傘の下のきみへ告ぐ(脚本)
〇教室
雨脚は依然として衰える気配を見せず、窓の向こうをしっとりと湿らせている。
普段は運動部の賑やかな掛け声が聞こえるグラウンドも、今日ばかりは雨が地面と窓を打つ音がそれに代わっていた。
午後5時。今日は快晴と言った天気予報に悪態をつくのにも飽き、俺は一人教室で雨がやむのを待っていた。
窓を伝う雨を目で追っていると、背後のドアが開けられる音がした。
雫(しずく)だった。
雫(しずく)「暇そうだね。なにしてんの?」
俺「強いて言うなら、眉毛の太い気象予報士を呪っている」
呆れたような口調の雫を適当にあしらうと、窓の外に視線を戻す。
外はすでに薄暗く、幹線道路を走る車のヘッドライトが雨に滲んでいた。
俺「もう委員会終わったのか?」
雫(しずく)「さっきね」
どうでもいい会話がすぐに途切れる。生真面目に切りそろえた髪を揺らして、雫は俺の前の席に座った。
雨の音が響くばかりの教室は世界と隔絶されてしまったかのように静謐さに支配されている。
それでも居心地の悪さを感じないのは、昔からの付き合いである雫とだからだった。
俺「なあ、お前、傘持ってないか?」
冗談のつもりで聞いてみる。朝は空に一点の曇りもない快晴だったのだから。
雫と同じく、たまたま委員会の用事が入ったばっかりに突然の豪雨に見舞われてしまった。
雫(しずく)「・・・・・・持ってるよ」
ほら、やっぱりな。これはもう、覚悟を決めて走って帰るしかないな・・・・・・。
え? 持ってるって?
俺「いや、随分と準備がいいな」
雫(しずく)「まあ・・・・・・、梅雨時だからね」
相変わらずというか、こういう几帳面なところは昔から変わらないよな。
俺「スマン、半分貸してくれ」
雫(しずく)「え・・・・・・、それって?」
そこは突っ込まないで欲しかったな・・・・・・。
俺「帰る方向も同じだしさ。誰も見てないからいいだろ?」
雫(しずく)「誰も見てないって・・・・・・。そっちのほうがむしろ問題・・・・・・」
俺「うるせーよ」
赤面して愚痴をこぼす雫に苦笑しつつ、俺たちは昇降口へ向かった。
〇土手
雨粒の音が響く空色の傘の下が俺たちの共有する世界となっていた。
何を話すでもなく、足下の水たまりを避けながらただただ歩いている。
雫の歩幅は小さい。俺はそれに合わせるようにして、ゆっくりとその斜め後ろを歩いている。
雫(しずく)「肩、濡れてるよ」
振り返った雫が、後ろ歩きをしながら見上げてくる。
小さい傘の下、互いの距離は近かった。
雫(しずく)「ほら、もっと入っていいよ」
傘の柄を握る俺の手を、雫はずいっとこちらに押し寄せる。
俺「大丈夫だ。お前こそ、そんな歩き方してると転ぶぞ」
雫(しずく)「は~い」
くるりと前に向き直った雫に気づかれないように、またそっと傘を雫の上に持ってくる。
雫(しずく)「ねぇ、梅雨って何だか憂鬱な感じがしない?」
突然の問いに俺は間抜けな声で、
俺「あ~・・・・・・。まあな」
雫(しずく)「でもさ、雨の日にウキウキしてても別にいいじゃない?」
俺「まあ、そうだよな」
う~ん。何の話だろうか。
俺「それがどうかしたか?」
雫は振り返らずに答える。
雫(しずく)「ううん、なんでもない。ただ、雨も別に嫌いじゃないかなって」
俺「そうかい」
気のない返事をしながらも、心の中で同意する。
明日も傘を忘れてみようか。
大外れをかました気象予報士も今回ばかりは許してやろう。
言葉はない。
雨音だけが響く。
咲き誇る紫陽花に雫が頬を緩ます。
そんな傘の下────。
──────END──────
この二人の距離感がとても素敵ですね!降っている雨が良い味を出しています!
地の文がとても良くて、小説を読んでいるような感覚で自然と物語に引き込まれました!
わ わ わ
これはなんて素敵なラブストーリーでしょう
甘酸っぱい💕可愛い💕雨の日も捨てたものじゃないですね!
こちら最初の投稿作品でしょうか!
セリフ力も勿論のこと文章も鮮やかで丁寧で👍とっても楽しかったです!
相合傘をしていても、肩が濡れてしまう距離感。こういった細やかな描写で互いの心情を描かれていて、青春の甘酸っぱさを強く感じてしまいます。この短編の中の心を打つシーンが多すぎてトキメキすぎます!w