祈る(脚本)
〇兵舎
幾重も包帯が巻かれた身体を見つめる。彼は笑っていた
男「あんまりじろじろ見ないでくれ、情けない」
困っているのか己を憐んでいるのか、何とも弱々しい声だった
一国を担い、皆をまとめ上げる軍人が今は只の幼い少年に見える
その瞳を通じ何が見えただろうか
問うても答えは出ないだろう
”傷だらけの身体に口づけを一つでも落とせたのなら”
私では出来ないからこそ邪な思考に脳内が侵される
この人はきっと今みたいに笑うのだろう
肯定も否定もせずに笑うだけ
どれだけ残酷なことかも分かってる
それでも答えが出せないからそうするしかないのだろう
私は彼と密な関係になる事を望んでいない
それは「成れない」事もそうだが「成りたくない」もある
彼の為に命をかけて戦えればそれで十分だ。この人の纏う闇を全て取り払い、その先にある光へと導く
私の役目はただそれだけ
女「・・・私は、必ず貴方を護る」
願いを込めて、その手を握る
男「ははっ。その言葉は嬉しいが普通護るのは俺の方だろう?」
男「国のみんなも、お前も必ず守り遂げるよ」
女「・・・そうだな」
この人は私の知らない何かをまだ隠してる
それは決して語られることのない彼だけの感情
哀しみか弱音か、
はたまた憎しみか
それすらも己という仮面を被り隠してしまう
そんな彼が私は少しばかり嫌だった。
男「・・・そんな顔しないでくれ」
男「お前はお前の守りたいものの為に戦ってくれれば良いんだ」
あぁ、この男は何も分かっていない
己の感情だけでなく、相手の感情も読めないとは
握った手に少しばかり力を込めた
どうせならこのまま私の想いが伝わってしまえばいい
そして己が発した言葉に悔いればいい
大きなその手で遠慮がちに握り返してくれればいい
それでいい
そうなってしまえばいいのに
ジェンダーレスの時代において戦場といえど例外ではないですね。でも人間は機械のようにはいかないから当然男と女の感情の差異や行き違いみたいなものも生じるわけで。そうした繊細な心のゆらぎを女性の視点からワンシーンに凝縮させた切ないストーリーでした。
戦場における叶えたくとも叶わないであろう悲恋がとても切ないです。守りたい人から護られるという状況、意思ある男性なら決して喜ばしいことではないのでしょうね。