分裂した友人(脚本)
〇見晴らしのいい公園
〇見晴らしのいい公園
俺「なあ、これは一体どういうことなんだ?」
翔平「どうと言われても」
翔平「こっちが困るんだけど」
この同じ顔で話す2人は双子のたぐいではない。
ましては作者のデバッグミスでもない。
同じ人間が2人存在しているのだ。
俺「正直、信じられない・・・・・・が、納得できる部分もある」
そう、翔平は最近妙だった。
翔平は俺と同じくらいの頭脳で、俺と同じくらいのスキルを持った人間だった。
それがここ最近急に能力が上がったのだ。
大学で出すレポートの質も高いし、テストの出来も良い。
おまけにギターやゲームも俺より格段に上手くなっている。
それでいてバイトのシフトも多くなり、金回りが良くなっていた。
それを不思議に思った俺は翔平の後をつけると、同じ顔をした2人が抱き合っているところを見てしまったのだ。
どうやら2人で抱き合うことでそれぞれ経験、記憶、技能が共有できるらしい。
翔平「誰にもバラすつもりはなかったんだけど、バレてしまってはしょうがないね」
翔平「というか説明しても信じてもらえないと思ったけど」
2人の翔平は目を閉じながら言う。
俺「・・・・・・そもそもいつからそうなったんだ?」
翔平「うーん、いつだっけ?」
翔平「思い出せないや」
俺「どうして2人いて思い出せないんだよ」
そうだった。
もともと翔平は忘れっぽい人間だったのだ。
〇見晴らしのいい公園
・・・・・・2人の翔平を問いただし、数時間が経った。
俺「それなら、2人の記憶の差を確かめてみたらどうだ?」
「どういうこと?」
俺「どこかで2人に分裂したということは、分裂直後は記憶に差異があるんじゃないかと思って」
昔読んだ漫画でそんな展開があったと思い俺はそう提案した。
「なるほど」
翔平「今日の朝は何を食べた?」
翔平「パンと納豆!」
俺「そんな最近の話をしてもしょうがないだろ!あとその組み合わせはどう考えてもおかしい!」
2人いても微妙に天然なところは変わらないらしい。
俺「もう少し前・・・・・・・・・3ヶ月とか前かな。ちょっと変わったなと思い始めたのは」
翔平「何かあったっけ?」
翔平「うーん」
2人共唸ってしまう。
翔平「あ、そうだ」
翔平「そのあたりだっけ、近くの山にサイクリングに行って事故をしたのは」
翔平「あーそうだったね」
俺「近くの山って一緒に行ったこともある姫石山か?」
「そうそう、たまに登りに行くところ」
翔平2人は口を揃えて言う。
翔平「下り坂でブレーキが遅れてガードレールが無いところに突っ込んで下に落ちちゃったんだよね」
翔平「そうそう、それで自転車がどっか行っちゃって見つからなくて歩いて帰ったんだよ」
翔平「え?普通に近くにあったから乗って帰っただろ?」
翔平「いや、しばらく探したんだけど見つからなくて歩いて帰ったんだよ」
翔平「それで疲れて帰ったら・・・・・・あ」
俺「そこで2人が出会った、ってことか」
「多分、そうだと思う」
俺「・・・・・・明日は休みだし、姫石山に行ってみるか」
「明日はバイトだからだめだよ」
俺「お前らは2人いるんだからどっちかが来れば良いじゃねーか!」
「確かに、頭いいね」
本当に天然なところは変わらないらしい。
〇山道
–-翌日--
俺「なあ、どのへんで落ちたんだ?」
翔平「えーと、多分ここだ」
俺と翔平は分裂が発生したと思われる姫石山にいた。
ちなみに立ち絵真ん中の翔平はシフトどおりにバイトに行った。
俺「しかしここは下に落ちても土が柔らかいから助かるよな。俺も昔落ちたことがあるわ」
翔平「そうなんだっけ?」
俺「あれ、言わなかったか?」
翔平「うーん、覚えてない」
そんなことを言いながらガードレールがないところから下にゆっくり降りていくと・・・・・・
俺「ん・・・・・・なんだこれ?」
そこには謎の機械があった。
地面から一部しか形が見えておらず、かなりの大きさのように思える。
翔平「この機械がもしかして原因かも」
俺「・・・・・・ちょっと試してみるか」
俺は恐る恐るだがその機械に手を伸ばした
翔平「・・・・・・大丈夫なのかな?」
・・・・・・
・・・・・・
翔平「何も起こらないね」
俺「何かが足りないのか・・・・・・」
足りないものと言えば・・・・・・
「速さが足りない!!」
そう、翔平は下り坂でスピードがついて崖下に落ち、機械が作動して分裂したのかもしれない。
翔平「と言ってもかなり怖いけど・・・・・・」
俺「確かに・・・・・・」
ただ1度落ちたこともあるからか、恐怖心よりも好奇心が勝ってしまった。
俺「・・・・・・やってみるか」
〇山道
俺「じゃあ、行ってみるわ」
翔平「・・・・・・気をつけて」
俺は自転車を漕ぎ出す。
下り坂でスピードが徐々に付き始める。
〇山道
例のコーナーに近づく。
自転車とは言え30km/hはゆうに超えているだろう。
俺(大丈夫だ、前も落ちたことがあるし、前も落ちて・・・・・・)
俺(あれ?)
