花の依頼(脚本)
〇大きな日本家屋
ザッザッ
文也が玄関の掃除をしている時・・・
詩織「お兄ちゃん」
文也「どうした?詩織」
詩織「落ちてた」
妹の詩織が花を彼に差し出した。
文也「えっと・・・・・・」
鬼灯「ペンタスだな」
文也「うわっ!」
詩織「あ、鬼丸のお兄」
文也「び、びっくりした・・・」
鬼灯「そりゃ悪かったな」
詩織「ペンタスってお花なの?」
鬼灯「おう。確か・・・花言葉は『希望が叶う』や『願い事』だったか?」
文也「へぇ・・・・・・」
詩織「それ、依頼?」
「あ」
〇おしゃれな居間
翌日。
玄関にはキョウチクトウとオトギリソウ、クローバー、オドントグロッサムが置かれていた。
流石に不思議がった文也と鬼灯は双子の元へとその花を運ぶ。
鬼灯「キョウチクトウは用心、注意。オトギリソウは迷信、敵意、秘密、恨み」
鬼灯「クローバーは幸福、復讐。オドントグロッサムは特別な存在だな」
桔梗「うわぁ、意味深だね」
鬼灯「前日はペンタスだった」
咲良「・・・・・・花鬼」
「花鬼?」
咲良「花に纏わるオニ。花を贈るだけなら・・・花妖精かな」
詩織「可愛い名前」
輝久「花妖精も弱いオニ。声すら出せないから、花に想いを託す」
鬼灯「其れはつまり・・・・・・」
桔梗「オニからの依頼?」
「かもね」
文也「えーっと、その花妖精は何処に?」
咲良「花妖精は昼間は花畑に居るよ」
鬼灯「まさか依頼人探す所から始めるとはな・・・」
詩織「・・・・・・あ、心当たりある、かも」
文也「え?そうなの?」
詩織「うん。学校の裏に・・・花畑がある」
文也(やっと自由になれて、此処から学校に通わせて貰ってるけど・・・そんな場所にも、オニっいるんだ)
「行ってみよう」
詩織「案内、する」
〇菜の花畑
咲良「うん、この広さなら居るかも」
文也「この中からどうやって探すんですか?」
咲良「確か歌うと出て来るって話だったかな」
「歌・・・」
文也「?」
顔ごと目を逸らす鬼灯。
詩織「鬼丸のお兄、歌上手」
文也「え、そうなんだ。というか、詩織は何で知ってるの?」
詩織「偶に聞かせてくれるから」
文也「へぇ・・・」
鬼灯「・・・~~俺は言葉に関わる鬼だから多少は上手くねぇといけねぇんだよ!」
「照れてる」
鬼灯「うるせぇ!!」
鬼灯「・・・・・・はぁ・・・」
咲良「歌に拘りは無い筈だよ」
詩織「なら、あの歌がいい。洗濯干しながら歌ってたの」
鬼灯「ぐっ、アレは聞かせようと思って歌ったヤツじゃねぇ・・・」
鬼灯「・・・・・・──♪」
「あ」
「あ」
咲良「君は花妖精だね」
コクンと頷く手のひら程の小さなオニ、花妖精。
詩織「可愛い・・・」
咲良「君が依頼を?」
再び頷く花妖精。
そして、花妖精は詩織と文也を指さす。
「もしかして、復讐?」
「え」
花妖精はコクコクと何度も頷いた。
咲良「多分、花妖精は毎朝来ているシオちゃんを見てたんだよね」
輝久「そして、シオちゃん達を狙っている奴等に気付いた」
鬼灯「復讐・・・・・・っつーと、夜月か?」
文也「そ、そんな・・・」
鬼灯「あー、贔屓の鬼は桜が倒しちまったし」
桔梗「長と強そうな人は菊が倒しちゃったからね」
文也「・・・・・・夜月は中々に古い家だから」
詩織「家を出たのも狙われる理由かも」
輝久「・・・なら、誰を敵に回してるか教えてあげればいいんだよ。ね、桜」
咲良「・・・・・・そうだね」
今度は白いアネモネ、パキラを降らせる花妖精。
鬼灯「・・・桜が勝つ事を確信してやがるな」
