エンジニア、時空をゆく

イヌドングリ

#1『冤罪魔女、街へ帰る』(脚本)

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〇実験ルーム
  FTL通信、圏外も遅延もない夢の技術
  そのせいで、ワタシは休暇を潰された
伊達アヤ「社長、山登り中だったんすよ」
八代社長「まあまあ、上級技術者で捕まったの君だけでさ〜」
八代社長「わたしは開発で忙しいし」
伊達アヤ「ワタシも開発したいっす」
八代社長「じゃ、頑張って終わらせな〜 会社で待ってるから」
伊達アヤ(社長、人使い荒いんだから・・・)
伊達アヤ(油を拭ってライターで部品を縮めて、っと)
伊達アヤ(でも、山登りの後の細かな作業は正直、疲れたなぁ)

〇実験ルーム
伊達アヤ(ええっ・・・? ミスった?)
  高価なシステムが壊れた瞬間だった
八代社長「アヤ、なんかヤバい音しなかった?」
伊達アヤ「・・・」
  その代わり、見たことのないものが目の前にあった
  岩のように見えるが、触れても霧のようにすり抜ける
伊達アヤ(なんだろう?)
  ワタシは社長の声がするヘッドセットを投げ込んでみた
  すり抜けるかに思えたが、反対側からはなにも出てこない
  手を突っ込むと、指先にひんやりとした風が当たった
伊達アヤ「自分、なにやってんだろ」
  別の世界に繋がっているかも?
  なんて妄想が頭をよぎる
  このままコキ使う社長に報告すべきだけど・・・
  ――この向こうになにがあるのだろう?
  期待と復讐心がない交ぜになった感情に押されて
  ワタシは岩の中へ飛び込んだ

〇森の中
伊達アヤ「森、か」
伊達アヤ「なんか、ファンタジーみたいだ」
  技術者としての知識もあるし
  ・・・なんて考えながら、やかましいヘッドセットの電源を切って、作業カバンに放り込む
  そこに、遠くから声が聞こえてきた
  日本語に聞こえる、もしや本当にファンタジー世界か!?
  見ると川縁に人だかりができていた
  担がれた椅子の上には、女性だろうか?
  グッタリと人が座っている
  隠れて耳を澄ますと、さっきまでの妄想は吹き飛んだ

〇山中の川
街人「この魔女め!」
街人「帰ってくんな!」
  魔女裁判?
聖職者「静かに!」
聖職者「祈りましょう」
聖職者「アティンの名の下に、邪なる者は滅ぼされ」
聖職者「邪ならざる者ならば、再び街に帰り着きましょう」
聖職者「アティンは全てをご覧になっているのですから」
聖職者「さあ、魔女を沈めなさい」
「えいやっ!」

〇森の中
伊達アヤ「マジか・・・」
  ここは迷信深い土地なのだろう
  知識無双などした日には、ワタシも・・・
  さっきまでの淡い期待は消えた
  はやく帰ろう・・・いや、ダメだ
伊達アヤ(――彼女を助けよう)
  ワタシはつくづくお人よしだ。幸い、川での行動はアウトドアで身についている
  罵詈雑言を投げる人ごみが消えるのを見計らい、ワタシは川の方へ忍び寄った
  川は意外と浅い。抵抗できないよう縛られているかも、ワタシは急いで軽装になり、カッター片手に飛び込んだ

〇山中の川
  ――ゲホッ、ゲホ
伊達アヤ「よかった、間に合った」
リビッサ・フィオル「ヒッ、地獄の・・・方?」
伊達アヤ「いや、君は助かったんだよ」
リビッサ・フィオル「えっ、助かった、そう、なんだ・・・」
リビッサ・フィオル「やっぱりアティン様は見守ってくださっていたのね!」
伊達アヤ「・・・ねえ、なんで魔女ってことになったの?」
リビッサ・フィオル「実は、領主様のご子息、ガルド卿に見初められてしまったんです」
リビッサ・フィオル「偶然、本当に偶然、この森で出会って傷のお手当てをしただけなのに」
リビッサ・フィオル「そしたら、なぜか媚薬を使ったって言われて・・・」
リビッサ・フィオル「誰もなにを言っても信用してくれなくなって・・・」
伊達アヤ(あっ、これ、マズくね?)
リビッサ・フィオル「でも、これで村に帰れます!」
リビッサ・フィオル「聖職者様も、善良なら村に帰れるって」
リビッサ・フィオル「アティン様がみてくれているって、仰ってくれましたから!」
伊達アヤ「いや、それは──」
  たぶん、そんなことは起きない
  絶対にないと言い切ってもいい
  領主が全力で止めにくる、今回のもその結果だろう
  彼女には、抗う力がないのだから
伊達アヤ「村に帰らない方がいいよ」
リビッサ・フィオル「・・・どうしてですか?」
伊達アヤ「異郷の知恵」
リビッサ・フィオル「信じません」
リビッサ・フィオル「アティン様が見守っていてくださったから、私は生きているんです!」
リビッサ・フィオル「・・・助けてくださり、ありがとうございました」
伊達アヤ(・・・不安だ)

〇城門の下
街人「なんて、ことだ・・・」
街人「そんな、不可能だ・・・!」
聖職者「どうしました?」
聖職者「な、なんと・・・」
リビッサ・フィオル「帰りました! 私は無実です!」
聖職者「いかなる邪術を使った! この魔女めが!」
聖職者「捕えよ!」
「は、はい!」
リビッサ・フィオル「えっ? えっ、どうして!?」
聖職者「私では手に余る魔女のようだ」
聖職者「都の高位聖職者を呼び、再び裁判にかけよう」
聖職者「そこの君!」
少年「なんでしょう、聖職者様!」
聖職者「書簡を認めるから、街の聖堂まで頼めるかな?」
少年「はい!」
聖職者「うむ、いい子だ アティンの加護があらんことを」

〇城門沿い
伊達アヤ「だから、言ったのに・・・」
  助けに行かないと!
  足を出した瞬間、聴こえる声が日本語ではなくなったことに気がついた
伊達アヤ(・・・なんで戻ったんだろ? なんにしても、マズいな)
伊達アヤ(服装も服装だし・・・)
  場合によっちゃワタシも魔女の仲間入り、命の保証はない
伊達アヤ(くっ・・・どうすれば助けられる?)

