復讐出来なかった女(脚本)
〇桜並木
私は復讐の為に生きている。
7年前、私の双子の妹、卯月桜子はストーカーによって殺された。
卯月鏡子(過去)「桜子?・・・・・・桜子!!」
卯月鏡子「──────桜子」
あの日から私はあの子を殺した相手を追い続けている。
桜子のストーカーだった男・・・・・・片城十の行方を。
────卯月桜子さんへ。
卯月鏡子「彼はあの日、何の為にこんな・・・・・・」
片城と桜子は元は恋人同士だったのだ。
────だけど、破局した。
理由は・・・・・・若者によくある何てことの無い擦れ違い。
だけど、その恋物語の結末はよくある別れ話にはならなかった。
卯月鏡子「・・・・・・」
卯月鏡子「私がもっと早くに気づいていれば、こんな事にはならなかったのかな・・・・・・」
片城十「久しぶりだね」
卯月鏡子「あなたの方から接触して来るなんて思わなかった。連絡先を残していたともね」
片城十「君の方こそ消すべきじゃ無かったよ。僕を7年も探していたんならね。」
片城十「だって、呼ばれれば僕は来たさ。逃げも隠れもしなかったのに」
卯月鏡子「私があなたを殺したがっていたとしても?」
片城十「それで君の気が済むのなら」
片城十「でも・・・・・・断言する」
片城十「君が僕を殺しても、君は本当の意味では満足出来ないだろうね」
卯月鏡子「それはどういう意味?」
片城十「”復讐”は果たされないからさ。 君の描いた”復讐”の物語は完成しない」
片城十「『卯月鏡子は卯月桜子を殺した相手に復讐する為に生きている』」
片城十「────でも、桜子は死んでいない」
卯月鏡子「何を言ってるの?桜子は7年前に死んだのよ。私の目の前で・・・・・・」
片城十「────目の前で、ね」
片城十「君たちは本当にそっくりな双子だった。 だけど、根っこの部分は全然違う」
片城十「分かるんだよ───僕は君の事が好きだったんだから」
卯月鏡子「!?・・・・・・それは」
片城十「7年前────彼女を殺したのは君だろう?『卯月鏡子』を『卯月桜子』が殺したんだ」
僕は君の復讐のスケープゴートだったんだ
────そうだよね、桜子
私は────鏡子になりたかった。
私と違って、まともで正統で完璧な、鏡写しの姉になりたかった。
だから、あの日。私は────
卯月鏡子(真)「桜子?どうしたの?何かあった?悩みがあるなら・・・・・・」
卯月桜子(真)「・・・・・・ううん、なんでもない。それより、行きたい場所があるんだけど、お姉ちゃん、一緒に来てくれる?」
卯月鏡子(真)「行きたい場所?こんな遅くに?」
卯月桜子(真)「・・・・・・夜桜を見に行きたいんだ。 ────私たち、二人だけで。」
だから、私は────
卯月鏡子「あ~あ。せっかくここまで来たのに。」
卯月鏡子「どうして、気づいちゃうのかなぁ────」
卯月鏡子「・・・・・・・・・・・・」
卯月鏡子「”復讐”────失敗しちゃったな。」
ごめんね────鏡子
双子の姉妹というのは、仲が良すぎたり、又こういう複雑な嫉妬を生んだりするものなんですね。男性の好みが似ているというのも難でしたね。とても切なく悲しいお話でした。
桜子は姉の鏡子を殺して鏡子になることで、嫌いだった自分自身=桜子をも闇に葬りたかったんでしょうね。殺人の舞台に夜桜を選んだのもそんな無意識の思いがあったのかも。雰囲気たっぷりの味わい深いミステリーでした。