柊と真雪

チホ

柊と真雪(脚本)

柊と真雪

チホ

今すぐ読む

柊と真雪
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇ビルの裏
  路地裏の暗いアパートで、私は天使になることを夢見ていた。私がまだ、小学生だった時の話だけれど。

〇水たまり
  私はもう大人になった。あの頃の私より、いろんな事柄を知っている。でも、私は、羽もやさしい心も持っていない。
  結局、天使にはなれなかった。サンタクロースはいつまでたっても、私の靴下に「やさしい心」を置いていってはくれなかった。
  とっくにあきらめたはずの夢、クリスマスが近づくと思い出してしまう。12月なんてなくなればいい。柊も枯れてしまえばいい。

〇クリスマス仕様の教室
  私と真雪ちゃんにとって、クリスマスは特別な日、ふたりの誕生日だったから。
  私たちは、いつまでも親友、のはずだった。

〇学校の昇降口
柊「真雪ちゃん、サンタクロースにプレゼントお願いした?」
真雪「うん、お金持ちにしてくださいって言ったの、ママとパパに大きなお家、買ってあげるんだ 柊は何にしたの?」
柊「ぜったい内緒だよ!! ・・・天使になりたいって言った」
真雪「天使って、あの羽が生えてるやつ!? 人間じゃないじゃん!!」
柊「天使って、きっとすっごくやさしいもん いつでもだれにでもやさしいなんて、すごくない!? 天使、かっこいい~」
柊「そうだ、これ、真雪ちゃんにクリスマスプレゼント!!」
真雪「なにこれ~かわいすぎるう~!! 大人じゃ~ん」
柊「泣くなって!!」

〇名門の学校
  間もなく私は気がついた。
  真雪は、私にないものをすべて持っている。
  容姿、才能、財力、たくさんの友人。
  私の心は嫉妬で埋まった。
  やさしさが入り込む隙間がないほどに。

〇モヤモヤ
  あのクリスマスの夜、とうとう私はサンタクロースに祈った。
  天使になる願いとひきかえにしてまで。
柊(真雪が不幸になりますように)

〇立派な洋館
  真雪の願いは叶い、私の願いは叶わなかった。
  サンタクロースさえ、真雪の味方なんだ。
  私は、真雪を親友リストから消した。
  たった一人の親友だったのに。
  天使になれなかった私には、やさしさなんてない。

〇安アパートの台所
  私の住処は、あの頃と変わらない路地裏のアパート。今の私はここで夢を見ることができない。子どもの私ができたことができない。

〇モヤモヤ
  心の奥深くで、私はあの日のことを後悔している。
  自ら天使になる夢を手放した日、真雪を突き放した日。
  時間は戻らないんだ。
  どんなに遠くを見つめても、光なんて見えない。

〇クリスマスツリーのある広場
  クリスマスの夜。
  仕事帰りの私は、いつものようにうつむいて歩いていた。イルミネーションなんて見たくもない。
  私は立ち止まった。
  道に落ちているピアス。
「それ、わたしのです!!」
  真雪・・・
  ビーズのピアス。
  それは、小学生の私が、真雪のために作ったクリスマスプレゼントだ。
柊(まさか、これ、ずっと持っていたの? ・・・イミテーションなんて、真雪には似合わない。こんなものただのガラクタなのに)
  どうすればいいの?
  一方的に真雪に嫉妬したことを謝ればいいの?
  それとも、何もなかったことにして笑いあえばいいの?

〇モヤモヤ
  私は悪くない。
  真雪だけいろんなもの持ってるのが悪いんじゃない。ずるいよ、親友なのに。
  私はまだ、嫉妬の中にいた。
柊「わたしは悪くない!!」
  そう思いたかった。
  私はピアスをつかんで走った。
  真雪から遠ざかるために。
  自分の本心から遠ざかるために。
真雪「柊でしょう!? 待って!!」

〇川沿いの公園
  私は公園にたどり着いた。
  そこは、学校の帰りに、真雪と一緒に遊んだ公園だった。
柊(こんなもの、はやく捨てなくちゃ)
  私が、川に向かってピアスを投げ入れようとした時だ。
柊「おばちゃん、それ、かえして!! あたしが真雪ちゃんにつくったやつだよ!!」
柊「あたしが真雪ちゃんに? あたしって・・・」
  ってことは、あなたは私ってこと?
  街灯に照らされた顔は、確かに子どもの頃の私だ。
柊「ねぇ、こんな遅い時間に何してるの?こんなに寒いのに、どうして裸足なの?」
柊「どうしてって、おばちゃんがそのピアス捨てようとしてるの、家の窓から見えたんだもん!! 靴履いてる場合じゃないでしょ!!」
柊「こんなのゴミよ!」
柊「違う!あたしと真雪ちゃんの宝物!!」
  その子は、私からピアスをうばって走って行く。私は後を追った。

〇クリスマスツリーのある広場
柊「真雪ちゃーん!!」
真雪「柊!! やっぱり戻ってきてくれたのね」
柊「これ、落としたでしょ」
真雪「よかった~、なにこれ~やっぱかわいくな~い!?」
柊「泣くなって!!」
真雪「だよね~何年たってもかわい~よねぇ~」
真雪「おばちゃん、大人なのに泣いてるの、へ~ん」
  子どもの頃の私は、心の中にずっと生きていてくれた。サンタクロースが見えた頃の私、天使になりたいと思えた頃の私。
  あなたは、私が嫉妬の渦から這い上がる日を待っているの?
柊「柊、お前も泣くな!! 大人になったんだから あたしはそんなに泣き虫じゃねーぞ!!」

〇クリスマスツリーのある広場
  今の私は、ひとかけらも天使じゃない。
  でも、嫉妬であふれていた私の心に少しだけすき間ができた気がする。きっと、目の前に現れた子どもの頃の私が作ってくれたんだ。

〇月夜
「サンタクロースじゃん!!」
  空を見上げたらサンタクロースが見えた。
  何年ぶりだろう。
  わたしはもう一度お願いした。
  こんどこそ天使になれますように。
  そうだ、それよりも・・・
  真雪ちゃんが幸せになりますように

コメント

  • 子供の頃は損得感情だったり嫉妬のない純粋な世界で生きているけれど、大きくなるにつれ、今まで見えなかったことが見えるようになると、嫉妬したりするようになりがちですよね。彼女が純粋に親友を好きだった頃の気持ちを思い出せてよかった。

  • 誰もがみんな苦しんでる感情ではないでしょうか。わかっていても心底喜べんであげれない時期ってありますいよね。何だか切ないストーリーでしたが楽しく読ませて頂きました。

  • 嫉妬しますよね。
    自分に持ってないものを持ってる人って。
    それにいなくなればいいのにって気持ちもなんとなくわかる。
    嫌いじゃないけど、そういう時期ってやっぱりある。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