エピソード35(脚本)
〇商店街
「和菓子屋さん店頭にて」
和菓子職人タクゾウ「ふう」
和菓子屋の若旦那「どうしたんです? タクゾウさん。 元気がないようですが・・・」
和菓子職人タクゾウ「全然、思い浮かばないんです、 新作のアイデアが。 夏に向けた新作を考えてはいるんですが・・・」
ミーナちゃん「タクゾウさん、 お疲れなんじゃないですか? たまにはお休みして、温泉とか リフレッシュしたほうがいいですよ」
和菓子職人タクゾウ「奥様・・・」
和菓子屋の若旦那「今は、春のスペシャル 「特製カラフルフルーツ大福セット」 おかげさまで好評ですし。 タクゾウさんのおかげです」
和菓子屋の若旦那「有給手当も出しますし、 お店の方は僕がなんとかしますから、少し休暇を取られたらいかがですか?」
和菓子職人タクゾウ「ありがとうございます。 では、お言葉に甘えて。 少しのんびりしてきますわ」
ナオト「えー! 僕もタクゾウさんと一緒に いたいのにー!」
ミーナちゃん「ナオト!ダメよ! タクゾウさんのお休みなのよ?」
和菓子職人タクゾウ「いいですよ、なぁボウズ。 みんな仕事で、休みにどこにも連れて行ってもらってないんだろ? 一緒に旅行に行くか?」
ナオト「わーい!やったー! タクゾウさん大好きー!」
ミーナちゃん「タクゾウさん・・・ いつも弟のナオトが迷惑かけてすみません。仕事の邪魔ばかりして・・・」
和菓子職人タクゾウ「ワシも気晴らしになりますよ。 手伝ってくれるし ボウズは見込みがある! 一緒にアイデアを出す研修旅行に 行ってきますわ!」
和菓子職人タクゾウ「ダンナ様、奥様方もゆっくりしてくださいな」
ユズル「・・・ ありがとうございます。 よろしくお願いします」
ミーナちゃん「あなた!」
和菓子職人タクゾウ「いいんですよ奥様。 俺っちとボウズと遊びたいと思ったものですから」
ナオト「お願いだよ、お姉ちゃん・・・」
ミーナちゃん「・・・仕方ないわねぇ、 迷惑かけちゃダメよ!」
ナオト「ありがとう! お土産買ってくるよ!」
ユズル「良かったな、ナオト!」
〇奇妙な屋台
和菓子職人タクゾウ「とは、言ったものの、行くあてもないんだよなぁ」
店主「はい、ラーメン。 どうぞ」
店主「あら、なにかお困りの様子ね。 どうしたの?」
和菓子職人タクゾウ「いやね、休みをもらったんだし 少し旅でもと思ったんだが、 行くところもなくてねぇ。 どこかいいところ、知りません?」
店主「いいところがあるわよ! ココに住所を書いたから、 コチラに訪ねていらっしゃい。 アナタならきっと歓迎してくれるわ!」
店主「ワタシも、よく行くところなんだけど、 ちょうど交通チケットも 余ってるので差し上げるわ。 行ってらっしゃい!」
和菓子職人タクゾウ「そうかい。 店主がそういうなら、 行ってみるかな」
〇駅のホーム
ピリリリリリリ
和菓子職人タクゾウ「この列車だな」
ユズル「お土産の カラフルフルーツ大福も買ったし、 コイコ喜ぶかな?」
ピリリリリリリ
出発進行〜
〇走る列車
ガタタン ガタタン
ナオト「わーい!いい景色!」
和菓子職人タクゾウ「列車に乗るなんて、何年ぶりだろう。 故郷から上京したとき 以来かな・・・」
すみません、お隣りよろしいですか?
