読切(脚本)
〇大水槽の前
女「・・・何してんの?こんなとこで?」
藪から棒に聞こえた声を、目だけで追う。
声の主は、見知らぬ女だった。
俺「何って・・・せっかくの休日にこんなとこに来てる暇な奴らを眺めてるだけさ」
女「変わった趣味ね。暇なのはアンタも同じじゃない」
女「ま、アタシは別に気にしないけど」
俺「・・・何か用か?」
女「あら、退屈そうだから来てあげたのに。 つれない言い方ね」
女の身なりは異様なまでに綺麗に整えられていた。すらりとした体にぱっちりとした目。一般的には美女と呼ばれる部類だろう。
女「あなた、ずっと”そこ”に居るわよね」
女「あれ、あなたの友達じゃないの?」
水槽の前で屯している男達を親指で指し、女は言った。
俺「群れるのは好きじゃない。馴れ合いは嫌いだ」
俺「一人の方が好きだ。その方が楽で過ごしやすい」
女「あら、寂しい男ね」
俺「お気遣い感謝するよ」
女「でもアタシも、群れてキャーキャーやるのは嫌いだわ。サバサバしてるもの、アタシ」
俺「同じ意見で何よりだ」
女「私達、気が合うのかも知れないわね」
女「・・・今からどっか食べに行かない? どうせ暇なんでしょ?」
俺「・・・悪いけど、遠慮しとくよ。 青魚には興味が無いもんでね」
女「・・・・・・」
女「・・・あら、そうなの」
女「それじゃ」
そう言うと女は、即座にひれを返して、上を泳いでいた男にまた話しかけに行った。
水槽の中の世界、そこにも我々の周りで見かけるような世界があるのかもしれませんね。サバサバしたサバ、すっごくイイですねー!
水槽の内側も外側もやってることはあまり変わらないんですね。それにしても美女のサバはアンコウを誘って何を食べに行こうとしてたんだろう。これからスーパーでサバを見るたびに「あんた、アンコウに振られてたよね」と思ってしまいそう。
どんな動物にでも性別はあり、それぞれが子孫繁栄とは言い方古いですが、その相手を探す旅をしているんだなあと、とても想像力を掻き立てられるお話でした。