今年はまだ、終わらない

チリナベ

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〇川に架かる橋
  クリスマス。それは、多くの日本人が都合よく神を信じ、下らない馬鹿騒ぎとなんちゃらの6時間のためにキリストの降誕を祝う日。
  中にはこの時期に合わせて恋仲を作る輩もおり、そいつらは大抵恋人がいない奴に対し

〇まっすぐの廊下
健二「僕もお前らと遊べなくて残念だよw」
健二「まあ、家族との時間も大事だよなw」

〇川に架かる橋
  とか言ったりして悦に浸るのが目的だ。
  最低な野郎だ。絶対に許さないからな、健二。
暁 汐里「吹雪、まーた下らないこと考えてるでしょ」
吹雪 陸「いや、そんなことはない、俺はこの国の今後を憂いていたんだ」
暁 汐里「何に対して?」
吹雪 陸「現代日本人の宗教意識と国民性に対して」
暁 汐里「やっぱくだらないじゃん」
吹雪 陸「ほっとけ」
  どうでもいい話をしながらのんびりと歩く学校の帰り道。他に生徒はいない。
  それもそのはず、本日はクリスマスイブ。こんな日にわざわざ学校に行く物好きはほとんどいない。
  まあ、まだ夕方だから正確にはイブではないんだけどね。
  隣を歩いているのは暁汐里、文芸部の副部長をしている。因みに部長は俺だ。まあ、そもそも部員が2人しかいないのだが。
暁 汐里「そんなにリア充は嫌い?」
吹雪 陸「ああ、嫌いだ。何だったらリア充以外の人間も嫌いだ」
暁 汐里「何それ。なら私も嫌いってこと?」
吹雪 陸「嫌いならそもそも喋りながら一緒にかえってない」
暁 汐里「なら好きってこと?」
吹雪 陸「好きだったらとうの昔に告白して振られている」
暁 汐里「なんで、振られる前提だし」
吹雪 陸「あ?」
暁 汐里「え?」
  頭が一瞬フリーズし彼女の顔を見る。そこにはいつも通りの笑顔がそこにあった。
  なんか今、返答おかしくなかったか?いや、気のせいか。これも全部健二のせいだ。おのれ健二、呪ってやる。
吹雪 陸「まあ、お前は例外だってこと。まあ、家族みたいなもんだしな」
暁 汐里「つまりお嫁さんってこと?」
吹雪 陸「え?」
暁 汐里「ん?」
  もう一度彼女の顔を見る。そこにはさっきと同じ、変わらない笑顔があった。
  え?何言ってんだ、こいつ。何でそんなセリフ平然と言えんの?ホストなの?やだ、口説かれてるわ。どうしましょ。
吹雪 陸「どしたの?なんかあった?」
  いつもはこんなからかい方はしない。確かに会話の弾みに冗談や噓はよく言うが、この手の冗談は嫌いなはずだ。
暁 汐里「いや?特に心境の変化とかはないよ」
吹雪 陸「じゃあ、環境が変化したってことか」
暁 汐里「あー、まあ、確かに変わったね。人肌が恋しいし、カップルだらけで羨ましいなって思うし」
吹雪 陸「安心しろ。あいつらは年末までに大半が別れる」
吹雪 陸「そのころには「やっぱり正月は家族で過ごしたいよね。」とか、「寝正月サイコー!」とか言って手のひら返している。めんこかよ」
暁 汐里「いや、そういう事が言いたいんじゃなくて。はあ、そういう所、本当に直した方がいいよ」
吹雪 陸「なんで急に怒られるん?ごめんて、」
暁 汐里「まあ、いいよ、そういう人だもんね、吹雪は。しょうがない、お汁粉で手を打とう」
吹雪 陸「当たり屋かよ。まあ、おごるけどさ」
  ガコンッ
  自販機からお汁粉を2つ出す。
吹雪 陸「ん」
暁 汐里「ん。ありがとう」
  2人でお汁粉を飲む。小豆のまったりとした甘さが体に沁みる。
吹雪 陸「で?ホントのところ、何があったの?」
  遠回し言うのは苦手なのでストレートに聞く。
暁 汐里「んー、まあ、簡単言うと勇気が出ないんだよね。気持ちを伝える勇気が」
吹雪 陸「ああ、そゆこと」
  彼女の夢は小説家だ。
  現在、暁は理系の大学に進学を希望している。親の都合ってやつだろう。しかし、彼女はまだ諦めれていない。
  こうして冬休みまで学校に行き、部活と称して執筆し続けているのがいい証拠だ。
  つまり、暁は親に理系ではなく文系の大学に行きたいと伝えたいのだろう。
吹雪 陸「まあ、暁のしたいようにすればいいんじゃない?どっちを選んだって後悔は残るんだから」
暁 汐里「っふ、なにそれ。でも、それもそうかもね」
  彼女は力なく笑う。
暁 汐里「どっちにしろ、後悔しか残らないかもね」
  そう呟いた後顔を伏せて黙ってしまった。
  やってしまった。完全に言葉のチョイスをミスった。やっぱり遠回しに言うのは苦手だ。
吹雪 陸「いや、まあ、あれだ、考え過ぎても動けなくなるだけから、心で決めるのがいいっていうのを言いたかったのであって、」
吹雪 陸「それに、どっちを選んでも俺はそばにいるっていうか。・・・その、悪かった」
  うだうだと言葉を並べて、結局、謝ることしか出来なかった。
暁 汐里「ふふっ、大丈夫だよ。言いたいことは伝わってる。ありがとう、勇気出た」
  彼女は笑顔でそういった。その笑顔は優しく、見惚れるほど綺麗だった。
  お汁粉を飲みきり、また歩き出す。言葉は発さなかったが、気まずさは感じず、それどころか何処か心地良かった。

〇住宅地の坂道
  しばらく歩いた後、別れ道に着く。
暁 汐里「じゃあ私、こっちだから」
吹雪 陸「おう、よいお年を」
暁 汐里「うん、よいお年を」
  今年の部活は今日で最後なのでそれっぽい挨拶をして別の道を行こうとする。
  すると突然、肩をつかまれた。
暁 汐里「ねえ、ひとつ言い忘れたことがあった」
吹雪 陸「ん?どした?」
  肩をそのまま引っ張られ頬にキスをされた。
暁 汐里「メリークリスマス!陸。来年もよろしくね」
吹雪 陸「・・・・・・、は?」
  汐里はしてやったりっといった顔で駆けていく。
  健二、どうやら、今年はまだ終わらないらしい。

コメント

  • 最後のキスのところすごく好きです。
    読んでてキュンキュンしましたが、彼は本当に気づいてないんでしょうか?
    二人のまどろっこしさがよけいに楽しくさせてくれるいいお話でした。

  • 青春ラブストーリーですね。胸キュンでした。
    吹雪くん、一気にリア充の仲間入りですねー!クリスマス、恋人のいないときはリア人爆発しろって思ってたけど、家族ができた今はまた違ったイベントになりましたね。

  • 言いたい事の半分も言えない時って、本当に相手が好きでたまらない時ですよね。二人のその空気感がとても伝わってきました。新しい年を迎える前に、二人で新しい一歩を踏み出したところですね、がんばってほしい!

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