サンタなんてないさ(脚本)
〇女の子の部屋(グッズ無し)
スズ「はあ・・・」
スズ「サンタさんなんていないよね」
スズ「ねえ、ワンダもそう思うでしょう?」
スズ「わんわん! その通りだわん! ──なんてね」
〇部屋の前
12月のある日のこと
僕は娘の部屋の前で耳をすましていた
トナカ「・・・?」
トナカ「どうしたのあなた?」
セイヤ「しー・・・ 君も聞いてごらん」
トナカ「なになに?」
セイヤ「スズがね、サンタさんのことをワンダに話し掛けてるみたいなんだけどさ」
トナカ「あらかわいらしい さすが私たちのメルヘンガールね」
トナカ「オバケも妖怪も絶対イヤだけど、サンタさんならいいわよねー」
別にオバケも妖怪もいいだろうと思うけど、今はそれどころじゃない──
セイヤ「いや、それがね」
スズ「サンタさんなんていないよねー」
セイヤ「どうやら「サンタ離れ」が始まってるらしいんだ」
トナカ「そんな、早すぎるわ! あなたなんとかして!」
セイヤ「そうだね 少し話してみよう」
セイヤ「入るよ、スズ」
〇女の子の部屋(グッズ無し)
ドアを開けると悲鳴が上がった
スズ「きゃー!」
ワンダが宙を舞う
天井に跳ね返ったワンダは、本棚と壁のすきまに頭をめり込ませた
セイヤ「こらスズ、めり込んでいいのはコンドルだけだよ」
スズ「パパ、乙女の部屋に勝手に入らないでよ!」
セイヤ「乙女って・・・ それは悪かったよ、ごめんごめん」
スポンッ──と、ワンダを救出してスズに手渡した
セイヤ「コホン・・・それはそうとスズ、サンタさんはね──」
スズ「いるわけないでしょ!」
スズ「去年だって「キッド君」、くれなかったもん」
セイヤ「それはその・・・サンタさんにも都合があったんだろう」
「キッド君」というのはスズのお気に入りのキーホルダー人形だ
だけどどこかになくしてしまったらしい
去年のクリスマスに買ってやりたかったんだけど、なんと生産終了
SNSでも、ゆずってくれる人は見つからなかった
スズ「どうせ、サンタさんなんていないのよ」
スズはワンダを抱いてそっぽを向いてしまった・・・
〇明るいリビング
トナカ「あなた、このままあきらめるの?」
セイヤ「フッ・・・そんなわけないだろう」
トナカ「やっぱり?」
セイヤ「ディア・マイ・メルヘンガール 夢からさめるのはまだ早い」
セイヤ「「サンタさん信じ込ませ作戦」を発動する!」
トナカ「さすがあなた!」
〇数字
──計画はこうだ
イブの夜は徹夜でゲーム大会
家族いっしょにリビングで過ごす
スズはその内トイレに立つだろう
その間に彼女の部屋へプレゼントを置き、翌朝にそれを発見させる
スズは、僕たちにプレゼントを置く機会がなかったことを知っているわけだから
贈り主はサンタさん以外に考えられないってことになる
セイヤ「幸い今年のイブは金曜だから、学校も仕事も心配ない」
セイヤ「我ながら完璧な計画だ!」
トナカ「天才よあなた!」
セイヤ「プレゼントも僕が用意しておくよ」
〇明るいリビング
──そして迎えたイブの夜
ゲーム大会は大いに盛り上がった
スズの目はギンギンで、寝落ちする心配はなさそうだ
ふいに、その時がやってきた
スズ「トイレ行ってくる」
「・・・」
妻がトイレを見張り、そして僕は──
〇部屋の前
スズの部屋のドアに手を伸ばし、息をのんだ
セイヤ「鍵が掛かってる!」
セイヤ(くそ、子ども部屋に鍵を付けるなんて僕は反対だったんだ)
セイヤ(せめて合鍵を作っておくべきだった!)
