菖蒲刀

福山 詩(フクヤマ ウタ)

【死に損ない】六日の菖蒲、十日の菊(脚本)

菖蒲刀

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〇古民家の居間
菖蒲「うわあああ アンタあああ」
村雨(怪我の再生が遅い 傷が深いんだ)
  菖蒲
菖蒲「話しかけて来るな」
村雨(誰と話してるんだ)
  大丈夫よ
菖蒲「・・・」
村雨「うおぁっととと」
村雨「ふぃ~ いきなり泣き叫んだり ぶっ倒れたり」
村雨「お前の中で 今 何が起きてんだよ」

〇水中
生前の菖蒲「う うう」
宿屋の娘(菖蒲の悲しみが流れ込んでくる)
宿屋の娘「もう泣かないで」
生前の菖蒲「五月蠅い」
宿屋の娘「ねえ」
宿屋の娘「もう 愛して欲しいとか」
宿屋の娘「愛してくれないから憎いとか」
宿屋の娘「どうでも良いよ」
生前の菖蒲「お前に何が分かる」
宿屋の娘「分かるよ」
宿屋の娘「だって 私は貴方だもん」
  菖蒲は 困っている人を
  助けてきた
宿屋の娘「男に対して恨みの気持ちも あったかもしれない でも」
宿屋の娘「貴方は 本当はいい刀よ」
宿屋の娘「誰からも愛されなくても良いじゃない」
宿屋の娘「私が貴方を愛してあげる」
宿屋の娘「自分で自分を愛してあげるんだよ」
宿屋の娘「だから もう人殺しなんて辞めよう ううん」
宿屋の娘「する必要ないんだよ」
生前の菖蒲「・・・」
生前の菖蒲「何か勘違いをしているようだから 教えてやるが私は」
生前の菖蒲「そもそも女を助ける気なんて」
生前の菖蒲「さらさら無かったがね」
宿屋の娘「それはあなたの照れ隠しで」
生前の菖蒲「そもそも」
生前の菖蒲「助けた女はあの後」
「お前が綺麗さっぱり殺したろう」

〇古民家の居間
菖蒲「・・・」
村雨「綺麗な顔しやがって」
村雨「あーあ」
村雨(どうして俺は叶いもしねえ 愛を求めちまうかね なあ村正)
村雨「愛して嫉妬して恨まれて もう十分苦しんだろう」
村雨「菖蒲」
村雨「いい加減 俺に愛されたらどうだ」
村雨「外が騒がしいな」
村雨「ふぁ 滅茶苦茶いんぞ」
村雨「これっ くっそ いつから」
村雨「おい菖蒲起きろ」
菖蒲「・・・」
村雨「うぐぁ げほぉ ぐっほ 目が 痛って」
村雨(外から 火を付けられた)
村雨「げっほ えほ いつまで寝てんだよ しょうがねぇな」
村雨「んっ うぅ」
村雨(火 気付かなかった  いつ付けられた?誰が付けた?)
村雨「あぁあ 馬鹿糞女 お前の甲冑重ぇんだよ」

〇寂れた村
村雨「な」
人間「出て来たぞ」
村雨「ァガ」
人間「今だ やっちまえ!」
人間「こいつ 女を庇ってやがる」
人間「容赦するな 女も俺達の仇だ」
人間「傷が」
人間「治っていく」
「正真正銘の化け物だ」
人間「怯むな こっちは村人全員 袋叩きだ」
人間「男は強い 刀を抜かせるな 女の刀もだ 叩き折れ」
青い帯の子「ちょっと やりすぎなんじゃ」
人間「甘ったれたこと 言っちゃ駄目だよ」
人間「そうだよ アンタは姉さんを殺されたんだろ」
青い帯の子「本当にこの人達がやったの」
人間「あたしゃ この目で見たよ 森の中で村人がこの男に斬られるのを」
人間「そして この女も一緒だったんだ」
青い帯の子「おっかないね」
人間「悪い奴は皆でやっつけちまおう」
人間「うちの旦那は 殺された娘の仇を取りに首狩りを 追っていたらこの男に」
人間「気を落とさないで」
瓦版売「そうだよ 女将さん」
茶色い着物の男「いくらこいつが 強くてもな」
派手な着物の女「村人全員でかかれば何とかなるよ」
人間「わあ あんたあ」
人間「早く殺しちまおう アタシの友達を殺した罰だよ」
人間「こちとら大事な商売仲間を殺されたんだ 生かしちゃおけねえ」
「こいつらを殺せー 化け物は殺せー」
「村の為に  愛する家族の為に 友人恋人の為に」
「仇だー 仇だ― 仇だ──」

〇水中
宿屋の娘「私が 助けた女の子達を殺した」
宿屋の娘「嘘よ」
宿屋の娘「だって そんな記憶ないもの」
生前の菖蒲「そりゃそうだろうよ だって」
生前の菖蒲「殺ったのは ”もう一人のお前”だからな」
宿屋の娘「もう一人の私」
生前の菖蒲「”首狩り”を殺したあの日から」
生前の菖蒲「一緒に旅をしたのは お前ではなく”もう一人のお前”だった」