和菓子職人タクゾウ「あぁ、どうぞ」
謎マッチョ「どうも」
ナオト「わー!すごい筋肉! 触ってもいい?」
謎マッチョ「どうぞ」
ナオト「わー!すごーい!」
ナオト「わー・・・」
和菓子職人タクゾウ(はしゃいでたと思ったら 疲れて寝ちまったか? 子どもはいきなりだな)
ガタタン ガタタン ガタタン
〇森の中の駅
ナオト「ねむ・・・着いたの?」
和菓子職人タクゾウ「ここ・・・か?」
謎マッチョ「では、ワタシはここで」
和菓子職人タクゾウ「あ、あぁ・・・」
和菓子職人タクゾウ「いけね、 行くところの場所を、 聞きそびれたな・・・」
カッ
ユズル「こんにちは。 こんなところに お客様かな、珍しい」
和菓子職人タクゾウ「あぁ、こんにちは コチラに行きたいのですが・・・」
ユズル「あぁ、 こちらなら僕も行きますから、 一緒に行きましょうか」
和菓子職人タクゾウ「ありがとう助かるよ」
ユズル「ピィー」
ピィー ピィー ピィー
口笛がこだまする。
ヒヒィーーーン
うま「ブルルルル」
和菓子職人タクゾウ「う、うま?」
ナオト「わー!お馬さんだ!」
ユズル「ええそうですよ、お乗りください」
和菓子職人タクゾウ「え、でもさっきの人・・・ 歩いて行ったけど」
ユズル「あの方とは?」
和菓子職人タクゾウ「マッチョの・・・いやなんでもない 気にしないでくれ」
ユズル「いずれにせよ、 ここを歩いて進むのは常人では ございませんね・・・ さ、行きましょうか」
和菓子職人タクゾウ「たしかに・・・」
パカパッパカパッパカパッ
〇寂れた村
ユズル「こんにちは」
クマコさん「あら、よく来てくれたわね! いらっしゃい!」
ユズル「これお土産!フルーツ大福セットだよ」
和菓子職人タクゾウ「あっ、それ俺の作った!」
「えっ」
和菓子職人タクゾウ「俺っち和菓子職人なんでさ。 それ俺のところの店の商品だよ」
ナオト「そう!すごく美味しいんだよ! タクゾウさんの和菓子!」
ユズル「そうだったんですか! いつもオセワになっています! 大変美味しいです!」
和菓子職人タクゾウ「そりゃ良かった! 新作を考えてはいるんだが、 なかなかアイデアが、でなくて 困っているんだよ」
和菓子職人タクゾウ「気晴らしにと思って行くところを探してたら、店主さんに紹介してもらって、ココへきたのさ」
クマコさん「そうだったのですね。 農園もありますので、 後ほど、ご案内いたしますね。 お疲れでしょ、さぁこちらへ」
ユズル「じゃあ僕は湖の方に行っています」
クマコさん「行ってらっしゃいませ!」
〇睡蓮の花園
ザバーン
謎マッチョ「よし」
リュウジ「いつもありがとうございます。 また水が美しく保たれます」
コイコちゃん「ジャーン! 湖の妖精! コイコちゃん登場〜!」
リュウジ「相変わらずですね。 アナタは」
コイコちゃん「だって今日は皆が来る日でしょ? 待ちきれなくて〜」
リュウジ「アナタは「皆」じゃなくて ユズルさんでしょ?」
コイコちゃん「な、何いってんの〜 やだなぁ〜」
ユズル「こんにちは!」
ユズル「こんにちは、コイコちゃん! お土産のカラフルフルーツ大福だよ!」
コイコちゃん「きゃっ! び、びっくりした〜」
リュウジ「ちょうどユズルさんのお話を していたところですよ」
ユズル「そうなんだ、なんの話だろう?」
コイコちゃん「な、なんでもないわ! じゃ、じゃあね!」
ブクブクブクブクブクブク
ユズル「沈んでっちゃったよ」
リュウジ「恥ずかしがってただけですよ。 さぁ、茶室に行きましょうか」
ユズル「そういえば、きょうは特別ゲストも、いらっしゃるんですよ。 そちらのお菓子を作った、 和菓子職人さんなんです」
ユズル「ぜひ招待したいのですが いかがですか?」
リュウジ「ほう、それは興味深いですね。 歓迎しますよ」
ユズル「ありがとう、ございます。 では後ほど」
リュウジ「あぁ、よろしく。 行きましょうか」
〇畳敷きの大広間
カポーン
「遅くなりました、失礼します。」
ナオト「こんにちは!」
リュウジ「あら元気なお子さんね。 では始めましょう。 心を落ち着かせて・・・」
キンヤ「お茶をいただくのは 初めてでございますよね? お楽になさってください、 気軽に楽しんでいただきたいのです」
キンヤ「こちらでは、 濃茶〜薄茶の順で、 濃茶では主菓子(おもがし)、 薄茶では干菓子(ひがし)を お出しします。」
サッ
サッサッサッ
ナオト「あの人、 腰から取った布を折り曲げてるけど、何をしているの?」
ユズル「あれは「ふくさ」と言って 小さな風呂敷のようなものだよ」
ユズル「彼がいま行っているのは、陰陽でいうところの、「東西南北」を清めているんだ」
ユズル「お茶を立てる道具が置かれている 「台子(だいす)」の中に、 天板、地板で乾坤があり、 柱が四本で東西南北春夏秋冬を表し」
ユズル「そこに陰陽五行、火の卦、水の卦、木の卦、金の卦 自然を司る全てがあるんだよ」
ユズル「だから、拭いて清めるんだ。 静かにして、心を落ち着けて、 すべてを清めたあとに、 点てたお茶を飲むんだ」
ユズル「そして、我々も、清められる。 ということなんだ」
ナオト「へー」
キンヤ「本日の菓子でございます」
トシゾウ「ほう・・・これは美しい」
ナオト「タクゾウさんのお菓子だね!」
ユズル「コチラの方は、今回のお菓子を作られた和菓子職人さんなのです」
マモル「そうでしたか。 いつも美味しい和菓子を ありがとうございます」
和菓子職人タクゾウ「喜んでもらえて良かった。 いつもソレを考えていましてね。 春の和菓子は色が華やかでしてね」
リュウジ「えぇ、眼で香りで 楽しませて頂いてます!」
カポーン
シャカシャカシャカシャカ
キンヤ「どうぞ」
謎マッチョ「いただきます」
丹念に右手で器を回し
口に運ぶ。
謎マッチョ「・・・」
キンヤ「お服加減はいかがですか?」
謎マッチョ「美味しくいただきました ありがとうございます」
カポーン
〇睡蓮の花園
ナオト「あー美味しかった! やっぱりタクゾウさんの和菓子は最高!」
和菓子職人タクゾウ「ボウズ〜嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」
なになに〜
ワタシも美味しいの食べたい〜
和菓子職人タクゾウ「ん?」
ザッパーーーーン!
