半額シールのお兄さん

はの

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〇スーパーの店内
  スーパー閉店の一時間前。
  スーパーにいる客の半分は、肉や魚、惣菜の並ぶコーナーに集い、その時を待っていた。
  ──カツン、カツン。
  ざわ・・・ざわ・・・。
半額シールのお兄さん「・・・・・・」
  お兄さんの手にはいつも通り、ギザギザのついた丸いシールがあった。
半額シールのお兄さん「お肉、半額」
半額シールのお兄さん「お惣菜、半額」
  半額シールのお兄さんは、売れ残っている商品に半額シールを貼っていく。
  既に『20%オフ』や『30%オフ』と書かれたシールが貼られている商品もあるが、
  問答無用に上から貼っていく。
  その瞬間、商品の価格は半額になる。
お客さんA「うおおおおお!」
お客さんB「私のやー!」
お客さんC「あなたたち、どきなさい!」
  半額シールの貼られた商品に、無数の客たちの手が伸びる。
  その手は、時に強引に、時に譲るように、商品の上を舞う。
  そして、実際に商品を掴む手は、ただの一本だけ。
  勝者の手だけ。
お客さんA「よっしゃ! 半額の肉ゲットだ!」
お客さんB「お惣菜確保―。よかったー!」
お客さんC「嘘・・・。半額ハンターの異名を持つ・・・この・・・私が・・・」
  刹那の時間で、売れ残っている商品すべてに半額シールが貼られ、同時にすべての商品が売り場から消える。
  手に入れた客はほくほく顔で、惜しくも手に入れることのできなかった客は無念そうな顔で、その場を離れ、レジへと向かっていく。
半額シールのお兄さん「・・・・・・」
半額シールのお兄さん「・・・・・・」
  ──カツン、カツン。
「どういうことだ!!」
半額シールのお兄さん「・・・・・・」

〇コンビニのレジ
レジに立つ店員さん「で、ですから、この商品は半額ではなく」
お客さん?「半額シールが貼ってあるだろ!」
お客さん?「ほら!よく見ろ!」
  お客さん?は、酒瓶を突き付ける。
  賞味期限までまだまだ長い、だがしかし半額シールが貼られている酒瓶を。
  交換される割引!!
  
  エクスチェンジド・ディスカウント!!
  ある商品に貼られた半額シールを別の商品に貼り替え半額にするという!!
  外道極まる手法!!
  またの名を、詐欺罪!!
レジに立つ店員さん「うぅ・・・」
お客さん?「泣けばいいと思ってんだろ!」
お客さん?「これだから最近の若いやつは!」
  ざわ・・・ざわ・・・。
  レジに立つ店員さんは泣きそうな表情だが、レジ周りのお客さんはざわつくのみ。
  助けたいが、証拠がないのだ。
半額シールのお兄さん「お客様、どうかなさいましたか?」
お客さん?「なんだ、おめぇ?」
半額シールのお兄さん「失礼。なにやら、騒がしかったもので」
  飄々とした半額シールのお兄さんに、お客さん?は先ほどと同じように、酒瓶を突き付ける。
お客さん?「こいつが!この酒を半額にしやがらねえんだ!」
お客さん?「見ろ!半額シールがついてんだろ!」
半額シールのお兄さん「ほほう?」
半額シールのお兄さん「・・・・・・」
半額シールのお兄さん「ふっ」
お客さん?「何がおかしい!」
半額シールのお兄さん「失礼ですがお客様。このシール・・・」
半額シールのお兄さん「貼り替えましたね?」
お客さん?「な!?」
お客さん?「てめぇ!!! 何を根拠に!!!」
半額シールのお兄さん「そのシールのギザギザの数、ちゃんと数えましたか?」
お客さん?「ああ?」
半額シールのお兄さん「当店では、お肉には16個、お魚には18個と」
半額シールのお兄さん「種類ごとにギザギザの数が違う半額シールを貼っております」
お客さん?「な、なんだと!?」
半額シールのお兄さん「酒瓶に貼られているシールのギザギザの数は、16個」
半額シールのお兄さん「これがどういう意味か、わかりますか?」
  周囲のお客さんたちが、手元の商品を確認する。
お客さんA「本当だ!」
お客さんB「私のも!」
お客さんC(半額シールのお肉もお惣菜も買えなかった私氏、確認の流れに乗ることもできず涙目)
お客さん?「ぬ、ぐぬぬ・・・」
お客さん?「たまたま・・・貼り間違えたんだろ・・・」
半額シールのお兄さん「ほう!」
半額シールのお兄さん「この私が! 貼り間違える!」
半額シールのお兄さん「半額シール貼り歴十年の私が!」
お客さん?「な・・・!?」
半額シールのお兄さん「教えてあげましょう、私が今まで貼った半額シールの枚数を」
  ──ごくり。
半額シールのお兄さん「私の貼った枚数は530000です」
お客さん?「あ・・・」
お客さん?「ああああああああああ!!??」
  圧倒的な数の前に、お客さん?は屈した。
  その場に崩れ落ち、膝をついた。
  これ以上、酒瓶を半額にしろと要求する気力はないだろう。
半額シールのお兄さん「・・・・・・」
半額シールのお兄さん「お騒がせしました」
半額シールのお兄さん「・・・・・・」
  ──カツン、カツン。
  半額シールのお兄さんは、周囲の客に頭を下げ、颯爽と去っていった。
  お客さんたちの拍手を、その背に受けながら。

コメント

  • 読み終えて笑いとスッキリ感が満載ですね。私自身も半額ハンターとして共感できます。……シールを張り替えるお客さん(?)以外は。

  • スーパーの半額シール貼る店員さんって、スーパーの花形ですよね!
    みんな集まって待ち構えてますもん。
    でも、貼り替える厚かましい人っているんですね。

  • 以外とこういう悪知恵する人ってお金がない人より常識の無い人ですよね。シール貼りお兄さんのプロフェッショナルな応対に絶句だった様子がとてつもなく伝わりました。

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