一生分のクリスマスをあなたに

りるか

どこにでも有るようで、本当はなかなか無いお馬鹿な夫婦のお話(脚本)

一生分のクリスマスをあなたに

りるか

今すぐ読む

一生分のクリスマスをあなたに
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇渋谷のスクランブル交差点
栗原 宗介「ふーっ」

〇ケーキ屋
栗原 小夜子「映えだね」

〇クリスマス仕様のリビング
栗原 宗介「それじゃあ今年も」
「メリークリスマース!」
  とある所に、仲の良いおじいさんとおばあさんが住んでいました。
  この2人は
栗原 小夜子「いやぁオートバイの後のウイスキーは沁みるね」
栗原 宗介「このドリンクは見た目も可愛いしグッドじゃ」
栗原 小夜子「やだ、あんたちゃんと写真に撮ったの?」
栗原 宗介「勿論じゃわい」
栗原 宗介「もうオンスタにも上げておる」
栗原 小夜子「全く抜け目のないジジイだよ」
  とっても仲良しで、ナウなシルバーでした。
栗原 宗介「装飾も昨年より拘ったしのぅ」
栗原 小夜子「今年は5000いいね位は貰えるんじゃないかい?」
栗原 宗介「いい線じゃのう」
  2人は結婚50年目。
  未だにお互いが大切な存在です。
栗原 宗介「所でバアさんや。新しいオートバイは欲しくないかい?」
栗原 宗介「サプライズで渡そうと思ったんじゃが、折角ならバアさんの気にいるやつが良いと思ってな」
栗原 宗介「わしの長年溜めてきた年金が火を吹く時じゃ」
  おじいさんは元公務員でした。
栗原 小夜子「やだよぉアンタ。私ももうこの年ですし、返納が映えるんですよ今は」
栗原 宗介「流石バアさん!時代の最先端じゃ!!」
栗原 小夜子「まだまだ若いもんには負けませんよ」
栗原 小夜子「勿論ジイさんにも」
栗原 宗介「望むところじゃよ」
  こうして2人は今年も楽しいクリスマスを過ごしたのでした。

〇村の眺望
栗原 宗介「周りに「馬鹿だなぁ」って思われる夫婦でありたい」
栗原 小夜子「えっ、嫌っ何それ」
栗原 宗介「そんな拒絶しなくても・・・」
栗原 小夜子「周りに馬鹿にされながら生きるのなんて嫌だよ」
栗原 宗介「馬鹿にされるんじゃない」
栗原 宗介「『馬鹿にされても笑い飛ばせる位楽しくいよう』という意味だ」
栗原 小夜子「それ結局馬鹿にされてるじゃん」
栗原 宗介「あっ」
栗原 小夜子「ほんとアンタは馬鹿なんだから」
栗原 宗介「ば、バカバカ言うな!」
栗原 小夜子「ふふっ」

〇大水槽の前
栗原 宗介「あのさ・・・10年前のクリスマスに言ったこと、覚えてるか?」
栗原 小夜子「あら、何だったかしら?」
栗原 小夜子「『俺実はサンタさん信じてんだよね』」
栗原 小夜子「とか?」
栗原 宗介「ガキか!?」
栗原 宗介「いや、ガキだったけど・・・」
栗原 宗介「その、だから」
栗原 小夜子「宗介さん」
栗原 宗介「はい」
栗原 小夜子「言いたいことは、ちゃんと伝えなきゃ」
栗原 宗介「!」
栗原 宗介「小夜子」
栗原 小夜子「はい」
栗原 宗介「これから、俺と、歳をとっても馬鹿な夫婦でいてくれますか?」
栗原 小夜子「・・・」
栗原 小夜子「はい」
栗原 小夜子「・・・」
栗原 小夜子「・・・」
栗原 宗介「・・・ありがとう。これからもよろしくな」
栗原 小夜子「ほんと、変なプロポーズ」
栗原 小夜子「こちらこそ宜しくお願いします」

〇クリスマスツリーのある広場
栗原 宗介「このクリスマスツリーも立派だなぁ」
栗原 小夜子「今でもとっても素敵だけど」
栗原 小夜子「私だったらもっと電球を使ってカラフルにデコるわね」
栗原 宗介「もっと金ピカピーになって良いな」
栗原 小夜子「私派手なのが好きなの」
栗原 宗介「車も真っ赤にしたいって最後まで言ってたもんな」
栗原 小夜子「この際オートバイにでも乗ろうかしら」
栗原 宗介「良いじゃないか!」
栗原 宗介「じゃあ俺は今までなかなか行けなかった渋谷にでも行ってみようかな」
栗原 小夜子「あら素敵」
栗原 宗介「これからももっと楽しいことを見つけていこうな」
栗原 小夜子「えぇ、そうね」

