空(脚本)
〇空
シラユキ「空が、青い・・・」
シラユキ「空だけは青い・・・」
シラユキ「この灰色の世界で唯一の青」
シラユキ「きっとわたしの還るべき場所・・・」
シラユキ「手を伸ばしても届かない」
シラユキ「この身体を捨てたら還れるかな」
シラユキ「ねえ、神様・・・」
〇空
──”シラユキ”。
永遠の冬を生きるわたし。
雪の降る街でただひとり生きる。
雪解けを待っていた。
春の訪れも。
暖かな朝を待っていた。
雪は降り積む。
すべてを埋め尽くしてゆく。
自分という存在さえ埋もれてゆくような気がした。
シラユキ「わたしはだれ?」
空に問いかける。
答えはなかった。
〇荒廃した街
この街は嫌いだ。
“壊れているから”。
わたし以外に誰もいない街。
わたししか知らない街。
ここがどこだったかなんてもう忘れてしまった。
気付いたらここにいた。
世界がどうなったのか、わたしには興味がなかった。
他人にすら興味がなかった。
それでも──。
ひとりはさみしいと思った。
死のうと思った。
怖くて出来なかった。
だから惰性で生きている。
生きる?
なんのために?
人はいつか必ず死ぬ。
それが遅いか早いか、というだけで。
生きることは苦しくて難しい。
わたしには生きる才能がなかった。
なにひとつうまく行かなかった。
選択を間違え続けた。
・・・いまはもうどうでもいい。
この街に来てから何も食べていない。
睡眠すら取っていない。
わたしはもはや人間ではないのかもしれない。
不老不死の化け物、あるいはすでに死んでいるとか。
確かめる術もない。
街の外へ出る気力もない。
ただぼんやり空を眺めているだけ。
ああ・・・。
シラユキ「だれか助けてよ」
シラユキ「なんてね」
シラユキの心の声と対称的な【人生は一度きり】というフレーズ、人生は冬の時期もあり、雪解けていく時期もあるものだから、もう少しその時期をまって謳歌してほしいと切に願います。
語られていることが事実なのかシラユキの心の中の心象風景なのか。確かめる術が読者にはないまま、彼女の心の闇に一緒に飲み込まれていきそうになります。「空だけが青い」というのは残された僅かな希望の象徴なのでしょうね。