殺し屋と黒猫のメリークリスマス

伊波

読切(脚本)

殺し屋と黒猫のメリークリスマス

伊波

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〇西洋風の駅前広場
  水の都ヴェネツィア
  クリスマス・イブ
殺し屋「ちいっ!追ってきやがった!」
殺し屋「政府のクソ犬どもめ!」
  その日、俺は朝から警察に追われていた。
  殺しのターゲットを追っていたところ、運悪く見つかったのだ。
殺し屋「おい、大丈夫か?相棒」
  コートの中から、黒い猫が顔を出す。
相棒猫「ニャア!」
  ある日、街の路地裏で拾った猫だ。
  殺し屋稼業じゃ、友人も恋人も作れない。
  孤独な俺の、たった一匹の相棒だった。
殺し屋「ふっ、無事か。そりゃあよかった」
相棒猫「ニャニャニャ!」
相棒猫「いや、無事じゃねえし! 窒息するかと思ったわ」
殺し屋(・・・元気そうだな)
殺し屋「早くずらかって次の狙撃ポイントへ行くぞ」
殺し屋「今日はクリスマス・イブだ」
殺し屋「ヨダレをたらした野郎共の眉間を、 ど真ん中からぶち抜いてやろうぜ!ハハハ」
相棒猫(あーあ・・・)
相棒猫(こんなめでたい日まで、血生臭せぇんだなぁ)
殺し屋「ん?何考えてんだ、お前」
相棒猫「ニャ?」
殺し屋「ふん。まぁ、いいさ」

〇ヨーロッパの街並み
殺し屋「ここで待ってろ。俺は準備をする」
  次の標的はとある大物政治家だ。
殺し屋「来たぜ!」
殺し屋「3、2、1・・・」
  パァン!
殺し屋「なっ、鳩だとっ・・・!!?」
  運悪く一羽の鳩が横切り、男の身代わりになった。
殺し屋(落ち着け。もう一発だ!)
殺し屋「3、2、1・・・」
  パァン!
  今度は伏せた男の前に、ニワトリが飛び出した。
殺し屋「チクショウ!なんで二度も・・・」
相棒猫「ニャニャニャ!!」
相棒猫「このノーコン野郎が!!」
殺し屋(うるせぇ、クソ猫!)
大物政治家「ひ、ひいぃっ・・・」
大物政治家「警察を呼んでくれっ!」
殺し屋「ちいっ、ずらかるぞ!!」
少年「・・・」

〇市場
殺し屋「ハァ、ハァ」
殺し屋「ここまで来れば、もう大丈夫だろ」
  そのとき。
  そいつは、何の前触れもなく現れた。
少年「よかったね、おじさん」
少年「うまく逃げ切れたみたいでさ」
  まったく気配がなかった。
殺し屋(さっきの殺しを見られてた・・・?)
殺し屋「・・・何者だ? テメェ」
少年「いやだなぁ」
少年「僕は迷子だよ、おじさん」
少年「せっかくのイブなのに、親とはぐれちゃったんだ」
  見られたなら、子どもでも殺すしかない。
  だが・・・
殺し屋(ちっ、ここは人が多すぎる)
相棒猫「ミャオ」
相棒猫「どーすんだよ、このボンクラ」
殺し屋(んなこと言ったって、仕方ねぇだろ)
  相棒猫の言いたいことは、何となくわかる。
  俺はバリバリと頭を掻き、ため息をついた。
殺し屋「・・・こっちは忙しいんだ」
殺し屋「親探しにつき合えるほど暇じゃねぇよ」
少年「それなら大丈夫」
少年「少しの間、一緒にいてくれれば良いんだ。 きっとすぐ迎えが来るよ」
少年「こんな日に独りは、寂しいからね・・・」
  その言葉に、はっとした。

〇市場
  35年前
  ヴェネツィア郊外
殺し屋(幼少期)「ねぇ、お願いだよ!! パパ、ママ!!」
殺し屋(幼少期)「置いて行かないでよぉ・・・!」
殺し屋(幼少期)「僕を、独りにしないでよ・・・!!」

〇市場
殺し屋「・・・ちっ」
殺し屋「・・・」
殺し屋「わかったよ」
殺し屋「ついて来るだけだぞ。 邪魔しやがったら容赦しねぇ」
少年「わぁ!ありがとう、おじさん!!」
殺し屋「・・・ふん」
殺し屋「サッカーと宗教の話はやめろよ。 すぐに追い出してやる」
少年「サッカーはわかるけど、宗教?」
殺し屋「神なんて、どこにもいないからだよ」
殺し屋「俺は無神論者だ」
少年「・・・そっか」
少年「わかったよ! なにしろ、ありがと!」

〇城門の下
殺し屋「行くぞ」
  パァン!

