イッタクロース

危機綺羅

イッタクロース(脚本)

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イッタクロース
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〇おしゃれなリビングダイニング
静弥(シズヤ)「──どうして、サンタさんは来なかったの?」
父さん「冬休み前のテスト、百点じゃなかったからね。きっとそのせいだ」
静弥(シズヤ)「でも、でも! 他のテストは百点だったよ!」
父さん「テストは全部百点、それが当たり前だよ」
父さん「そう思わないから、サンタさんに悪い子だって思われたんじゃないかな?」
静弥(シズヤ)「悪い子・・・」
父さん「大丈夫だよ。静弥が本当は良い子だって、お父さんは分かってるからね」
父さん「静弥は頭も良いんだから。次はきっとサンタさんも来てくれるよ」
静弥(シズヤ)「──うん! 私、頑張るね」

〇女の子の一人部屋
勝巳(カツミ)「しーずーやー」
静弥(シズヤ)「お兄ちゃん・・・?」
静弥(シズヤ)「ダメだよ、今は勉強の時間でしょ!」
勝巳(カツミ)「わかってるよ。すぐに部屋に戻るからさ」
勝巳(カツミ)「・・・さてさて、これなーんだ!?」
静弥(シズヤ)「猫ちゃんのストラップ!」
勝巳(カツミ)「その通り! しかも・・・静弥の物だ!」
静弥(シズヤ)「私の?」
勝巳(カツミ)「これはな、サンタから静弥ちゃんへって預かったんだよ」
静弥(シズヤ)「え!?」
静弥(シズヤ)「でも、お父さんがサンタさんは来なかったって・・・」
静弥(シズヤ)「私が、悪い子だから」
勝巳(カツミ)「・・・あー、そう! サンタは来なかった」
勝巳(カツミ)「うちに来たのは──イッタクロースだ!」
静弥(シズヤ)「誰それ?」
勝巳(カツミ)「イッタクロースはな、サンタクロースと同じようにプレゼントを配ってるんだ」
勝巳(カツミ)「けどサンタと違って、良い子でも悪い子でも、プレゼントを渡すことしか選べないんだよ!」
静弥(シズヤ)「かわいそう」
勝巳(カツミ)「・・・うん、まあ、そうだな。確かにかわいそうかも」
勝巳(カツミ)「きっとプレゼントを渡しまくってるから貧乏なんだろうな」
勝巳(カツミ)「ストラップしか用意できなかったって、静弥に謝ってたよ」
静弥(シズヤ)「謝ってたの? ──なら私、イッタクロースさんにお手紙書くね」
勝巳(カツミ)「手紙? なんで?」
静弥(シズヤ)「お礼のお手紙! 猫ちゃんのストラップ、すごく嬉しかったですって」
静弥(シズヤ)「悪いことなんてなにもないんだもん。謝っちゃだめだよ!」
勝巳(カツミ)「・・・そっか」
勝巳(カツミ)「書けたら、お兄ちゃんがイッタクロースに届けておくよ」
静弥(シズヤ)「うん。お願いね!」

〇黒背景
  ・・・

〇おしゃれなリビングダイニング
父さん「──うん、模試の結果も上々だな」
父さん「良い子だね、さすが静弥だ」
静弥(シズヤ)「ありがとうございます」
父さん「明日は・・・クリスマス、だったか。なにか欲しい物はあるかい?」
静弥(シズヤ)「ありません」
静弥(シズヤ)「欲しい物をサンタから貰おうと思いませんから」
父さん「自分の力で手に入れるって? うん、うん! 良い心がけだ」
父さん「夕ご飯はどうする? 一緒に食べようか?」
静弥(シズヤ)「・・・勉強がしたいので」
父さん「そうか。邪魔しちゃ悪いね。好きな時に食べるといい」
静弥(シズヤ)「はい」
静弥(シズヤ)「・・・おやすみなさい、お父さん」

〇女の子の一人部屋
静弥(シズヤ)(良い心がけ? ──どこが! お父さんはずっと変わらないな)
静弥(シズヤ)(皮肉にも気づかず、勉強ばっかり気にして)
静弥(シズヤ)「そんなんだからお兄ちゃんも、お母さんも・・・」
静弥(シズヤ)(──あの時はイッタクロースなんて言ってたっけ)
静弥(シズヤ)(文字でのやり取りばっかり・・・もうしばらく会ってないな)
静弥(シズヤ)(お父さんに怒られても、何度だって部屋に来てくれたのに)
静弥(シズヤ)(そのたびに色んな話とか、遊びを教えてくれて)
静弥(シズヤ)(──会いたい。会って、昔みたいに変な作り話を聞かせてほしい)
静弥(シズヤ)「お兄ちゃん」
静弥(シズヤ)(もしもサンタがいるなら、明日の朝、枕元に新幹線の切符でも置いておいてくれればいいのに)
静弥(シズヤ)「・・・食欲ないや。もう寝よう」