〇森の中
宿屋の娘「何も覚えてない」
宿屋の娘「またあの娘が 私の体を使ったのね」
  なんだい 
  
  随分と雰囲気が変わったじゃないか
  まるで別人だね
宿屋の娘「私 ずっと眠っていたみたい」
宿屋の娘「ねえ アンタ男を斬りたいの」
宿屋の娘「私は 女を斬りたい 只 斬りたいの」
宿屋の娘「男はアンタが斬る」
宿屋の娘「女は私に斬らせてよ」
  ・・・
  相 分かったあ

〇水中
生前の菖蒲「お前を”良心”とするなら」
生前の菖蒲「もう片方は”狂気”とでも呼ぼうか」
生前の菖蒲「嘘だと思うならその手に聞いてみな」
宿屋の娘「はあはあ そんなはずない そんなはず」
宿屋の娘(確かに 私は時々記憶が無くなる だけどそんな事 皆そうでしょう)
宿屋の娘(え)
宿屋の娘(違うの)
生前の菖蒲「お前が殺した」
宿屋の娘「違う」
生前の菖蒲「お前が奪った」
宿屋の娘「そんな筈ない」
生前の菖蒲「・・・」
生前の菖蒲「覚えてなけりゃあ 良いのかい」
生前の菖蒲「私は 殺した男の顔全員を覚えているがね」
宿屋の娘「!!」
生前の菖蒲「では今ここで お前の首を締めて殺しても」
宿屋の娘「う ガッ」
生前の菖蒲「覚えてないと言えば許されるわけだな、」
宿屋の娘「〜 カッごほっ」
生前の菖蒲「ここまで楽しかったよしかし」
生前の菖蒲「私に”良心”とやらは要らないようだ」
宿屋の娘「あや め」
生前の菖蒲「菖蒲刀は 持ち主を斬り殺す」
生前の菖蒲「斬り殺さなかったのはお前が初めてだな まあ最も」
宿屋の娘「うぅ がっ」
生前の菖蒲「殺す、には違いはないんだが」
生前の菖蒲「!?」
生前の菖蒲「はっ あっ」
生前の菖蒲「ぎゃああああーーーーーーーーーー」

〇寂れた村
村雨「・・・」
「刀を折ったら 女が消えたぞ」
「代わりに娘が出てきたぞ あいつも仲間か」
「とにかく あとは男だけだ 刀だ 刀を狙え」
村雨「・・・」
「うわ こいつ急に 強」
宿屋の娘「・・・!? ・・・っ!?」
宿屋の娘「う」
宿屋の娘「うぐえおえおえ」
宿屋の娘「げほげほ」
「菖蒲 菖蒲 皆殺したよ」
「菖蒲  冗談やめろよいつまで無視してんだよ」
「菖蒲 菖蒲 菖蒲 菖・・・ッ」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「姉さあああああああああん 俺をおいていかないでぇえええ」
宿屋の娘(動け 足)
宿屋の娘(動け 動け)

〇けもの道
「ハァ ハァ ハぁ ハァア」
  違う
生前の菖蒲「お前が殺した」
「ハァ ハァ ハア ハア」
  私じゃない
生前の菖蒲「お前が奪った」
「ハァハァ うぐっ ハァ」
  私はやってない やったのは菖蒲
生前の菖蒲「お前も言っていたろう」
菖蒲「私はアンタ アンタは私」
「アンタは首狩りの”菖蒲”なんだよ」
  違う 私は人を殺めたりしない
  違う違う違うちがッ──

〇木の上
  お願い 皆
  
  もう私の中から出ていってよ
  ・・・
  ・・・
  ・・・
  人が倒れてるよ
  あんた 大丈夫かい
  ...
  ...
  ...

〇黒
  う
  眩しい

〇古風な和室(小物無し)
茶色の着物の女「良かった やっと目を覚ましたよ」
宿屋の娘「ここは」
茶色の着物の女「まだ 動いちゃだめ」
茶色の着物の女「アンタ 崖の下で倒れてたんだよ 血だらけで」
宿屋の娘「ええ」
茶色の着物の女「何があったか知らないけど 大変だったね」
宿屋の娘「えーと 何があったんでしょう」
茶色の着物の女「覚えてないのかい」
宿屋の娘「はい」

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コメント

  • 連載お疲れ様でした。菖蒲は共鳴装置のようなものなんですかねぇ。人の狂気の種のようなものを読みとって増幅してしまう。現代なんていい子でいることを強要する社会なので、発散出来ない闇を抱えた人は多そうです。菖蒲があったら持ち主に困らなかったかもしれません。

  • 菖蒲という名が花だけでなく人をあやめる刀であることを示しているのに今更気づきました😂
    お菊が「何も覚えていない」と言うのも
    始めは自分はやっていないと強く訴えるような意味合いでしたが、百合さんとの会話ではやったことを自覚した上で開き直っているように思えてゾッとしました

    この後味の悪さがホラージャンルとしての不気味さを引き立たせていますね😂完結までお疲れ様でした!

  • ギフトさせてくれェー!😭
    素晴らしいクオリティの長編、完結おめでとうございます。そして、ありがとうございます🙇
    ボイスの挿入や圧倒的な世界観、キャラクターの人生に感情移入するなと言われてもしちゃいました。
    菖蒲は刀なのか、自分自身に潜むパーソナリティなのか、面白いラストの回収でした。
    村雨の純愛も令和まで来ると…🤣
    ぜひ、番外編もよろしくお願い致します😊

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