ああ、女神さまが!!(脚本)
〇古い本
昔々、ある湖に落とした斧を拾ってくれる、それはそれは面倒見のいい女神さまがおりました。
正直者の木こりは、湖に斧を落としてしまい、何故か金の斧と銀の斧、そして自分の斧を手に入れました。
一方、欲張りな木こりは金の斧も銀の斧はおろか、自分の斧さえも失ってしまいました。
二人の一部始終を見ていた、いつも間の悪い木こりはこう思いました。
木こり(これ、俺もいけんじゃね・・・?)
〇湖畔
木こり(よし、やるぞ! 今日こそはやってやる!)
間の悪い木こりは、女神さまの住む湖に来ると何度も頷きました。
簡単な仕事です。自分の斧を湖に投げ入れ、「女神さま、助けください!」と言えばいいのだから。
それでまんまと女神さまが姿を表したら、正直者の木こりと同じように普通の斧を自分の物と主張すればいいだけです。
たったそれだけで一攫千金が得られるのですから、やらないという選択肢はありませんでした。
木こり「おっりゃあああぁぁぁぁ!!」
木こりは自慢の怪力で湖の奥へと斧を投げ込みました。
木こり「女神さま、お助け下さい!」
じっと湖の様子を窺います。
ほどなくして湖の底から女神さまが現れました。
予想通り、右手には金の斧を、左手には銀の斧を持っています。
〇血しぶき
これまでと違うのは女神さまの頭に、自分の投げた斧が深々と突き刺さっていることでした。
女神「ぐっ・・・ふん!」
女神さまが血塗れの斧を投げ捨てます。
女神さまはダクダクと頭から血を流しながら、こちらを睨みつけています。
そう、間の悪い木こりが投げた斧は、ちょうど湖の底にいた女神さまの頭にクリーンヒットしてしまったのでした。
女神(この下等生物が・・・よくもやってくれたわね・・・)
〇湖畔
木こり(うわああぁ、めっちゃ怒ってるぅぅぅ!!)
神仏が放つ威容により、木こりは腰を抜かしてしまいました。
女神「貴方が落としたのはこの金の斧ですか?」
満面の笑顔で女神さまが問いかけます。
この時、木こりは「笑顔」の起源が「威嚇」だったという説を思い出していました。
木こり「ヒ、ヒエェェ・・・」
女神「ヒェェ?つまり、いいえ、ですね?」
木こりは頷きます。
女神「よろしい。貴方が落としたのはこの銀の斧ですか? 違いますよね?」
木こり「は、はいぃぃぃ!違いますうぅぅぅぅ!!」
女神「なるほど。やはり貴方がこの鉄の斧を投げ込んだのですね?」
木こり(断定されてるぅぅぅぅ!!)
木こり「ごめんなさい、女神さま、どうかお助け下さい!」
女神「私は謝罪が聞きたいのではありません。貴方がこの斧を湖に投げ込んだかどうかを聞いています」
木こり「わ、悪気はなかったんです!」
木こり「まさか、女神さまの頭に刺さるなんて!」
女神「謝って済むなら神罰は下りません」
木こり(神罰下す前提ぃぃぃぃぃ!!)
間の悪い木こりは、自分の間の悪さを呪います。
木こり「うわああぁぁ、もう嫌だあぁぁぁぁ!」
女神「ちょ、貴方、どうしたの!?」
木こり「いっそ殺してくださいぃぃぃ!」
木こり「こんな人生、終わらせて下さいぃぃぃ!!」
女神「冷静になりなさい!神罰を下すのよ!?とーっても痛いのよ!?」
木こり「・・・もういいんです」
女神(どうしたのよ、こいつ・・・突然・・・)
木こり「俺なんて・・・俺なんて・・・」
女神「木こり、泣いてないで理由を話しなさいな」
木こり「・・・俺、昔からこうだったんです」
木こり「やることなすこと全て上手く行かない・・・」
木こり自分の半生を語り出します
家を継げない次男坊なのに、長男の子供が生まれるまではと実家に飼い殺しにされています。
そんなストレスに耐えられず、友達といたずらをすれば自分だけ大人たちに見つかってしまいます。
木こりの腕は悪くないのに、木を切れば三回に一回は自分の方に倒れてきます。
あと、年一度は冬眠中の熊に遭遇します。
そして砂抜きしたはずの貝はだいたいジャリジャリしています。
女神(それはちょっと違くない・・・?)
