お客様の中に、ロックンローラーはいらっしゃいませんか?

ウエモト

お客様の中に、ロックンローラーはいらっしゃいませんか?(脚本)

お客様の中に、ロックンローラーはいらっしゃいませんか?

ウエモト

今すぐ読む

お客様の中に、ロックンローラーはいらっしゃいませんか?
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇文化祭をしている学校
  ──12月24日 クリスマス・イヴ
  うちの地元の高校では イヴの日に
  学園祭を行うという変わった伝統がある
  それも夜間の開催
直美「(別にわたしも 彼氏さえいれば  来る事もなかったのになぁ・・・)」
  大学生になって早2年 いまだに
  彼氏どころか 男友達すら皆無
  流石に これ以上イヴの日に
  一人でいることにも 寂しい年頃だった
直美「まあ ビールはなくても 騒がしいだけ 気もまぎれるでしょう」

〇中庭のステージ
  『あ、あの──!!』
直美「ん?」
  ステージの近くをぶらついていたら
  ひとりの女生徒が困った顔で、
  何故かアコースティックギターを持って
  辺りをキョロキョロしていた
直美「(・・・軽音部?)」
  と、予想したのも 束の間
サチコ「あ、あの!!」
サチコ「お客様の中に!!」
サチコ「ロックンローラーはいらっしゃいませんか!?」
  ヤバい奴だった
サチコ「あっ」
直美「げ」
  目が合った
サチコ「あの、もしかしてロックンロー・・・」
直美「チガイマス」
サチコ「そうですか・・・」
  露骨にがっかりされた
直美「えっと、何かあった?」
  一応、質問してみることにした
  もしかしたら 緊急事態かもしれないし
サチコ「あ、そうなんです!! その・・・」
サチコ「わたし、ゲリラ路上ライブがしたいんです!!」
直美「・・・」
  度を越して ヤバい奴だった
サチコ「あの、わたし この学園祭で どうしても歌いたい曲があって、」
サチコ「でも、その、部活とか入ってなくて、 ステージの許可が下りなくって・・・」
サチコ「いや!! そもそも、わたしみたいな ボッチに部活に入る勇気とかないですし!!」
直美「・・・はぁ」
サチコ「で、もういっそ当日ゲリラで ライブしてしまおうと思ったんですけど」
サチコ「その、いざってなったら、」
サチコ「やっぱり、勇気が出なくて・・・」
直美「・・・」
サチコ「だから、本物のロックンローラーが 手伝ってくれたら、きっと!!」
サチコ「勇気をわけてもらえたら・・・ 最期まで、ライブできると思ったんです」
直美「・・・」
  なるほど、ここまでぶっ飛んでると
  恐怖を超えて もはや興味すら湧いてくる
  よし分かった 付き合ってやろうじゃない
  どうせ暇を持て余していたところだ
直美「・・・メンバーは?」
サチコ「えっ?」
直美「ライブはひとりで? 弾き語り?」
サチコ「え? あ、いえ、スピーカーから カラオケ音源を流して歌おうと・・・」
直美「・・・その肩から下げてるギターは?」
サチコ「・・・ただのファッションです」
サチコ「練習してたんですけど、 その、間に合わなくて・・・」
直美(形から入る子だなぁ・・・)
直美(とはいえ、カラオケだろうと ライブできるだけの準備はある、か)
直美「よし分かった お姉さんに任せなさい」
サチコ「・・・へ?」
直美「──やろう ゲリラライブ」
  何を隠そう わたしにも
  そんな青臭い経験がない訳でもないのだ

〇クリスマス仕様の教室
  ──学園祭 フリーマーケット スペース
直美「ねえ ゲリラを成功させるためには 何が重要だと思う?」
サチコ「え? それは、その、人目を気にしない 勇気とか、ロック魂とか・・・」
  わたしは首を横に振る
直美「”ライブを中断されないこと”」
直美「それと ”逃げる算段があること” よ」
直美「どんなに勇気があっても、 サビを歌う前に中断されたら意味ないし」
直美「仮に歌い切れなくても 逃げ切れれば 何度でも再挑戦できる」
サチコ「な、なるほど・・・」
直美「とはいえ、あなたはこの学校の生徒だから 顔が割れた時点でゲームオーバー」
直美「だから、これ」
サチコ「か、紙袋・・・?」
直美「そ、今日はそれ被ってライブするから」
サチコ「えっ!!!?」
直美「路上ゲリラの宿命よ ロック魂で受け入れなさい」
サチコ「か、恰好よくない・・・」
直美「ホラ!! もう時間ないから急いで!!」
サチコ「わたしのロックンロール・・・」

〇クリスマスツリーのある広場
  ──学園祭 中央エリア
  ガヤガヤ ガヤガヤ
直美「よし ここなら それなりに人通りも多い」
直美「それに いまなら運営委員の奴らも ほとんど屋内ステージに回ってる時間よ」
サチコ「いまから、ここでゲリラするんだ・・・ わ、わわ、わたしが・・・」
直美「どんなプロでも ライブは緊張するものよ 胸張りなさい」
サチコ「は、は、はい!!」
  返事の威勢はいいが、手足はガクガクで
  生まれたての小鹿のように震えている
直美(それでも 逃げようとはしていない)
直美(己の緊張と真正面から向き合ってる)
直美「・・・そろそろ準備しましょう」
サチコ「え? あ、は、はい!!」
  そして、彼女の手は
  スピーカーの電源を
  入れようとして──止まった
サチコ「・・・あれ? あれ?」
直美「? どうかした?」
サチコ「ス、スピーカーの電源が・・・ 入らないんです!!」
直美「えっ・・・!?」
サチコ「ど、どうしよう!! 予備もないし、 スマホだと音が小さすぎる・・・」
直美「・・・」
サチコ「あれが、あの演奏がないと・・・ わたし・・・」
直美「・・・」
直美「そのギターを貸して」
サチコ「・・・え?」
直美「・・・」
直美(・・・弦はしっかり張ってあって、 チューニングまでしてある)
直美(・・・本当に、直前まで練習してたのね)
  ほんの少し、弦の調子を確かめた後
  わたしはギターのストラップを肩にかけた
サチコ「あ、あの、 お姉さん、どうして・・・」
  どうして?
  そんなの決まってるじゃない
直美「今日は、クリスマス・イヴだから」
直美「わたしが、あなたの夢をかなえてあげる」
サチコ「・・・」
サチコ「・・・お姉さんは、サンタさんですか?」
直美「違うわよ、あなたが言ったんじゃない」
サチコ「へ・・・?」
直美「──通りすがりのロックンローラーよ」
サチコ「!!」
サチコ「は、はい!!」
サチコ「──よろしくお願いします!!」

〇クリスマスツリーのある広場
  その日、偶然ゲリラライブを目撃した
  著名なミュージシャンが こう口にした
  『ロックンロール イズ ノットデッド』

コメント

  • ロックは魂の歌ですよね。
    彼女の勇気がこのセッションを生んだんだなぁって思うと、ちょっと痺れますね!
    お姉さんもかっこいいですね!

  • かっこいい!かっこいいですね!即興で音楽ができる方って尊敬します、才能に恵まれていて羨ましいです。身近にそんな方がいたら何かお願いしてみたい気がします。

  • 飛行機や密閉された場所でこの中にお医者様は…って話はよくありますが、ロックンローラーは初めてでした笑
    ゲリラライブの割に準備が…とは思いましたが、お姉さんの起点と経験でなんとかなったのかな?

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