咲良「そう・・・ちょっと不便だね。シオちゃん」
詩織「?」
咲良「君の祝福でこの花妖精に喋る力を付与してあげて」
詩織「分かった」
花妖精「・・・ありがとう、特別な人」
詩織「あ、喋った」
花妖精「本当は、私が貴女を護りたいけど・・・私は弱いから」
咲良「忠告だけで十分だよ。此れはそのお礼」
花妖精「感謝します、尊き方」
文也「尊き・・・・・・?桜君が?」
花妖精「ええ。尊き方と特別な人はオニの中では有名だから」
「・・・・・・・・・」
文也「オニの中で有名なんですか・・・・・・」
花妖精「兄君様も有名ですよ?」
文也「え?だって、異能すら持ってないのに?」
花妖精「あります。貴方の異能があるから、貴方達兄妹は奪鬼に惑わされなかった」
咲良「・・・そっか、文君の異能の正体が分かったよ」
文也「え?」
咲良が文也の方に手を向けた。
しかし、何も起こらない。
咲良「文君の異能は、向けられた力を相殺する能力なんだよ。其れも無意識に」
「へぇ・・・」
鬼灯「まるで拒絶してるみてぇだな」
「じゃあ、文君の異能は『拒絶』で」
鬼灯「え」
文也「あったんだ・・・異能が・・・」
詩織「良かったね、お兄ちゃん」
咲良「・・・・・・」
咲良「今回は、私が行くよ」
輝久「桜・・・」
咲良「大丈夫。菊は文君とシオちゃんを頼むよ」
鬼灯「念の為、俺も行くぞ」
桔梗「気を付けて。二人は任せて」
咲良「花妖精、念の為二人と一緒に居て」
花妖精「はい」
輝久「・・・・・・・・・」
輝久「・・・私達は帰ろうか。花妖精ちゃんが住める花畑を家に作らないと」
花妖精「!一緒に住んでいいのですか?」
輝久「うん、いいよ。シオちゃん、文君、名前をつけてあげて」
「え」
〇川沿いの原っぱ
文也「・・・あの、桜君って・・・オニに詳しいですよね?」
桔梗「そうだねぇ。僕達も割と同族のオニの事しか知らないんだけど、桜は全てと言っていい程知ってる」
文也「どうして・・・」
輝久「其れしか許されなかったから」
「!」
輝久「其れしか許されなかった。奴等は桜をそういう風にしか扱わなかった」
文也「奴等?」
花妖精「その先は知らなくても良いかと」
輝久「・・・・・・どっちみち話せないよ」
桔梗「・・・・・・ふぅ」
〇草原の道
「・・・・・・・・・・・・」
咲良「・・・・・・居た」
鬼灯「おう」
咲良「ねぇ、文君とシオちゃんを狙ってるの?」
男「!!」
男「そうだ。特に娘の方は器になれる。生贄にすれば大いに役立つ」
咲良「“器”・・・」
器、其れは神が降り立つ為に必要とする存在。貴重な存在である。
そして、器はオニにとって進化を促す絶品食材でもあった。
咲良「器っていう単語・・・菊、嫌いなんだよ」
〇古めかしい和室
「『貴方は何れ──様の器となるの』」
「『余計なものは要らん』」
「『書庫ならば良かろう』」
〇屋敷の大広間
???「『んー、やっぱ駄目だ』」
「『『え』』」
???「『気に入らね』」
「『そんな・・・・・・その為に・・・・・・』」
〇黒
輝久「『何言ってるの?そんなの許さないよ』」
〇草原の道
咲良「・・・もうあの子達は私の家族だよ」
男「!」
鬼灯「おい、桜。やり過ぎんなよ」
男「桜?さくら・・・・・・まさか、旭咲良か!!」
男「あ、旭だと!?」
男「あの・・・五大神を抱えてる・・・」
男「そうだ、咲良は器にこそ成らなかったが・・・この世で唯一神の器とも言われている・・・」
男「異能も凄まじいと・・・聞いているが・・・」