時折、関係なさそうなのもありましたが木こりの半生はおおむね不幸です。
劇的なものはないけれど、下の上あたりの不運が延々と続いている感じでした。
〇湖畔
女神「あのね、若いんだからそう簡単に人生投げ出しちゃだめよ」
もともと面倒見のいい女神さまは、木こりが可哀そうになってそう言いました。
女神「・・・ほら、金の斧も銀の斧もあげるから、ね? 元気出して?」
木こり「要りませんよ、そんなもの!」
木こり「どうせ、実家に取り上げられるに決まってるんだ!」
女神(何てネガティブな奴なの・・・)
木こり「それなのに居候扱いは変わらないままで・・・」
木こり「兄さんに子供が生まれたら家を追い出されて、結婚も出来ないまま貧乏生活・・・」
木こり「一生、貝を美味しく食べられないまま、最後は暗い森の中で熊に食い殺されるんだあぁぁぁぁ!」
女神(何となくそうなりそうな気がするから怖いわね)
女神「じゃ、じゃあ、実家を追い出された後に斧は渡してあげるわよ」
木こり「そんなもんもらったって、どうせ換金する前に失くすか、悪い商人に騙されて奪い取られるに決まってます!」
女神「・・・それなら私のほうで現金化してから渡すわ」
木こり「根本解決になってません・・・俺の不幸体質は何も変わっちゃいない・・・」
木こり「ふふ、どうせお金目当ての女の子に騙されて、貢がされるだけ貢がされたらポイですよ・・・」
女神「そこは女の子の見る目を養うとか・・・」
女神「とにかく、ね、木こり。自分の体質と向き合いましょ」
女神「何か、きっといい解決方法があると思うわ・・・」
木こり「もういいです・・・」
木こり「もう女神さまになんて頼みません!」
木こりはやおら立ち上がると、湖に向かってずんずんと歩き出しました。
女神「馬鹿、こんな時期に湖に入ったら凍死するわよ!」
木こり「望むところです!」
木こり「俺なんかの話を親身に聞いてくれた、優しい女神さまの湖(もと)で死ねるならこれ以上の幸せはありません!」
女神「ちょ、待ちなさい、お願い、やめて、湖を汚さないで!!」
女神さまも必死です。大切な我が家で自殺者なんて出したくないですし、何か不幸が映りそうな気がします。
木こり「俺、決めたんだ・・・女神さまに抱かれたまま、死ぬ!」
女神「やめてぇぇぇぇ!」
女神「誰かこの人引き取ってえぇぇぇぇ!!」
〇古い本
その後、面倒見のいい女神さまは、入水自殺を防ぐべく必死になって間の悪い木こりを励ましました。
辛い事があるならいつでも話を聞いてあげるから、と何とか思い留まらせることに成功したのです。
それから毎日のように湖に斧を投げ込み、嫌そうな顔で出てきた女神さまに、グチを聞いてもらう木こりの姿があったそうな・・・
めでたし、めでたし
女神「んなわけないでしょおおぉぉぉ!!」
まさかの展開に笑ってしまいました。昔話では正直者と強欲嘘つきの2種類キャラが定番なのに、まさかの超ネガティヴキャラ!女神様に心底同情しました。
めちゃくちゃ面倒見のいい女神さまですね!
ネガティブな人間って、何言っても全部悪い方へ解釈しがちなんですが、そのうざさが上手く書けてるなと思いました笑
ただただ女神さまが不幸な目に遭っているだけ…笑
いやほんとうにめんどくさいきこり!笑
私もあさり砂抜きしてもじゃりじゃりして歯痛くなる事しばしばありますし!笑