和菓子職人タクゾウ「わーーーーー!」
コイコちゃん「コイコちゃん登場ー!」
ユズル「ダメじゃないか、 お客様がびしょ濡れだぞ!」
コイコちゃん「はーい ごめんなちゃい」
ナオト「びっくりした! アナタ誰!?」
コイコちゃん「ワタシはコイコ! この湖のヌシなのよ〜」
ナオト「へー」
コイコちゃん「たくさんの人が来てくれて嬉しいわ! 一緒に遊ぼう!」
ナオト「うん!いいよ! 何して遊ぶ!?」
コイコちゃん「じゃあ〜 かくれんぼ!」
ナオト「わかった〜 じゃんけんぽん! わー僕の負け〜!」
コイコちゃん「じゃあ隠れてくるね!」
ユズル「僕たちはコイコと遊んでますので、 タクゾウさんは農園の方をご覧になったらいかがですか?」
ユズル「和菓子の素材もありますし、厨房もございますので、ご自由にお使いください!」
和菓子職人タクゾウ「あぁ、じゃあそうさせてもらうわ。ボウズ、怪我に気をつけて遊ぶんだぞ!」
ナオト「うん、わかった〜 また後でね〜!」
ユズル「行ってらっしゃい〜」
〇村の眺望
クマコさん「こちらでございますよ〜」
和菓子職人タクゾウ「あぁ!土もいい! 随分と手入れがされてるな!」
クマコさん「ここでは、小豆、大豆、野菜などいろいろ育てております」
クマコさん「森の方は樹の実やハーブなども植えてございます。 シナモン、ニッキ、ナツメグ、クローブ、コショウなど」
和菓子職人タクゾウ「すごいな、なんでもあるな!」
クマコさん「奥に温室もございますので 季節に関わらずお育てしております」
クマロウ「こんにちは! ワタクシは息子のクマロウです!コチラの管理をしております!」
和菓子職人タクゾウ「あぁどうも。 素晴らしい農園ですな!」
クマロウ「ありがとうございます! ワタクシの趣味もございましてね・・・ 世界の色々なスパイスを集めるのが趣味でして」
和菓子職人タクゾウ「そうですか! コチラを見て俄然やる気が出てきました! 早速、菓子を作りたいのですが 厨房をお借りしてよろしいですか?」
クマロウ「ええ、是非お願いします。 どうぞ、こちらへ!」
〇古民家の居間
ナオト「・・・でね、すっごい楽しかったの!」
和菓子職人タクゾウ「そうか、良かったな!」
ナオト「でもね、コイコちゃんが言うんだ。 「ワタシはここから動くことができないの」って」
ナオト「湖を守らないといけないんだって。 だから一度でいいから、 「海」を見てみたいって言ってた」
和菓子職人タクゾウ「そうかい。 「海」ねぇ・・・」
ナオト「どうやって説明したらいいか、わかんなくて。 写真でもあればよかったんだけどさ。 とにかくでっかいんだって言っておいた」
和菓子職人タクゾウ「まぁ無線電波が届かないところだしな。 スマホとか使えないし 連絡も役場の電話だけだろ?」
和菓子職人タクゾウ「それが、いいところ なんだろうけどな 自然のままっていうかさ・・・」
和菓子職人タクゾウ「ボウズは寂しくないか?」
ナオト「僕は平気だよ。 お姉ちゃんはいつも仕事で忙しくて 一人だったし 今は、タクゾウさんと一緒だもん」
和菓子職人タクゾウ「そっか」
ナオト「コイコちゃん、 なんとかできたらいいな・・・」
和菓子職人タクゾウ「そうだな」
ナオト「おやすみなさい」
和菓子職人タクゾウ「あぁ、おやすみ」
パチパチ・・・パチパチ
火の燃える音と虫などの鳴き声だけがする。
〇村の眺望
ナオト「わあー! ここなんだ! ひろーい!」
和菓子職人タクゾウ「そうだな。 植物がいきいきとして輝いて見えるよ」
