3度目の正直(脚本)
〇ホテルのエントランス
ミヤケミチオ「予約したミヤケだが」
ホテルマン「ミヤケミチオ様ですね」
ホテルマン「ロイヤルスイートで一泊、承っております」
ミヤケミチオ(クリスマスにスイートを予約)
ミヤケミチオ(周りには恋人と甘い夜を過ごすと思われたか)
ホテルマン「こちら、ルームキーでございます」
ホテルマンが含み笑いで耳打ちする
ミヤケミチオ「ありがとう」
『秘密』を共有するように俺は微笑んだ
〇貴族の部屋
すぐに部屋をチェックする
ミヤケミチオ「もう失敗は許されない」
ミヤケミチオ「彼女には2回フラれている」
ミヤケミチオ「俺の思いを打ち砕かれたんだ」
念入りに細部まで調べ上げる
なぜなら・・・
隣の部屋と同じ間取りだからだ
ミヤケミチオ「今度こそ成功させないと・・・」
俺はルームキーを見つめる
ホテルマンから受け取った──
『隣の部屋のルームキー』を
〇スポーツクラブのプール
プールにやってくると・・・
ちょうど彼女の姿を見かけた
ミヤケミチオ(一段と綺麗になっている)
俺の心を虜にするのは『片桐杏奈』という名だった
片桐杏奈「パパー!」
杏奈の父「杏奈、早く泳ごう!」
片桐杏奈「えー! 杏奈、泳げないもん!」
杏奈の父「パパが教えてやるから!」
片桐杏奈「杏奈、ママと泳ぎたい!」
杏奈の母「もう部屋に戻るわ」
片桐杏奈「ママ・・・」
ミヤケミチオ(杏奈が悲しんでる・・・)
杏奈の父「ほら、パパと泳ごう!」
片桐杏奈「泳いだらサンタさん来る?」
ミヤケミチオ(さ、サンタさん・・・)
杏奈の父「元気に泳げばきっと来るよ!」
片桐杏奈「じゃ、泳ぐ!」
俺はそっとその場から離れた
絶対、杏奈に見つからないように
なぜなら俺は・・・
〇貴族の部屋
日付がかわった
いよいよ決戦の時!
俺は『戦闘服』に着替える
これから、杏奈にプレゼントを届ける
それが俺のミッションだ
〇部屋の扉
ミヤケミチオ(きっと杏奈も寝ているはず)
ミヤケミチオ(そのためにプールで泳いだんだ)
ミヤケミチオ(子供を疲れさせて眠らせるのが、親の仕事)
ミヤケミチオ(俺たちサンタは、親やホテルとも提携している)
ミヤケミチオ(すべては、子供たちに見つからないように・・・)
俺はルームキーで、杏奈の部屋のドアを開けた
かちゃり
ミヤケミチオ(──大丈夫だ)
ゆっくりドアを開け、隙間から手を突っ込み・・・
ノブにぶら下がっていた『鈴』をつかむ
ミヤケミチオ(フーッ やっぱり去年と同じ、鈴だ)
ミヤケミチオ(でもまだ油断はできない)
ドアの向こうにも、いくつもの鈴が転がっていた
ミヤケミチオ(一つでも蹴飛ばせば、杏奈は起きるだろう)
俺はそれらを避けて、部屋の中に侵入した
〇暗い廊下
ミヤケミチオ(杏奈の寝室はこの奥だ)
俺は息を押し殺して寝室に──
ミヤケミチオ「えっ・・・!」
足が糸を引っ掛け、その先の花瓶が落ちる
ミヤケミチオ(や、やばい!)
スライディングした俺は間一髪、花瓶をつかんだ
ミヤケミチオ(こんなトラップまで仕込むとは)
ミヤケミチオ(去年より比べ物にならないくらい成長している)
ミヤケミチオ(でも、俺だって命懸けだ!)
なぜなら
サンタにはいくつかの『掟』が存在する
最近は煙突のない家がほとんどだ
親は鍵を開けたり、子供たちの欲しい物を聞き出す役目
夢のない話だが、子供たちの夢を守るため
しかし、中には起きている子供がいる
意地でもサンタの正体を暴こうとする子供が
ミヤケミチオ(俺はこれまで2度、杏奈に顔を見られていた)
ミヤケミチオ(もしあと一回、見られたら・・・)
サンタクロースを『降格』になる
ミヤケミチオ(倉庫勤務だけは勘弁してほしい)
ミヤケミチオ(だから今日は絶対、成功を──!)
