絶筆のグルメ(脚本)
〇美術室
絶筆しか食べない妖怪「私は絶筆しか食べない妖怪。 古今東西の芸術家の絶筆作品をたらふく食べるのは最高よ!」
絶筆しか食べない妖怪「特に気に入っている作品はアンリ・マティスの素描と滝廉太郎の「憾み」よ」
絶筆しか食べない妖怪「絶筆はコクがあるのに混じり気がないから一口食べただけで飛べるわ」
絶筆しか食べない妖怪「え? 絶筆という言葉がついているから特別にみえるだけって?」
絶筆しか食べない妖怪「んもー! これだからモグリは」
絶筆しか食べない妖怪「絶筆は未知への扉よ!」
絶筆しか食べない妖怪「はあ、もっと絶筆がほしい。 待てないわ そうだわ、死神のふりをして芸術家を脅してやろう ふふふふ」
芸術家「今日はもう筆が乗らないからやーめた」
絶筆しか食べない妖怪「うふふふふふ」
芸術家「誰っ」
絶筆しか食べない妖怪「私は死神よ さあ絶筆を寄越しなさい」
芸術家「こわっ 知らんがな!」
芸術家「私は死神だとかスピリチュアルなものは信じない。これは多分寝不足の妄想だ」
芸術家「寝よう」
絶筆しか食べない妖怪「ちょっ」
芸術家「私は自分のペースでたのしく絵を描くと決めている 去れ!!」
絶筆しか食べない妖怪「チッ 頑固」
絶筆しか食べない妖怪「うふふふふ 絶筆・・・絶筆は最高よ あなたも描きたいでしょう」
芸術家「私はいつでも絶筆と思って描いている」
絶筆しか食べない妖怪「そうなの?」
芸術家「どれでもくれてやる! ほらほら持ってけ! そして去れ!」
絶筆しか食べない妖怪「もうこの芸術家は頑固だからだめね 他の人のところに行きましょ」
芸術家「ふー、追っ払えた」
芸術家「哀れな死神だな 絶筆と絶筆じゃないときをわざわざ作るなんて」
芸術家「私は過去も未来も捨ててるからな アハハ」
そのころ・・・
絶筆しか食べない妖怪「別の芸術家を脅して絶筆させることはできたけど、脅しすぎたかも」
絶筆しか食べない妖怪「不安と恐怖のどす黒い絵画が絶筆になっちゃったわ」
絶筆しか食べない妖怪「これじゃ食べられない」
絶筆しか食べない妖怪「やっぱり個人のペースに任せたほうが美味しい絶筆になるのね」
絶筆しか食べない妖怪「・・・あのお気楽芸術家の絶筆、絶対に喰ってやるわ!! 覚えてなさい!」
芸術家「私の作品は私のもの 誰にも食わせてやるもんか!」
絶筆しか食べない妖怪「んもう!」
芸術家「あのなあ 人の絶筆を食べるんじゃなくて 自分で描けよ」
絶筆しか食べない妖怪「妖怪にできるわけないじゃない!」
芸術家「やればできる! 自分を信じろ!」
絶筆しか食べない妖怪「・・・!」
芸術家「お前ら妖怪は人間に取り憑くんじゃなくて、自分でやった方が成仏できると思うぞ」
絶筆しか食べない妖怪「描き方がわからない・・・」
芸術家「描き方なんて忘れちまえ! 自分らしい絵を描くんだ!」
絶筆しか食べない妖怪「先生・・・!」
芸術家「一緒に描くか?」
絶筆しか食べない妖怪「はい・・・!」
芸術家「いい返事だ!」
絶筆しか食べない妖怪「もうだめ 思った通りに描けない」
芸術家「葛藤が作品の方が深みになるぞ」
絶筆しか食べない妖怪「わかったわ」
絶筆しか食べない妖怪「私、先生の絶筆になりたい」
絶筆しか食べない妖怪「お願い」
芸術家「わかった 君を最高の絶筆にしよう」
絶筆しか食べない妖怪「はあん!」
絶筆しか食べない妖怪「先生の筆さばきは本当に優しい」
絶筆しか食べない妖怪(人に真剣に見つめられることって こんなに嬉しいことだったのね!)
芸術家「よいしょっと 細部を整えて できた!」
絶筆しか食べない妖怪「──!!」
ありがとう 先生
こんなに私を綺麗に描いてくれて
芸術家「喜んでもらえて嬉しいよ」
芸術家「元気でな」
今まで芸術作品を食べ物として見たことがなかったけれど
彼女がこんなにまでして絶筆を食べることについて熱弁している姿を見たら、ちょっとお腹すいて来ちゃいました😂
ホラーかと思ったら途中から急に熱血指導のスポ魂モノになって最後は芸術家が陰陽師みたいになって妖怪を成仏させて、気がついたらハッピーエンドに・・・。バニバニ王子さんの作品が絶筆になりそうな時は呼んでくださいね。すごくおいしそうですから。