犬「彼女さんからは、シャンプーのいい香りがします」
俺のご主人「適当に座って〜」
犬「ご主人の顔、やばいです」
犬「崩れてます」
犬「かっこつけてるつもりだろうけれど、ぼくにはわかります」
犬「やばいです」
俺のご主人「私服、いつもはカジュアルなのに、今日はめずらしいね。スカートだなんて」
彼女さん「えへへ♡」
犬「ご主人」
犬「お前の顔面がカジュアルです」
犬「そして何なんだ、その服装は」
犬「まぜるな危険です」
彼女さん「ねえ、」
彼女さん「今日、ご両親は?」
俺のご主人「あ〜。今ね、旅行中なんだ」
彼女さん「え・・・?」
犬「彼女さんの顔がこわばりました」
彼女さん「なにそれ・・・」
彼女さん「てっきり、ご両親に会うものだと思っていたよ」
犬「あーあ」
犬「やっちまったな、ご主人」
犬「彼女さんはちいさーく 「マジか」 とつぶやきました」
犬「人間の耳では聞こえないでしょうけれど、犬にはばっちり聞こえます」
俺のご主人「え、もしかして会いたかった?」
彼女さん「お家に呼ばれたわけだし、会うものだと思ってた」
犬「しどろもどろのご主人」
犬「なるほど。 だから、彼女さんの服装がいつもと違ったんですね」
犬「アラサーの彼氏に、家に誘われた」
犬「彼氏は両親と実家暮らし」
犬「家に行けば、ご両親と顔を合わせることになるだろう」
犬「彼女さんからすれば、結婚を意識するでしょう」
犬「でも彼氏の両親は家にいない」
彼女さん「いると思って、こうして手土産とかも持ってきているわけだし」
俺のご主人「あー・・・ごめん!」
犬「冷たい空気が流れます」
犬「とんでもないクリスマスデートの始まりです」
犬「ねえ、ご主人」
犬「ご主人は、俺と違って、自由なんです」
犬「自由に恋愛できるんです」
犬「自由に恋愛できるのに、どうして相手の気持ちを想像しなかったのですか?」
犬「ベストを尽くさなかったのですか?」
犬「俺、たまに思います」
犬「もしも、人間だったら自由に恋愛できていたのでしょうか?」
犬「魔法使いにならなくて済んだのでしょうか?」
犬「もしも、 鳥だったら、 地域猫だったら、 違う国の放し飼いされてる犬だったら・・・」
俺のご主人「こういうの、慣れてなくて」
犬「恋愛経験不足だから?」
犬「だからなんだ」
犬「ご主人。 俺は、あんたが妬ましいです」
犬「結婚して幸せな家庭を築く」
犬「そのチャンスですらないがしろにするなんて、めちゃくちゃもったいない」
彼女さん「そういうのは、気づいてくれるとめっちゃ嬉しい」
犬「ご主人。 彼女、さめてますよ」
俺のご主人「とっ・・・取りあえず、何飲む? お茶?コーヒー?」
彼女さん「コーヒーをください」
犬「彼女さん、 言葉は優しいですが、怖いです」
犬「ワン!!」
犬「見てらんねぇ」
犬「俺はうんざりして、ふて寝します」
過剰な情報社会の中で動物的勘というものが衰えていう傾向のある私達人間に、するどい犬つっこみがとても痛快でした。それにしても、鈍感な飼い主さんですね!
すごく楽しく読ませてもらいました。恋愛不器用なニンゲン男子を客観的な目でツッコむ飼い犬という構図がとっても面白いですね。
楽しく読ませていただきました。ワンちゃんのほうがずっと空気を読んでますね!心のつぶやきが面白すぎました。たしかに飼われていて自由がない身のペットからすれば、いつでも自由でチャンスがある飼い主が羨ましいでしょうね。そんな見方もあるんだなと考えさせられました。