〇一階の廊下
  プルルルル・・・プルルルル・・・
栗原 宗介「はいはい、きっとセールスじゃろ」
栗原 宗介「もしもし栗原ですが」
栗原 宗介「──はい」
栗原 宗介「──!?・・・はいっ」
栗原 宗介「それは本当なんですか?」
栗原 宗介「バアさんが、事故に遭ったなんて・・・」
栗原 宗介「──そうですか。分かりました。今から伺います」
  それは、突然のおばあさんの訃報でした。
栗原 宗介「──バアさんや」
栗原 宗介「最先端でお転婆な奴じゃとは思っとったが、」
栗原 宗介「頼むから」
栗原 宗介「ワシより先には逝かんでおくれ・・・」
  おじいさんは泣いて
  気持ちの整理がつかないまま身支度を整え始めたのでした。

〇玄関内
栗原 宗介(もうすぐバアさんの大好きなクリスマスなのに)
栗原 宗介(今日だって朝は元気にオートバイに乗って出かけたじゃないか)
  おばあさんは、昨年よりも思い出に残るクリスマスにしたいと買い出しに出かけていたのでした。
  そして、蹌踉めく足取りでドアノブに手をかけました。
  ガチャ

〇玄関内
栗原 小夜子「ドッキリ大成功〜!!」
栗原 宗介「!?」

〇一階の廊下
栗原 宗介「ば、バアさん!?」
栗原 宗介「じ、事故に遭ったんじゃ!?」
栗原 小夜子「ごめんなさいね、嘘なの」
栗原 宗介「体はなんともないんじゃな!?」
栗原 小夜子「この通りピンピンですよ」
  そう言ってボクシングポーズをとり、ジャブやストレートを決め出しました。
栗原 宗介「良かった」
栗原 宗介「じゃが」
栗原 宗介「馬鹿者!!!」
栗原 宗介「やって良いことと悪いことがあるぞ!!!」
栗原 小夜子「そうだね、ごめんなさい。これはやり過ぎたね」
栗原 小夜子「将来、あるかも知れないことだったからさ」
栗原 宗介「縁起でもないことを言うんじゃない」
栗原 小夜子「だからね、今日は免許センターに行ってきたんだよ」
栗原 宗介「それはもしかして」
栗原 小夜子「返納してきましたよ」
栗原 小夜子「あんたにあんな顔させたくないからね」
栗原 宗介「バアさん・・・」
  そう。
  おばあさんは、センターへ免許返納に。
  おじいさんは、今更腰が抜けて地面に座り込むのでした。

〇明るいリビング
栗原 小夜子「冗談とはいえ悪かったわね」
栗原 宗介「もう良いんじゃ」
栗原 宗介「所で、その薔薇は一体?」
栗原 小夜子「もうすぐクリスマスでしょう?」
栗原 小夜子「今年はこれを飾ろうと思ってね」
栗原 宗介「それは構わんが、何故急に?」
栗原 小夜子「もうオートバイでケーキを買いに行けないし」
栗原 小夜子「ジイさんも渋谷に行くのが年々大変になってたのは知ってたんだよ」
栗原 小夜子「前みたいに、部屋全部を映えさせたりは出来なくなるかも知れないけど」
栗原 小夜子「せめて、2人で最後まで華を添えていたいじゃないですか」
栗原 小夜子「『馬鹿な夫婦』でいたいんですよ。この年でこんな派手な花を・・・なんて言われる位ね」

〇大水槽の前
栗原 宗介「これから、俺と、歳をとっても馬鹿な夫婦でいてくれますか?」

〇明るいリビング
栗原 宗介「そうじゃな」
栗原 宗介「ワシらは最期のその時まで、馬鹿な夫婦でいよう」
栗原 宗介「一生分のメリークリスマスを」
栗原 宗介「バアさんに」
栗原 小夜子「そのままお返ししてやりますよ」
栗原 宗介「まだまだくたばりそうに無いのう」
栗原 小夜子「勿論ですよ」

〇黒
  現世現世。ある所に、仲の良い
  おじいさんと
  おばあさんが
  住んでいました。
  2人はとっても

〇村の眺望

〇大水槽の前

〇クリスマスツリーのある広場

〇明るいリビング

〇黒
  幸せに暮らしたとさ。
  めでたしめでたし

コメント

  • 面白く拝見させていたたきました。
    嫁が死ぬ・・・私も想像したら嬉し、、、悲しくなりました。
    でもその日は来るんですもんね。
    ほっこりと哀しみの余韻を味わいます。

  • すごく素敵なご夫婦で羨ましいです。きっとものすごく幸せな人生を歩んできたんだろうなあと思います。
    お二人にいつまでも元気でバカで長生きしてほしいです。

  • 会話のテンポと言葉選びが秀逸で、読んでいて楽しくなる作品でした!
    過去を振り返るシーンがありましたが、そこで時間の流れって残酷だなと個人的に思いました。この夫婦にはずっと仲良く暮らしていてほしいですね!

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