飛べない女(脚本)
〇学校の屋上
空が遠くにあることに気づいたのは
いつ頃だろう。
私は屋上が好きだった。
あんなに遠い空に手が届きそうで、
ほんの少しだけ鳥になれるから。
あおい「・・・・・・決まった?」
私が首を傾げると、
彼女は少し不貞腐れた。
あおい「ギターだよ、ギター どれにしたの?買うやつ」
あおい「さっきからその話しかしてないじゃん」
私は反射的に小さな声で謝った。
あおい「謝んなくていいから、 で、何にしたの?」
私は慌てて
ジャズマスター
と答えた。
あおい「ジャズマスターね、 いいじゃん」
そう言ったいつも通りの
優しい声を聞いて、
私は安堵した。
彼女の少し嗄れてるくせに、
耳心地のよい透き通った声は、
怒る時は刀のように鋭く、
褒めるときはひだまりのように暖かい。
私はそんな彼女の声が好きだった。
声だけじゃない。
その整った顔も、
今にも風に攫われそうな柔らかな髪も。
彼女を構成する全てが、
好きだった。
所謂、これが
恋というやつらしく、
私もこれが恋だとわかっていた。
あおい「・・・・・・ってば!!!」
私はまたやってしまったと気づき、
怯えた声で返事をした。
あおい「また、そうやってぼーっとして。 いつもそんなんだから大事なことを 聞き逃すんだよ」
また怒られているというのに、
私は少し嬉しくて、少しにやけながら誤った。
あおい「でも、急に君がギターを買うって言ったときは驚いたよ」
あおい「勉強、勉強、勉強。 3度の飯より勉強の君が、 まさかロックを好きになってくれるなんて」
あおい「もしかして・・・ 私、悪い影響与えちゃってる?」
私は何かを繕うように、
決して君の影響なんかじゃない
と嘘をついた。
あおい「ふふ、安心して冗談だから。 ロックってのは不良とかじゃないしね」
私がまた首を傾げると、
彼女は屈託のない笑顔で言った。
あおい「ロックてのはね、 自由なの!」
あおい「だから、 誰がやってもいいし、何をやってもいいの ほら、あの飛んでる鳥みたいにね」
私は、だからかと思った。
私が彼女に惹かれる理由がわかった気がした。
あおい「風が気持ちいいね」
あおい「で、・・・・・・どうする?」
私は今回はすぐにそれを理解した。
理解した上で黙ってしまった。
あおい「私は、いくよ」
私は、
それがいけないことだとわかっていた。
ただ、その迷いがない、
いつも通りの声を聴くと、
自然と頷いてしまった。
あおい「ちゃんとギター練習するんだよ?」
あおい「約束ね」
そういって、彼女は飛んだ。
私はそれを見ているだけだった。
私もいつか、彼女のように
自由に飛べたらと、空を見上げた。
嫌味のように綺麗な空だった。
青空の下がすごくピッタリなお話ですね!彼女の自由闊達さ、エネルギーに溢れた様子が伝わってきて、とても爽快な気持ちになれます!
素敵なお話でした🌟
ジャズマスター、カッコいいですよね...学生時代に憧れてました✨(結局めっちゃ重いレスポールをおさがりで譲ってもらい弾いてましたが💦)
語り手は、あおいが好きなように生きるのを傍で見つめているのが好きなように、好きな時に飛んでいくのも傍で見つめていることを選んだんでしょうね。そのすべてをひっくるめてあおいが好きだから、という理由で。これからはギターを弾くたびにあおいの存在を感じるのかと思うと切ないですね。