〇簡素な一人部屋
　　あいつめ、、浮気するなんて
　　そうつぶやきながら、イライラをぶつけるようにアパートの階段を踏み鳴らしている男がいる。
　　彼の名前はケンジ。
　　ケンジは今しがた愛するキョウコの浮気現場を目撃してしまったところだった。
　　彼女の部屋の前にたどり着きドアノブをひねってみる。
　　ガチャ・・・
　　どうやらカギはかかっていないようだ。
ケンジ「・・・」
　　ドアをそっと開け、浮気相手の男が出ていったばかりの部屋にゆっくりと足を踏み入れていく。
　　室内を見渡すがキョウコの姿はない。
　　浴室から聴こえる音から察するに、シャワーを浴びているようだ。
　　つけっぱなしのテレビからは、流行りのアイドルグループが歌う失恋ソングが流れている。
　　どうして私を選んでくれないの～♪
　　普段なら下手だなと笑うところだが、今日ばかりは涙があふれ出そうになる。
　　それをこらえ、ケンジは浴室へ向かった。
　　ふと目をやると脱衣所のとなりにある洗面台に２本の歯ブラシが。
ケンジ（僕のじゃない・・・）
（歯ブラシを置いておくなんて、浮気相手はひんぱんに、この部屋に出入りしていたんだろうか）
　　ケンジはいよいよ怒りをおさえきれず、浴室のドアを乱暴に開けた。
キョウコ「キヤーッ、なんなの！」
　　キョウコがおどろきのあまり悲鳴を上げるが、そんなことはどうでもいい。
　　靴下が濡れるのにも構わず浴室の中に踏み込み、キョウコを壁に押し付けた。
ケンジ「なんで俺を裏切ったんだよ！ さっきの男誰なんだよ！」
　　ケンジが胸の底からあふれ出る言葉をそのまま吐き出す。
キョウコ「なにいってんのよ！出ていって！」
　　だがキョウコは白を切り続ける。
　　そこでケンジはキョウコの髪をつかみ、リビングへと引きずっていく。
　　そして暴れるキョウコをビンタすると、台所にあった包丁を掴んだ。
　　ケンジが顔をゆがませて、こう問いかける。
ケンジ「どうして浮気したんだよおお！」
キョウコ「やめて！あなた誰なのよ！」
　　それから数時間後、部屋のテレビは音楽番組ではなくニュース番組を映していた。
　　中央通りで通行人が腹部から血を流し倒れている女性を発見。警察に通報しました。
　　女性は部屋に侵入した見知らぬ男性に刺された後、ベランダから逃げ出したと話しています。
　　彼女は以前にもストーカー被害を相談しており、警察は関連の有無を調べています。