あたふたしていると、スマホが震えた
これは妻からの合図――まずい、スズが戻ってくる!
プレゼントを隠し、慌ててリビングへ戻った
〇明るいリビング
トナカ「私もトイレ行ってくるわ」
妻は作戦が完了したと思い込んでいるらしい
スズは楽しそうに得点表を見つめている
セイヤ「・・・ねえスズ、君の部屋なんだけど」
スズ「なあに?」
セイヤ「鍵はよく使うのかい?」
スズ「鍵? 全然使わないけど、今日だけ使ったよ」
セイヤ「な、なんでまた・・・」
スズ「サンタさんを確かめようと思って」
セイヤ「どういうことだい?」
スズ「サンタさんは煙突のないお家にもやってくるじゃない?」
スズ「サンタさんは壁抜けできるのよ!」
スズ「だから私、鍵掛けたの」
スズ「これでお部屋の靴下の中にプレゼントを入れられるのって、サンタさんだけよね?」
セイヤ「な、なるほど・・・そうだね」
セイヤ「それで、鍵はどこに?」
スズ「・・・」
スズ「隠したよ」
スズ「私のトイレのスキに誰かが忍び込んじゃわないようにね」
セイヤ「・・・くっ!」
スズ「これぞ「サンタなんてないさ作戦」!」
トナカ「お待たせー さあ、ゲームを続けましょうか」
スズ「うん! 負けないよー!」
その後は妻と相談することもできず──
〇明るいリビング
──朝になってしまった
トナカ「それじゃあ、軽く朝ごはん食べてから眠りましょう」
キッチンに向かう妻は上機嫌で言う
トナカ「あ、そうだスズ、お部屋見てみたら?」
トナカ「プレゼント、届いてるかもよ? サンタさんから」
スズ「えー、そうかなあ?」
スズは僕をちらりと見ると・・・自分の腹をポポンッとたたいた
スズ「おえっ」
口から鍵が出てきた
スズ「じゃ、見てくるね」
トコトコと駆けていくスズ
セイヤ(くっ・・・作戦失敗だ!)
スズ「きゃー!」
悲鳴に続けてドタバタと、彼女はすぐに戻ってきた
スズ「ママ見て! サンタさんからのプレゼント!」
トナカ「あら、良かったじゃないのー」
スズ「ほらパパも見て!」
──これは!
セイヤ(キッド君!?)
スズ「サンタさん、ありがとう!」
セイヤ「そ、そうそう、僕とママからもプレゼントがあるんだ――ほら」
スズ「わあ、ありがとー!」
落ち着け、キッド君はどうして?
妻がやったのか?
いや、それはない
鍵はスズの腹の中だったんだから
この使い古された感じ・・・
そうか! ──うん、そういうことがあってもいいだろう!
〇女の子の部屋(グッズ無し)
セイヤ「・・・」
セイヤ「ありがとう スズは大喜びさ!」
セイヤ「本棚と壁のすきまに落ちていたのを、君が見つけてくれたんだね」
・・・怖がるといけないから、このことは秘密にしておこう
サンタを信じない子どもに信じさせるのって大変ですね。
子どもにはやっぱり夢を持っていてほしい気持ちは、なんとなくわかります。
子ども部屋の中にプレゼントおくのって難易度高いなぁ。いっそ、居間にプレゼントおいていってくれるサンタさんだったら楽チンなのに(笑)どんどん成長して現実世界をわかってくる子どもと、対する子どもの夢を守りたい両親が微笑ましかったです。
明るく楽しいホームコメディで、面白かったです!サンタ離れ宣言に私もおろおろして、プレゼントを置く方法が決まって喜んで…と、一喜一憂しながら楽しい時間を過ごせました。ワンダが見つけてくれたならファンタジー?投げ飛ばしたおかげならミステリー?どんな読み方でもちゃんとまとまるラストですごいです。