和菓子職人タクゾウ「手入れは、しすぎてもダメだし しなさすぎてもダメだと 俺っちは思うんだよ。 人と同じだな」
和菓子職人タクゾウ「ジブンで育つ力を妨げてはダメだし、かといって伸び過ぎて間違った方向の枝を正したり、根が腐るのを防いだり」
和菓子職人タクゾウ「優しく厳しく育てることで 良い実をつけるんだ」
和菓子職人タクゾウ「ここの植物は 手入れしてくれる人に 答えてるみたいだよ」
和菓子職人タクゾウ「これを食べてみればいい」
ナオト「これは・・・?」
和菓子職人タクゾウ「まぁ、食べてみろ」
シャク、モグモグモグモグ・・・
ナオト「すっごく美味しい! これ、なんて実!?」
和菓子職人タクゾウ「俺にも名前は、わからん。 ・・・が、以前、店主が食わしてくれたことがある」
和菓子職人タクゾウ「それは俺っちが、上京したてで、まだ悩んでいた頃だ。 その頃は和菓子の職人になるとは 思っても見なかった」
和菓子職人タクゾウ「上京したてで人に騙され、 どうしようもないところを 助けてくれた、店主は恩人だ。 だから俺は立派でもなんでもねえ」
和菓子職人タクゾウ「店主の紹介で、 今のダンナ様の父親、親方様に 師事を得て和菓子の職人になったんだ」
和菓子職人タクゾウ「ま、ボウズにこんなことを話すのもな。 お前に聞いてほしかったのかもな」
ナオト「タクゾウさんは立派だよ! 美味しいお菓子を作って、 みんなを喜ばせてるもん!」
和菓子職人タクゾウ「ありがとなボウズ! 俺っち頑張るわ!」
ナオト「僕、いいこと思いついた!!!」
ナオト「そうだよ! コイコちゃんにね 和菓子で海を見せるんだよ!」
和菓子職人タクゾウ「和菓子で海を・・・!? 海を表現するのか。 ボウズ、やってみるか!」
ナオト「うん!」
〇睡蓮の花園
和菓子職人タクゾウ「ほら、これだ!」
コイコちゃん「これは・・・!?」
和菓子職人タクゾウ「夏の新作! 「海の宝物!」 どうぞ召し上がれ!」
コイコちゃん「綺麗・・・ これが海? とても嬉しい・・・」
コイコちゃん「それに、とても甘くて美味しい! 素敵なお菓子! コイコ大好き!」
和菓子職人タクゾウ「喜んでもらえて安心したよ。 俺っちも夏の新作を 自身持って出せますわ!」
和菓子職人タクゾウ「ここの農園の素材は素晴らしい。 きっと水が良いのでしょう」
ナオト「コイコちゃんが守ってくれてるおかげだね!」
コイコちゃん「ありがとう・・・!」
ユズル「良かったなコイコ!」
コイコちゃん「うん」
〇走る列車
ガタタンガタタン
ナオト「ムニャムニャ 楽しかったね・・・」
和菓子職人タクゾウ「フフ、夢に見てるんかな」
〇奇妙な屋台
店主「おかえりなさい!」
謎占い師「ただいま〜! お土産です! 夏の新作ですって!」
謎占い師「いち早く皆さんへって タクゾウさんから いただきましたよ!」
店主「あら〜嬉しいこと! お茶入れましょうかね。 店じまいは、その後でね!」
店主「皆さんも、おひとついかが?」
〇海辺
おわり
何と清々しいお話!日本の美意識、和菓子の精神、伝統的自然への敬意、などが自然に込められた素敵な一話ですね!
そして、電車移動のマッチョさんのシュールさがww
カラフルフルーツ大福セット、店主さんもあの村に行くときはお土産にしてますね。人も自然もほんわかしてるけど、地図にない村という感じで不思議。海をイメージしたお菓子もきれいでした。
一緒に旅に出ているような感覚になりますね!✨😊
子供が謎マッチョにはしゃいだかと思えばすぐ眠った姿が微笑ましかったです!!✨