演劇のアクターさん(脚本)
〇学校の部室
12月23日
とある高校の放課後にて
赤藤「俺をサンタにしてくれ!!」
加々岡「・・・・・・」
加々岡「隣のクラスの不思議系美少女、竹雛さんが サンタを信じてるって噂を小耳に挟み、」
加々岡「自身がサンタになることで、彼女の夢を 守ろうってこと?」
赤藤「そう!! さすが演劇部部長にして唯一の部員。 巨大な行間を読む男だ」
加々岡「伊達に一人芝居を極めてないよ」
赤藤「そうかそうか、なら早速始めるぞ。 俺、サンタ化計画を」
加々岡「具体的に何をするの?」
赤藤「俺をサンタにしてくれ」
加々岡「赤藤の外見を、ってことなら僕はあまり力になれないよ」
加々岡「僕がサンタを演じることはできるけどね」
赤藤「それだと竹雛さんの意識は加々岡に行くだろ、それはダメだ!!」
加々岡「それじゃあ、内面的なサンタを目指す?」
赤藤「演劇部の友達を頼って姑息な裏回しをする ような奴に、サンタが如き聖人の精神 なんか宿らねぇよ」
加々岡「サンタガチ勢!?」
加々岡「それじゃあ、現代のサンタは赤藤っていう台本を作って、」
加々岡「それを竹雛さんの前で、自然に披露する?」
赤藤「演劇部らしい発想、採用だ!!」
加々岡「演劇ができるのは僕も嬉しいよ」
加々岡「さっそく台本を作ろう!!」
赤藤「おう!!」
〇学校の部室
1時間後
赤藤「しっくりこねぇな」
加々岡「助っ人を探そう」
加々岡「僕たちには無い、新しい発想の持ち主を見つけるんだ」
〇学校の部室
1時間後
加々岡「何とか探せたね」
ライト「ライトデース、ヨロシク」
赤藤「留学生には荷が重くないか?」
加々岡「なにが?」
赤藤「演劇に飢えている演劇ジャンキーには、まともな思考が残ってないのか」
ライト「ア、アノ・・・・・・」
ノートに文字を書き出すライト
『日本語を話すのが苦手ではありますが、Writeはある程度得意です』
『Wright(ライト)はWriteが得意ってことです。──ライトだけに、ね。(大爆笑)』
赤藤「おっ、中々に小賢しいな!!」
加々岡「巧みな文才が光るね」
赤藤「脳みそがあるならいいか」
赤藤「台本作り再開だ!!」
〇学校の部室
台本作りは混迷を極めた。
「セリフ回しが肝心だ」
「各々これだけは使いたいっていう決めセリフがあって纏まらないね」
『全て使いましょう』
「竹雛さんのセリフが無いと展開を考えにくいな」
「とりあえず僕が竹雛さんを演じてみるよ」
「あわてんぼうのサンタクロースってダサいな」
『韻を踏んで言い換えましょう』
三人の力を合わせ、何とか台本は完成した。
赤藤「とりあえず台本を確認するぞ」
〇学校の屋上
まず竹雛さんに、屋上にサンタがいるという嘘情報を教える。
屋上に行くと俺がいる。
そこで竹雛さんは言うはずだ。
竹雛さん「あなたがサンタさん?」
ここで俺は決め台詞を言う
赤藤「──そうだ、と言ったら?」
竹雛さんは答えるだろう。
竹雛さん「まぁ、なんてことなのかしら!? 私は間違っていなかったのね。 だってサンタさんはいるんだもの!!」
喜ぶ竹雛さん。
俺は加々岡が演じるトナカイを連れ、柔らかく降る雪を掌で受け止めながら呟く。
赤藤「粉雪か」
赤藤「”時間切れ”、だな」
竹雛さんに背を向け歩き出す。
咄嗟に言葉が溢れ出す竹雛さん。
竹雛さん「あ、あのっ!?」
竹雛さん「また、会えますか?」
俺は振り向かずに告げる。
赤藤「我は戦場のサンダークロス。 次会う約束は出来ぬ者・・・・・・」
一抹の哀愁が尾を引く中、やがて消える運命を暗示するかの如くゆっくり去る俺たち。
そして屋上には、夢を見た竹雛さんが、静かな熱を持って佇む。
〇学校の部室
赤藤「・・・・・・」
赤藤「形にはなったか」
加々岡「演劇ができる、演劇が!!」
ライト「ガンバッタ」
普段使わない脳みそを使い続けた結果、三人の判断力は限りなく鈍りきっていた。
赤藤「あとはぶっつけ本番だ。 明日は頼むぜ!!」
〇学校の部室
〇学校の部室
〇学校の部室
赤藤「衣装忘れた」
加々岡「詰んだ!?」
赤藤「演劇部に何か衣装はないのか?」
加々岡「うーん」
〇学校の部室
加々岡「戦闘用スーツ(黒)しかないよ」
赤藤「そんなことある?」
加々岡「まあ何とかなるよ」
赤藤「ならいくぞ!!」
赤藤「誘導は任せたぞ、ライト」
ライト「ハ、ハイ」
〇教室
ライト「タケヒナサーン」
竹雛さん「・・・・・・」
ライト「ア、アノ、オクジョー・・・・・・」
ライト「オ、オクジョー・・・・・・」
竹雛さん「え、屋上?」
〇学校の屋上
竹雛さん「わぉ」
竹雛さん「戦闘用スーツ(黒)を着た赤藤君?」
赤藤(えっと、俺が言うセリフは)
赤藤「──そうだ、と言ったら?」
竹雛さん「寒くないの?」
赤藤「粉雪か」
竹雛さん(粉雪かな?)
