エピソード1(脚本)
〇開けた交差点
正義(俺は小さい頃から、曲がったことが嫌いだった)
正義(大人たちは自分を守るため、平気で正義を捻じ曲げることも知っていた)
正義(どんなに誠実そうな人間でも、容易に悪の道に落ちていくことも知っている)
正義(世の中は欺瞞と悪に満ちている。そんな世界を変えたい。それが俺の夢なのだ)
〇開けた交差点
不良「なんだ、てめえ! 関係ない奴は引っ込んでろ」
正義「暴力はダメだと言っているんだ! 立派な犯罪だぞ。だいたい、暴力で解決してなにが・・・」
正義「うぐっ!」
不良「ああ? 暴力がなんだって?」
正義「だから、暴力は傷害罪に・・・」
正義「がはっ!」
不良「あー? なに? 何言ってんのかわかんねぇよ」
正義「暴力は悪で・・・」
不良「おら!」
〇開けた交差点
正義「いてて・・・あー、くそ。本気で殴りやがって。それに助けた奴もさっさと逃げるしよ」
正義(助けた相手に見捨てられる。まあ、よくあることだ)
正義(別に感謝の言葉か欲しかったわけじゃない。単に悪が許せないだけだ。やはり、世の中は悪にまみれている)
良子「喧嘩はよくないですよ」
正義「ん?」
正義(ランドセルを背負った小学生が高校生の俺に向かって、説教をしようとしていた)
正義「喧嘩じゃない。一方的に殴られただけだ」
良子「そうだとしても、暴力は犯罪だわ。つまり、お兄さんは、犯罪行為を黙って見逃がしていたということよ」
良子「それって、罪を犯しているのと同じだわ」
正義「殴られた側に言われてもな。俺は再三、止めてくれとは忠告している」
良子「それでも止められなかったら意味がないわ。抑止力を持たない正義は、不要なのよ」
正義「・・・どうすればよかったんだ?」
良子「それこそ、警察を呼ぶとか」
正義「そんな暇はなかった。こっちは殴られてたんだぞ」
良子「じゃあ、助けを呼ぶとか」
正義「だから、殴られてる途中だったんだって。助けを呼ぶ暇なんてなかった」
良子「えっと、えっと。そもそも、お兄さん自身がその人を制圧すべきだったわ」
正義「・・・それができれば、殴られてない」
良子「なによ、もう! へ理屈ばっかり! 何とかしようと思わないの? これだから、大人って嫌い!」
正義「うぐ・・・。そ、そうだな。対策することを諦めていたら、悪を駆逐などできない」」
良子「そうよ!」
正義「今度は対策をしっかりと練ってから、ことに望むことにする」
良子「うん、それでいいわ。わかったなら、さっさと立って、ほら」
正義「なんだよ。こっちはあちこち痛んだ。もう少し休ませてくれ」
良子「ダメよ! 傷ついた人を見過ごすのも悪だわ。しっかりと治療しないと」
正義「治療って言ってもな。応急処置ができるようなものは持ってないし」
良子「何なら、買えばいいわ」
正義「・・・・・・」
〇渋谷のスクランブル交差点
キキっと、車が止まり、信号機から青のときの音楽が流れる。
良子「さ、青になったわ。いきましょ」
正義「ああ」
二人が歩き出す。
良子「ちょっと! お兄さん、何やってるのよ!」
正義「なにって何がだよ?」
良子「今、横断歩道を渡ろうとしたとき、左右の確認をしてなかったわ」
正義「いや、青だからいいだろ」
良子「お兄さんはそうやって、親に習ったの? 青だったら、左右を確認しないで渡りなさいって」
正義「いや・・・言われてない」
良子「でしょ? ルールはルール。どんな状況であっても守るべきだわ」
正義「・・・そうだな」
良子「あと、なんで、手を挙げないの?」
正義「ああ、そうだな。手を挙げるのは基本だな」
良子「もちろんよ」
〇コンビニ
正義「応急処置用の包帯、ばんそうこう、消毒液を買ってきたぞ」
良子「それじゃ、さっそく、治療しましょ」
ガサガサと袋を漁る良子。
良子「ねえ、お兄さん。これ、なに?」
正義「なにって、ジュース。お前の分もあるから、好きな方を選べ」
良子「はあー。わかってないわね」
正義「なにがだよ」
良子「あのね、私は、今、学校からの帰りなの!」
正義「見ればわかるよ」
良子「学校の帰りなのに、ジュースなんか飲んだら、買い食いになるでしょ!」
正義「別にお前が買ったわけじゃないんだから、いいんじゃないか?」
良子「はー、ヤダヤダ。これだから大人って」
良子「ルールをそうやって、自分の都合のいい形にねじまげるのはいけないことよ」
良子「買い食いしてはいけない。これは文字通り、買ってもダメだし、食べてもだめなのよ」
正義「うぐっ! そ、そうだな。すまん」
良子「まあ、いいわ。これは帰ってから、家で飲めばいいから」
正義「・・・・・・」
良子「ねえ、なんで、果汁100パーセントのものじゃないのよ?」
正義「え? 売ってなかったんだよ。別にいいだろ」
良子「体のゆるみが気のゆるみに影響するのよ。体に悪い物を食べたり、飲んだりするのは体にゆるみをもたらせるわ」
正義「待ってくれ! お前が言っているのは理想論だ。現にさっきのコンビニには、果汁100パーセントのジュースはなかったし」
良子「無いなら、買わなければいいだけ。違うかしら?」
良子「よりによって、すごく甘そうなコーヒーなんか買って。このコーヒーに含まれている糖分の量を知らないの?」
正義「・・・・・・」
〇住宅街の公園
良子「うん。これで、応急処置もバッチリね」
正義「大げさすぎる気がするけどな」
良子「どんなことにも、全力で取り組む。その心意気が重要なんじゃないの?」
正義「う、そ、そうだな」
良子「それじゃ、そろそろ行こうかしら。お兄さんの応急処置も終わったし」
正義「お前は見てただけだったけどな」
良子「そうそう。お兄さんは帰りにちゃんと警察によって被害届出してね」
正義「別に、そこまでしなくても・・・」
良子「兄さんが良くても、正義としてよくないわ!」
良子「だって、お兄さんが相手を野放しにするってことは、他の人がその人の脅威に狙わることだってあるのよ!」
正義「そ、そりゃそうだけど」
良子「じゃあ、ちゃんとやってね。もちろん、犯人が捕まるまでしっかりやってよ」
正義「え? そ、そこまで?」
良子「お兄さん。怠惰は罪よ」
正義「うっ!」
良子「それじゃ、帰るわ。バイバイ」
正義「ああ・・・」
正義(俺も小学生のときは、あんな感じだったのかもしれない)
正義(正義を振りかざして正論を言う。周りの人間は、どうしようもなく、面倒くさかっただろうな)
プシュッとジュースの蓋を開け、グビグビとジュースを飲む正義。
正義「ぷはー! やっぱ、甘いジュースは美味いな」
終わり。