〇山道
俺(落ちて、どうなったんだっけ・・・・・・・・・?)
そう思った瞬間、ガードレールのない所から自転車が崖下へ飛び出した――。
〇血しぶき
〇病院の診察室
俺「本当に、もう動かないんですか?」
俺は震える唇でそう言った。
医者「・・・・・・残念ですが、事故の影響で脊髄を損傷しております」
医者「命に別状はありませんが、首より下はもう動かせることはないでしょう」
絶望的な事実を淡々と述べる医者
俺「うううううううわああああああああああああ」
俺は叫んだ。
身体全体を動かそうとしたが体は動かせず首だけを振る形になる。
本当に、もう動かないのだ。
医者「・・・・・・1つ、解決策では無いですが対処方法はあります」
俺「それはなんですか!教えてください!」
医者は薬を取り出し、こう言った。
医者「この薬は昏睡状態になりますが、自分の意識を妄想の世界に「分裂」させ、思い通りの生活をすることができます」
医者「全てがまやかしですが、このまま首しか動かせない人生を過ごすよりも、意識だけは楽しい世界で過ごすことはできます」
俺「お願いします。その薬をください!」
医者「・・・・・・分かりました」
医者「ただ、妄想の世界で強い衝撃を受けたり、現実世界のことを強く思い出そうとすると昏睡から醒めてしまいます」
医者「妄想の世界は基本夢みたいなものです」
医者「不本意に強い衝撃を受け昏睡から醒めるときもあるでしょう」
医者「その時はまた処方します」
〇病院の診察室
俺は目を開ける。
白い天井が目に入る。
俺「ああ・・・・・・」
俺は絶望した声でそうつぶやく。
医者「醒めてしまったのですか・・・・・・」
俺「すみません、また処方してください・・・・・・」
〇山道
翔平「ねえ、大丈夫?」
翔平が声をかけてくる。
ここは・・・・・・崖下か?
ああそうだ、俺は翔平の分裂の原因を探ろうと山に来て、自転車で崖下に落ちる実験をしていたのだった。
翔平「ちょっと気を失ってたみたいだけど」
俺「夢を見ていたような気がする。なんの夢だったっけな・・・・・・」
翔平「本当に大丈夫?病院行く?」
俺「病院・・・・・・?あぁそうだ。事故を起こして病院にいる夢を見たような気がする」
翔平「縁起悪いなあ」
俺「まあでも大丈夫。この通り身体は元気だから」
翔平「なら良いけど・・・・・・今日はもう帰ろう」
俺「そうだな、またもう1人の翔平と分裂の原因を考えないとな」
俺と翔平は自転車をこいで坂を下り家路に向かう。
そう、あれは夢。
〇山道
俺は オレは ゲンキ ソのものダ。
分裂…自分と全く同じ人間がいたらすごく怖いですね。
特に自分のことは皆自分が一番知ってるからこそ怖いです。
話は合うから話してみたら楽しいかもしれませんが笑
最後すっごく怖かったです!
これが全部彼の空想の話なら…そのほうがよかったのかもしれませんね。
落ちたのは翔平くんじゃなく、自分?
なんだかゾクっとしました。
オチ、よかったです。びっくりするような、そうきた、みたいな感じでした。自分が分裂するとメリットがあるようなないような、時々忙しすぎてもう一人の私が欲しいと思うときは実際ありますが。