〇城門の下
  数日後
  徹夜用の非常食を持っていてよかった
  野次馬に来た都の人に紛れ込んだワタシは、怪訝な視線を浴びながらも、街に入ることができた
  街にはちょっと変わった人もいるようだ

〇西洋の街並み
  言葉が通じなくなった理由は量子電話〈クォフォン〉の電池切れだった
  どうやら、ワタシのフォンは世界移動の諸々で変質してしまったらしい
  モバイルバッテリーは作業用の高圧のものしかなかった。使えば壊れてしまう

〇謁見の間
  そうこうしている内に、
  なにを言っているのかわからない裁判が
  はじまった
街人「この女は媚薬の材料になる、蛇の頭を集めていた!」
街人「縛を解く邪術に使う毒草が、証言通り店から出てきたぜ」
高位聖職者「ふぅむ、ふぅむ」
高位聖職者「リビッサ、あなたからは何かないのですか?」
リビッサ・フィオル「・・・」
伊達アヤ(一方的だ、自白も無理矢理だろうし・・・)
高位聖職者「ならば、ガルド卿から」
リビッサ・フィオル「たす、けて、くださ、い・・・」
  あれが恋してきた貴族ってやつか
ガルド卿「今、我は冷静さを取り戻している」
ガルド卿「この者は媚薬を使った」
ガルド卿「よって、この女を断罪する!」
伊達アヤ(・・・明らかに、味方はいないね 言葉はわからなくても、それだけは分かる)
  ひとりだけ、ワタシを除いて
  ワタシは計画を実行に移すことにした
伊達アヤ「黙れ!」
  弱くて抵抗できない相手だから、こんなことができるんだ
  「発展した科学は魔法と区別がつかない」
  昔、こう言った人がいたらしい
  ”本物“を見せてやろうじゃないか
  ワタシは油染みの目立つ布巾を掲げ、
  隠し持ったライターでそれに火をつけた
  ぱあっ、とお気に入りの布巾が燃え上がる
  小さな炎に石造の裁判所は燃えこそしなかったが、窓の少ない空間に、薬品の臭いが立ち込めた
街人「ま、ま、魔女だ! 変な言葉を喋ったぞ!」
街人「煤を吸うな! 呪われるぞ!」
  裁判所中が恐れ慄いた
  高位の聖職者はいつの間にか居なくなり
  街の聖職者は声にならない祈りで口をパクパクさせながら、街の重役らしい人に引きずられていった
少年「魔女め!」
  勇敢に向かってきた少年は、母親に手を引かれて連れ出された
  そして、この場に残ったのは、ワタシと冤罪魔女だけになった
リビッサ・フィオル「あなたは、あの時の・・・!」
  言葉は通じないが、少しでも安心させようと、縄を解きながら笑って見せる
  しかし──
  縄をおおむね解いた時、物が焼ける臭いがした

〇謁見の間
伊達アヤ(裁判所が燃えてる!)
  焼き討ちだった
  外から祈りの声が聴こえてくる
リビッサ・フィオル「うっ、ぐすっ・・・私・・・」
伊達アヤ「なにも言わないで、なんとかする」
  言葉は通じないが慰める
  伝わったのか、彼女は言葉を止める
  それでも打つ手はなかった
  自分のミスだが、裁判に勝つ手もなかった。これが運命だったのかもしれない──
伊達アヤ「──違う!」
  このヘッドセットにはFTL技術が使われている。つまり、事故を応用できるはず──いや、できなきゃ終わりだ!
  ワタシはヘッドセットを加工してから、電源を入れる
伊達アヤ「社長! 誰か、聞こえますか!」
  返事はない
伊達アヤ「誰か! 誰か!」
八代社長「アヤ、アヤなの!?」
八代社長「どこ行ってたのよ! 心配したでしょ!」
伊達アヤ「そんなことは後にしてください!」
  ワタシは作業用の高圧バッテリーに、ヘッドセットを繋いだ
リビッサ・フィオル「なにが、起きたの? あれは、なに?」
  ポータルだ! 言葉もわかる!
伊達アヤ「この街、離れる気はある?」
リビッサ・フィオル「いえ・・・はい」
  ワタシは意を決した彼女の手を引いて、ポータルに入った
  その後ろから、裁判所が崩れ落ちる音がした

〇諜報機関
伊達アヤ「いやったー!」
リビッサ・フィオル「・・・こ、ここは、地獄なの? それとも、天国?」
八代社長「どこ行ってたの! 社長室がめちゃくちゃ! その子は誰!?」
伊達アヤ「話せば長くなります」

次のエピソード:#2『時間軸生命体、接触する』

コメント

  • 演出も展開も凝っててクール!

  • わー!!!面白いですー!!!(o^^o)異世界と往復できるのってロマンですよね!!!!ロマン!!!!!今後がどうなるか気になります!!!

  • 行きっぱなしじゃないんだ。
    戻ってこれるパターン。楽しそうです。

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