ピアスの行方(脚本)
〇川沿いの道
満月の夜
時間も空間も超えて
あまたが望むその場所へ
連れて行ってくれる
タクシーがあるとしたら
どうしますか?
〇見晴らしのいい公園
壮太「有希、あのさ・・・」
有希「さっきから何よ」
壮太「ハイ」
有希「え?私に」
壮太「指輪は高くて買えなかったんだけど、」
壮太「まぁ、開けてみて」
有希「私が、欲しいって言ってたピアス?」
壮太「一緒に暮らさないか」
壮太「二人でさ」
有希「いいよ!」
有希「よろしくお願いします」
壮太「こちらこそ、よろしく」
〇タクシーの後部座席
タクシー運転手 「おや、雨が強くなってきましたよ」
タクシー運転手 「今日は、働きすぎましたな」
タクシー運転手 「そろそろ戻りますか」
タクシー運転手 「ん?こんな雨の夜更けに女の人が・・・」
〇大きい交差点
タクシー運転手 「どうされましたか?」
有希「あの、エバーグリーンホテルまでいけますか?」
タクシー運転手 「はい、どうぞお乗りください」
〇タクシーの後部座席
タクシー運転手 「酷い雨ですね」
有希「・・・」
タクシー運転手 「濡れませんでしたか、タオルお貸ししましょうか?」
有希「・・・」
有希「満月・・・きれい・・」
タクシー運転手 「ほんとですな、雨やみましたね」
タクシー運転手 「あんなに降っていたのに」
有希「ピアスをずっと探していて・・・」
有希「見つからないんです」
タクシー運転手 「見つけに行きますか?」
有希「はい、お願いします」
タクシー運転手 「着きましたよ」
無言のまま、タクシーを降りた。
〇繁華街の大通り
「あれ?私・・」
「キキーッ、ドン!!」
群衆「誰か、救急車呼んで!」
有希(そうだ、結婚式の写真を撮りにホテルまで行く途中で・・事故にあって・・・)
有希「ピアス!」
有希「反対車線の方に飛んで行った!!」
反対車線の植え込みをくまなく探した。
有希「あった!」
有希「良かった」
片方のピアスをギュッと握りしめた。
〇タクシーの後部座席
目を開けるとタクシーの中だった。
有希「私、死んじゃったんですね・・・」
タクシー運転手 「はい」
有希「運転手さん、もう片方のピアスは何処に?」
静かにドアが開いた。
〇中規模マンション
有希「私の家・・・」
〇マンションのオートロック
〇マンションの共用廊下
〇綺麗な部屋
有希(もう、またソファーで寝てる!)
有希「壮ちゃん!ソファーで寝たら風邪ひくよ!」
壮太「有希!帰って来たのか?」
有希「壮ちゃん、ゴメンね」
壮太「おれさ、来月から主任になるんだよ」
壮太「少しだけど、給料も上がるし二人でお祝いしようぜ」
壮太「有希が行きたいって言ってたほら、何だっけ、あの店?」
有希「分かった、分かった」
有希「ねぇ、私のピアス知らない」
壮太「ピアスならそこの仏壇の上にあるよ」
有希「ホントだ、あった!」
有希(壮ちゃんが、持っててくれたんだね)
有希(ありがとう)
有希「壮ちゃん、最後のお願いがあるの」
有希「ピアス付けてくれない?」
壮太「なんだよ、自分でつけられるだろ」
壮太「それに、最後ってなんだよ」
有希「いいから、お願い!」
慣れない手つきでピアスをつけ始めた。
有希「壮ちゃん、私の事忘れてもいいよ・・」
壮太「ん?なんか言ったか」
有希「家ではいい加減なとこあるけど、仕事は本当に一生懸命だよね」
壮太「なんだよ、褒めてんのか?けなしてるのか?」
有希「壮ちゃんを助けてくれる人が必要ってこと」
壮太「有希がいるだろ」
有希「それは・・・だから」
有希「必ず、いい人が現れるからさ」
壮太「ピアス、付けたぞ!」
有希「ありがとう」
有希「このピアス、もらって行くね」
壮太「何言ってんだよお前のだろ、何処持っていくんだよ」
有希「壮ちゃん、明日も仕事早いんでしょう」
有希「布団で寝ないと疲れ取れないよ」
有希「おやすみ」
壮太「おやすみ」
有希(壮ちゃん、ありがとう 幸せになってね)
〇中規模マンション
有希「運転手さん、ありがとうございます」
タクシー運転手 「見つかりましたかな、ピアス」
有希「はい」
有希「私、お金を持っていなくて」
有希「代わりにこのピアスでお願いします」
タクシー運転手 「お代は結構・・で・・・」
タクシー運転手 「いってしまわれましたな」
「ピアス結構高く売れると思いますよ~」
タクシー運転手 「おや、おや、それはすいません」
〇綺麗な部屋
壮太(有希の夢、居なくなってから初めて見たな)
壮太「夢とはゆえ、せっかく会えたのにもっとなんか話すことあっただろう!」
壮太(布団で寝ろか・・・あいつらしいな)
壮太「あれ、ピアスがない!」
辺りを必死で探したが、見つからなかった。
壮太「まさかホントに持って行ったのか?」
壮太「あいつに心配かけないようにしなきゃな」
壮太「おっと、急がないと仕事に遅れる」
おわり
時空タクシーの運転手さんでも、さすがに死んだ人までは生き返らせてくれないのか・・・。死者の有希も残された壮太もそれぞれの心残りを抱えていただろうけれど、思い出のピアスを介して触れ合えて二人ともほんの少しだけ心が軽くなったんじゃないかと思うと良かったです。
切ない...。自分がこの女性ならどうにかしてでも過去を変えようとしてしまうだろうな、と。最後に2人が会って話すことができてよかったです