馬槽の中で眠る君は(脚本)
〇黒背景
僕はサンタクロースを見たことがない。夜に足音が聞こえても、それはプレゼントを持った父さんか母さんだったから。
聞こえなくてもいい音だった。なのに、”聞こえてしまう”のだ。それだけでなく、他の家の楽しそうな声や車の音も。
冬に入り、寒空が観測できるようになって僕は”つらい”という感情を再起させた。そう、クリスマスだ。クリスマスがやってくる。
忌々しいクリスマスが・・・・・・。
──でも、人生というものはサンタと違って時に思わぬ贈り物をくれる。
これは、そんなの贈り物の一つだ・・・。
〇勉強机のある部屋
蓮「・・・」
蓮「もう朝か・・・」
蓮「まったく・・・・・・ ヘッドホンをつけててもうるさいから、寝れないよ・・・」
ここは大通りに面しているから、うるさいのだ。母親も、父親も気にしていないけど・・・でも、僕が我慢すればいいから。
母「蓮~! 起きてるの~!!」
あぁ、今日もまた、憂鬱。
蓮「・・・はーい。行くよ」
母「蓮!学校でしょ!準備しなさい!」
耳の中で暴れまわる取り留めない一言。苦しまない人がいるだろうか。
蓮「・・・ごめんなさい。次から頑張る」
母「・・・なら、いいのよ。ごめんね、いきなり大きい声出しちゃって」
蓮「・・・・・・うん」
その「ごめん」は、僕には事足りることはなかった。
〇特別教室
──学校
先生「それでは日直さん。終わりの挨拶をしてください」
明日から冬休みということもあり、皆が浮足立っている。
???「おぉい!ドッヂボールするぞ!」
僕は参加したくないけど、かといって帰るのも嫌だった。
だって、クラスでのけ者にされるのはこういう瞬間からなのだから。
〇田舎の学校
──校庭
適度に離れた場所の木陰から見学することにした。・・・といっても、僕基準でだけど。
それでも、充分過ぎるほどボールがぶつかる音、歓声が聞こえる。
すると、誰か一人がこちらを見ていた。ドッヂボールの方からじゃない。恐らく別のクラスの人だろう。
背は僕より少し低い。あぁ、これは話さないといけないのか。まったくうざったい。
少女「・・・・・・!」
・・・・・・少女は喋らなかった。静かに微笑みを見せるだけ。
そして、少女は手に持っていたタブレット端末で、
少女「『こんにちは!初めまして!』」
と書いて見せてきた。
僕は驚いた。だって、こう思ったから。
蓮(僕が音に敏感なこと・・・分かってるの・・・?)
彼女は微笑んだままだった。
僕に、初めて理解者ができた瞬間だ。
少女「『こんなところでなにしてるの?』」
蓮「えっと・・・運動があまり好きじゃないから、ここから見てるんだ」
少女「『つまらなくない?』」
蓮「つまらなくはないけど、少し寂しいかな・・・」
少女「『じゃあ、私が隣にいる!』」
蓮「え・・・いいの・・・?」
少女はコクコク頷く。
そっか。傍にいてくれるんだ。
こうして、僕らは仲良くなっていった。
〇街中の交番
──それから、僕らは毎日いろいろなところで遊んだ。
〇広い公園
〇綺麗な図書館
〇土手
〇見晴らしのいい公園
──山の上の公園
蓮「・・・雪だ」
少女はとても楽しそうだった。
つられて僕も笑ってしまった。
少女「『ねぇ、また、会えるよね?』」
蓮「・・・うん!」
〇一戸建て
そして、少女を家まで送っていった。
蓮「また明日、クリスマスイブだけど、会えるかな・・・?」
少女は首をブンブン縦に振った。
少女の父親「どこほっつき歩いてたんだ!!」
突然扉が開き、男性が出てきた。おそらく、少女のお父さんだろう。
少女の父親「こんな遅くまで何してやがった? ほら、言いやがれ!!」
突然少女の首根っこをつかんだ。僕はびっくりした。
少女の父親「その口で言ってみろ!早く!!」
少女の父親「・・・もういい。残りは部屋で聞く。 来い!」
少女は父親に引っ張られていく。
僕は最後に、
蓮「明日の夕方!いつもの場所で待ってる!!」
そう言うことだけはできた。
〇街中の交番
──次の日、いつもの場所にあの子の姿はなかった。
〇街中の交番
夜になっても来なかった。
蓮「・・・なら、」
蓮「僕が連れてくる!」
一目散に風になった。
〇一戸建て
家の場所は覚えていた。だから、すぐに向かうことができた。
正面から入れないのは分かってる。だから、あの子の部屋と思われる場所の窓を叩いた。
蓮「僕だ!返事をしてくれ!」
少女は驚いた顔で窓を開けた。
少女は泣いていた。
部屋も散らかっていた。
あの父親が暴力を振るったのだろう。
蓮「僕についてきて!」
ここから逃げさせたい。
そのためなら、僕が怒られても構わない。
〇見晴らしのいい公園
そして静かな山の上の公園に来た。
街の喧騒から逃げるために。逃すために。
蓮「ここまで来れば大丈夫だよ」
僕は少女を抱きしめた。寒いだろうから。
少女「・・・!!」
少女もぎゅっと僕に抱きついてきた。
静かで安らかな二人のクリスマスの日だった。
──静寂は彼らの馬槽となりて。
〇黒背景
これが僕の思い出のクリスマスだ。
──きよしこの夜。
──星は光り、
──救いの御子は馬槽の中に
──眠りたまう。
──────
──いとやすく。
終
とても美しい情景描写でした。
雪の中二人会えてよかったなぁって思いました。
音に敏感な人はいると聞きますが、みんなこの少年のように大変なのかなと。
安全な場所で一緒にいられて二人は幸せだったと思うのに、なぜか泣けてきます。祈りのようにきれいなラストシーンが印象に残りました。
人とは違った才能を持っていることは他人から見れば羨ましいかもしれませんが、時に人を悩ますことがありますよね。主人公の男の子の何だか切ない感じが伝わってくるお話しでした。