〇西洋風の駅前広場
  パァン!

〇建物の裏手
  パァン!

〇城壁
少年「・・・」
少年「おじさんって、もしかして鳥ハンター?」
殺し屋「ハンターじゃねぇし、シェフでもねぇよ!」
殺し屋「クソッ、次こそは・・・!」
  狙いを定める。
  パァン!
殺し屋「・・・よし!」
少年「殺したの?」
殺し屋「ああ」
  丘の上にある大豪邸。
  確かに男を撃ったが、悲鳴がなかった。
殺し屋(・・・?)
  ワアァァァァ!
  代わりに歓声が聞こえる。
殺し屋(どういうことだ?)
少年「マフィアの幹部の家・・・?」
殺し屋「知ってるのか?」
少年「うん。有名だからね」
少年「家でも暴力ばかりだって噂」
少年「みんな、解放されて喜んでるのかも」
少年「良いことをしたんじゃない?」
殺し屋「善行だって言いたいのかよ? 馬鹿馬鹿しい・・・」
殺し屋「やってられっか。 今日はもう終わりだ!行くぞ!」

〇綺麗な港町
  日はすっかり沈み、街には温かな家明かりが灯っていた。
  どこも家族でクリスマスを祝っているんだろう。
少年「おじさん、これあげるよ」
殺し屋「何だ?これ」
少年「キャンディだよ。さっき貰ったんだ」
少年「良いクリスマスを」
殺し屋「・・・ふん。くだらね」
少年「あ、食べてくれるんだ」
少年「おいしい?」
殺し屋「・・・ガキの味がする」

〇クリスマス仕様のリビング
  親戚の家
「メリークリスマス!」
「ほら、プレゼントだよ」
殺し屋(幼少期)「わぁ、ありがとう!おばさん」
「お菓子もたくさんあるぞ!」
殺し屋(幼少期)「あっ、僕の好きなキャンディだ!」

〇綺麗な港町
殺し屋「俺も、ガキの頃はプレゼント貰ったな」
少年「いい子にしてたんだ。 僕も貰えるかなぁ?」
殺し屋「さぁ?」
殺し屋「1年間、悪さしてなかったら貰えるんじゃねぇの」
少年「じゃ、貰えるはずだね」

〇イルミネーションのある通り
  午前0時
殺し屋「お前の親、来なかったな」
殺し屋「ま、仕方ねぇか。 ここは寒いし、屋根の下に行こう」
  足音は、ついては来なかった。
殺し屋「おい、坊主・・・?」
  パァン!
  弾けるような音がして、
  自分の胸に風穴が空いたことを知った。
少年「メリークリスマス、おじさん」
少年「本当の名前は、ミケーレだったかな?」
殺し屋「・・・どう・・・して」
少年「君は『神なんていない』って言ったけど」
少年「神様は、いるんだよ」
少年「僕は、神の遣(つか)いさ」
少年「これでもう、独りのクリスマスを寂しがることもないだろう?」
相棒猫「ニャア!」
少年「君も、もうお行き。 晴れて自由の身だ」
  猫は首輪を外されてもなお、その場をうろうろしている。
殺し屋「行け・・・、クソ猫・・・」
  這いつくばった地面で、視界がぼやける。
少年「地獄にも、ごちそうってあるのかな」
少年「僕は行ったことないから、わからないけど」
  黒猫は一度だけ後ろを振り返り、去っていった。
少年「今日はお祝いだから、もう行かなくちゃ」
少年「おやすみ、ミケーレ」
少年「・・・もう、聞こえてないかな」

コメント

  • 人を殺して喜ばれることも、たしかにあるかもしれませんね。
    どっちが悪で、どっちが善かなんて、その人の受け取り次第な気もする作品でした。
    それを制するのが秩序なんだなぁと。

  • 鳥ハンターに転職した方が良さそう…。
    というか、妨害されるのは神の使いのせいなのでしょうか。
    もし元々なら…本当に向いてない職業かもしれませんね笑

  • 人殺しも悪ではなく善となることもあるのか、、殺した相手が他の人を苦しめる極悪人だったのなら、、常に孤独で生きていても辛かったのなら、、そんなことを考えさせられるお話でした。神の遣いの少年の無邪気さが、この作品の結末をよりひきたたせていると感じました。

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