〇女の子の一人部屋
静弥(シズヤ)「やっぱり、サンタなんて来ないか」

〇おしゃれなリビングダイニング
勝巳(カツミ)「しーずーやー」
静弥(シズヤ)「・・・へぁ!?」
勝巳(カツミ)「おはよう! 久々だな」
静弥(シズヤ)「お、お兄ちゃん!?」
勝巳(カツミ)「おう、お兄ちゃんだぞー」
静弥(シズヤ)「なんで、というか、ああ、もう! 顔洗ってくる!」

〇おしゃれなリビングダイニング
勝巳(カツミ)「めっちゃ整えてるじゃん」
静弥(シズヤ)「うるさい。なんなの、急に来て!」
勝巳(カツミ)「急にって・・・父さん、なんも話してないの?」
父さん「ああ、ちょっと間が悪くてね」
静弥(シズヤ)「え、あ、おはようございます。お父さん」
父さん「おはよう」
父さん「ごめんね、静弥。とりあえず、勝巳と一緒に座ってくれるかな」
静弥(シズヤ)「は、はい」

〇おしゃれなリビングダイニング
静弥(シズヤ)「──お母さんと、一緒に住める?」
父さん「そうなんだよ」
父さん「必要ないって言うんだけど、母さんが静弥に聞けってうるさくてね」
勝巳(カツミ)「必要ないって・・・」
勝巳(カツミ)「静弥が行きたい大学なら、母さんの家から通ったほうがいいだろ」
父さん「新幹線で通えばいいよ。お金は父さんが出すから」
静弥(シズヤ)「あの、お父さん。私は──」
父さん「静弥」
父さん「静弥は良い子だ。お父さんの言うことをわかってくれるだろ?」
静弥(シズヤ)(お父さん、怒ってる)
静弥(シズヤ)「わ、私は・・・」
勝巳(カツミ)「なあ、静弥」
静弥(シズヤ)(お兄ちゃん?)
勝巳(カツミ)「今日はクリスマスだ。欲しい物はイッタクロースが届けてくれる」
勝巳(カツミ)「悪い子になっても良いんだ」
静弥(シズヤ)(・・・なにそれ)
静弥(シズヤ)(こんな時でも変な話を持ち出して)
静弥(シズヤ)「──お父さん。私、家を出たいです」
静弥(シズヤ)「少しの間、お父さんから離れて生活したいんです」
静弥(シズヤ)(お兄ちゃんは本当、変わらないな)

〇おしゃれなリビングダイニング
父さん「だから、話したくなかったんだ」
静弥(シズヤ)「お父さん・・・」
父さん「静弥」
静弥(シズヤ)「はい」
父さん「勉強は大事だ。今後も続けなさい」
静弥(シズヤ)「わかりました」
父さん「あと、ごはんもちゃんと食べるように」
静弥(シズヤ)「・・・うん」
父さん「それから・・・すまなかった。父さんはお前たちのことが」
静弥(シズヤ)「──謝らないで、いいよ」
静弥(シズヤ)「お父さんが、心配してくれたのは分かってるから」
静弥(シズヤ)「悪いことなんか、してないから」
父さん「ああ」
父さん「・・・静弥は、良い子だね」

〇駅のホーム
勝巳(カツミ)「──空き部屋の掃除しとくからな」
静弥(シズヤ)「気が早いよ。試験も終わってないのに」
勝巳(カツミ)「静弥なら受かるだろ。今の内に買っとくもんあるか? 揃えとくよ」
静弥(シズヤ)「・・・なら、猫のぬいぐるみ」
勝巳(カツミ)「はい?」
静弥(シズヤ)「イッタクロースなんでしょ。プレゼントしてよ」
勝巳(カツミ)「あー、そうだな。用意しとくよ。子供のころと違ってお金もあるしな」
静弥(シズヤ)「期待してるから」
勝巳(カツミ)「任せとけって。それじゃあ、またな」
静弥(シズヤ)「うん。またね」
静弥(シズヤ)(次に会ったら伝えよう。今度は手紙じゃなくて、お兄ちゃんに直接)
静弥(シズヤ)(ありがとう、イッタクロースさん。すごく嬉しかったよ)

コメント

  • 成績ばかりを気にする親って、「成績のいい子を持つ自分」が好きなんですよね。
    彼女にはお兄ちゃんがいてよかったなぁと思いました。

  • 子育てで何が大切か。
    子供が親に望むように、親も子に望んでいる物ですよね。
    お互いが後悔して、それが後に笑い話になると私は思います。
    DVとかは別の話で…。

  • 短いストーリーの中にと内容がギュッと凝縮されていて最後まで集中して読み切ることが出来案下。タイトル通り、、、(笑)リンクしているのがとてもよかったです。

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