赤藤「”時間切れ”、だな」
竹雛さん(吹雪で聞き取りにくい)
竹雛さん「何て言ったの?」
赤藤「我は戦場のサンダークロス。 次会う約束は出来ぬ者・・・・・・」
竹雛さん(そう言ってたんだ)
竹雛さん(サンダークロスって、何だろ?)
竹雛さん(後で調べよ)
〇学校の部室
赤藤「台本通りに演じたが、」
赤藤「大失敗だよな」
加々岡「いや、悪くはないと思うよ」
赤藤「ジャンキーすぎるぞ・・・・・・」
赤藤「まあ、竹雛さんと話せてよかったぜ」
赤藤「帰るわ」
〇学校の屋上
竹雛さん(・・・・・・)
竹雛さん(寒い)
〇学校の部室
加々岡「やあ、どうだった?」
竹雛さん「加々岡君って、脚本家には向いてないかも」
加々岡「まあ、僕は演者だからね」
加々岡「でも台本作りも楽しかったよ」
〇学校の部室
一週間前
竹雛さん「あの、加々岡君、ですか?」
加々岡「えーと、何かな?」
竹雛さん「その・・・・・・」
〇学校の部室
加々岡「なるほど」
加々岡「つまり、赤藤と話すきっかけが欲しいんだね?」
加々岡「任せてよ!!」
加々岡「僕が劇的に演出するよ」
〇学校の部室
竹雛さん「それが何で、こんなことになったの?」
加々岡「台本作りには筋書きが無かったんだ。 僕もびっくりだよ」
竹雛さん「普通に話したかったよ」
加々岡「演劇にした方がよくない?」
竹雛さん「演劇狂だね・・・・・・」
竹雛さん「でも、赤藤君と話せてよかった。 今日はありがとう」
加々岡(・・・・・・)
加々岡(演劇にしたのは僕だけど、)
加々岡(2人には演技なんて必要ないのになぁ)
加々岡(演者は僕だけで十分だよ)
加々岡(・・・・・・)
加々岡「いや、部員は普通に欲しいかも」
ライト「ア、アノ」
ライト「ダイホンヅクリ、モットヤリタイ!!」
加々岡「思いがけないプレゼント!?」
こうして
聖夜は案外、聖夜らしく過ぎていった
赤藤君の片思いかと思いきや、彼女のほうも彼と話したかったなんて想定外でした。なんでも演劇にもっていきたがるかか岡君と、台本作りに火がついてしまったライト君がキュートです。
実は両思いだったんですね!
楽しく読ませていただきました。
ところどころ笑える場面もあって、すごいおもしろかったです!
「普通に話したかった」ってのは当然かと思います。笑
2000字とは思えない充実した内容!
クリスマスに期待する事→台本→本番→裏話、と多重構造ながらキレイな構成で、それらのギャップがダイレクトに味わえました
多少無理がある設定も魅力的なキャラ付けや笑える台詞回しでかえって強みにしている所も、高い技術を感じました
意外な裏側やしっかり聖夜に着地する引きなど、最後まで楽しめました
完成度が高く、控えめに言ってとても面白かったです!