ミヤケミチオ「いてっ!」
レゴが撒き散らされていた
それからも目覚まし時計を止め、いきなり走り出した列車のオモチャを分解し、シンバルを叩く猿を踏みつけ、寝室にたどり着いた。
〇貴族の部屋
ミヤケミチオ(よし、寝ている 今のうちに・・・)
プレゼントを枕元に置いた俺は、次の瞬間!
ミヤケミチオ「ぎゃあああー!」
なにかが足首を掴んだ!
片桐杏奈「サンタさん、捕まえたっ」
杏奈がベッドの下から現れた
片桐杏奈「ねぇ、それプレゼント?」
ミヤケミチオ「あぁ、そうだ ペリキュアの変身セット」
片桐杏奈「弟じゃ、ないんだ?」
聞き取り調査で、3つまでプレゼントを調べ上げる
ミヤケミチオ(杏奈が1番欲しいものは『弟』だった)
ミヤケミチオ(そして二つ目が『妹』だ)
今にも泣きそうな杏奈を、ベッドの下から引っ張り出した
ミヤケミチオ(親は離婚寸前で、修復のためロイヤルスイートを予約した)
ミヤケミチオ(それを察した杏奈は、弟か妹がいればまた両親が仲良くなると・・・)
片桐杏奈「やっぱり離婚しちゃう・・・ 杏奈、捨てられる」
ミヤケミチオ「みんな君のことが大好きだ お母さんもお父さんもな」
片桐杏奈「サンタさんも・・・?」
ミヤケミチオ「あぁ、サンタさんも好きだよ 君は1人じゃない」
片桐杏奈「じゃ、杏奈のことお迎えに来てね!」
ミヤケミチオ「お、お迎え?」
片桐杏奈「杏奈もサンタさんのことが、大好きなの!」
片桐杏奈「大きくなったらここで働くから、お迎えに来てね!」
ミヤケミチオ「あぁ、分かった この部屋を予約するよ」
片桐杏奈「絶対だからね!」
〇ホテルのエントランス
15年後
ミヤケミチオ「予約したミヤケだが」
片桐杏奈「ミヤケミチオ様、ロイヤルスイートで承っております」
ホテルマン「杏奈、これってどこに?」
片桐杏奈「ちょっと、仕事中は名前で呼ばないで!」
片桐杏奈「あっ、失礼いたしました こちらルームキーでございます」
ミヤケミチオ「ありがとう」
俺は杏奈に向かって微笑んだ
ミヤケミチオ(お似合いの2人だな 倉庫勤務の俺が出る幕じゃない)
ミヤケミチオ(ひと目だけでも顔を見れたらそれでいい)
片桐杏奈「あのっ、ミヤケ様!?」
ミヤケミチオ(杏奈?)
片桐杏奈「あの、どこかでお会いしたことがありますか?」
ミヤケミチオ「いや、どうして?」
片桐杏奈「ミヤケミチオ様 漢字だと『三宅路雄』と書かれますよね?」
俺が書いた宿泊者カードを差し出す
片桐杏奈「三宅路雄・・・サンタクロースって読めます」
ミヤケミチオ「それは今日がイブだからそう思うんじゃ? 君もデートだろ?」
片桐杏奈「デート?」
ミヤケミチオ「さっきのフロントの」
片桐杏奈「あぁ、あれは弟です すぐに私を名前で呼ぶので」
ミヤケミチオ「それじゃ、願いが叶ったわけか」
片桐杏奈「願い?」
ミヤケミチオ「いや、君は俺がサンタクロースと言ったら信じるの?」
そう尋ねると、杏奈が俺の目を見つめる
片桐杏奈「私・・・」
杏奈がにっこりと微笑んだ
片桐杏奈「信じます!」
15年間もあんなちゃんの事を気にかけていた三宅さんは本物のサンタクロースですね。彼も願った幸せが彼女に届いたみたいで素敵なラストシーンでした。
サンタさんを捕まえるための罠がすごいですね。
でも、彼女は両親の仲を危惧してこういった行動にでたんですよね。
ちょっと子ども心に切なくなりました。
そして将来の約束を守って、ホテル勤務ができてよかったと思います。
名前に、こんな秘密がかくれているとは!それにしてもあんなちゃんのお願いが叶ったということは、あのスイートルーム宿泊はうまくいったってことなんですね。それがわかる優しいエンディングでよかったです。