咲良「・・・・・・・・・・・・」
青年「随分派手な事をしているな」
「!!」
「!!」
咲良「・・・・・・・・・・・・」
鬼灯「あ?」
男「ま、まさか・・・旭の・・・」
青年「夜月よ。よもや、我等と対立するつもりはあるまい?」
男「・・・退くぞ。相手が悪い」
鬼灯「桜・・・?」
咲良は鬼灯の後ろに隠れる咲良。
青年「・・・オニと共にあるのか」
咲良「・・・・・・私の家族。手を出すなら許さない」
青年「態々その様な事はせぬ。近々茶会がある」
咲良「・・・気が向いたら」
青年「そうか」
鬼灯(何だ、彼奴・・・すげぇ威圧。何者なんだ)
咲良「・・・鬼丸」
鬼灯「おう?」
咲良「アレと会った事は菊に言わないで・・・」
咲良「彼は菊と相性悪いから」
鬼灯「分かった」
咲良「・・・・・・ふぅ」
鬼灯「・・・・・・」
〇アパートの中庭
「おお・・・」
鬼灯「すげぇ、花畑が出来てる」
文也「あ、お帰りなさい」
輝久「お帰り、桜」
輝久「こんな感じ。どうかな?」
咲良「とてもいいと思うよ」
桔梗「お帰り」
鬼灯「おう、ただいま」
詩織「お兄、これ」
咲良「?」
詩織が桜の花の髪飾りを咲良に差し出した。
其れを輝久が受け取り、咲良の髪に着ける。そんな輝久には菊の花の髪飾りが差し出された。
鬼灯「サクラは精神美、優美な女性、純潔。キクは高貴、高尚だな」
咲良「菊は高貴、かな」
輝久「桜は純潔かな」
詩織「鬼丸のお兄と妖狐のお兄も」
鬼灯「俺達もか?」
桔梗「えっと、ブローチかな」
鬼灯と桔梗には其々の名前と同じブローチが手渡された。
鬼灯「鬼灯は偽り、ごまかし、欺瞞、心の平安、不思議、自然美。まぁ、一般的にゃぁ、偽りとかごまかしだけどな」
桔梗「僕からしたら心の平安と自然美だけどね」
鬼灯「っ!?」
鬼灯の右手に口付けする桔梗。
桔梗「痛ッ!」
桔梗「もう、殴らなくても・・・」
鬼灯「~~~桔梗は永遠の愛、変わらぬ愛、気品、誠実。お前には気品じゃねぇか」
桔梗「そうかな」
鬼灯「・・・俺的には永遠の愛や変わらぬ愛でいて欲しいけどな」
桔梗「!!勿論だよ!なんなら、今晩分からせて・・・」
桔梗「痛ッ!!!」
文也「えっと・・・もしかして、鬼丸さんの方が受け・・・?」
詩織「お兄ちゃんにはコレ」
文也「あ、うん」
詩織は椿のストラップを文也に差し出す。
鬼灯「椿は控えめな素晴らしさ、気取らない優美さ」
「文君にピッタリ」
文也「あ、ありがとうございます。詩織のは?」
詩織「ううん。私、からのお礼だから。花妖精にお願いしたの」
文也「・・・・・・花妖精さん」
花妖精「はい」
鬼灯「やるなら、百合でいいんじゃねぇか?」
文也「じゃあ、百合のストラップが欲しいのですが」
花妖精「勿論です」
花妖精は詩織の手に百合のストラップを落とす。
「此れでお揃い」
鬼灯「だな」
詩織「・・・うん」
咲良「花妖精、シオちゃんと契約したら如何?」
「契約?」
咲良「そう。シオちゃんからは名前を、花妖精からはシオちゃんの守護を渡せばいい」
花妖精「私には護る力は・・・」
咲良「だからシオちゃんから名前を貰えばいいんだよ。そうすれば、守護の力が得られる筈だよ」
詩織「・・・私と契約してくれる?」
花妖精「はい」
詩織「うん、じゃあ・・・・・・菖蒲(アヤメ)ちゃん」
其れから詩織の携帯には百合のストラップが着けられ、学校に向かう時にそのストラップに花妖精基菖蒲が入り込む。
そして、彼女達は毎日一緒に居た。
終