読切(脚本)
〇川沿いの原っぱ
???「おや、珍しい。 私の事を見ても驚かないなんて」
幽霊「目が合うと、大抵の人は走って逃げ出すのですけれどね」
優馬「・・・慣れてるから」
幽霊「おお、霊感体質ってやつですか? 面白くもない」
幽霊「ならこんな格好してても仕方ないですね」
優馬「あんたは?」
幽霊「見ての通り、地縛霊です」
幽霊「生前の記憶は何ひとつないですけれど。 きっと未練と憎しみをたっぷり抱いて死んだのでしょうね」
幽霊「ちなみに趣味は他人を呪う事で、 嫌いなものは幸せそうにしている人間です」
優馬「タチ悪・・・」
幽霊「まあ、ここで逢ったのも何かの縁です。 これからも仲良くしようじゃないですか」
幽霊「なんなら、帰りに毎日立ち寄ってもいいんですよ?」
幽霊「そして、学校でやらかした失敗談などを聞かせてくれたら喜びます」
優馬「──明日からは別の道を通って帰ろう」
幽霊「近いうち、あなたの身の回りの人達に何らかの災いが降りかかる気がしてきました」
優馬「分かったよ。寄るよ。 やめてくれ」
幽霊「ふふ。 暇つぶしが出来てうれしいです」
・・・
優馬「来たよ」
幽霊「おや、今日も来てくれたのですね」
幽霊「ここのところ毎日来てくれてうれしいです」
優馬「来なきゃ呪うとか言うからだろ」
幽霊「ふふ」
幽霊「ところで、その格好は?」
優馬「ああ。 着替えるの面倒だから部活のまんま」
幽霊「この前言ってましたね。 部活頑張ってるって」
幽霊「気に入りません」
幽霊「青春っぽい事をしている人を見ると虫唾が走ります」
優馬「じゃあ、もっと不快になる報告してあげようか」
幽霊「ほう?」
優馬「レギュラーになったよ。俺」
幽霊「それはすごい」
幽霊「シンプルに不愉快です」
幽霊「試合中にバナナの皮でも踏んで転べばいいのに」
優馬「「今度応援に行きますね」 ──くらいの事を言っても、バチは当たらないと思うよ」
幽霊「無理ですね。 私はここから動けませんから」
幽霊「生粋の地縛霊なのですよ。 私は」
優馬「多分それ『生粋』の使い方間違ってるぞ」
優馬「別にいいけどさ」
・・・
幽霊「友達ですか?」
優馬「いや。女の子。 この前告白された」
幽霊「・・・」
幽霊「しれっと言いますね」
幽霊「よかったじゃないですか」
優馬「まあ、断るけどね」
幽霊「どうしてです?」
優馬「当たり前だろ。 あんたの前で幸せそうにしてたら、逆恨みで二人とも呪われそうだし」
優馬「それに俺、他に好きな人いるし」
幽霊「・・・」
幽霊「どんな人ですか?」
優馬「変な女だよ」
優馬「口が悪くて、性格も悪い」
幽霊「それは最低ですね」
優馬「ああ」
優馬「でも本当はいい奴で。あたたかくて」
優馬「一緒にいると安心するんだ」
優馬「・・・でも、だからこそ。 早く成仏してほしいって思ってる」
優馬「ちゃんと、幸せになってほしいから」
幽霊「・・・・・・」
幽霊「ずっとしたかったですよ。成仏」
幽霊「でも今は・・・したくないです」
幽霊「消えたくないです」
幽霊「だから・・・苦しいです」
幽霊「あなたは、いじわるですね」
幽霊「私なんかより──ずっとずっと、いじわるです」
幽霊さん、なかなかのねじ曲がった性格で、口が悪いと思っていたら、次第に……
ラストのセリフ、とても心に残ります。いいシーンですね!
優馬の優しさが切ないです。幽霊の本質を見抜けるなんて大したものですね。せめて淡い恋心を持ったまま成仏させてあげたいですね。優馬にとっても悲しい別れが待っていると思うとなんだか辛いです。
「生粋の地縛霊」という表現には笑ってしまいました。この世で恋をしたばっかりに、この幽霊にとっては「残るも地獄、成仏するも地獄」になってしまったのか。理由はどうであれ、優馬がいつかこの道を通らなくなる日が来ると思うと切ないですね。