仮免サンタとリアリスト少女

武智城太郎

読切(脚本)

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武智城太郎

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〇イルミネーションのある通り
  クリスマス・イヴの夜──

〇古いアパート
  築五十年の木造アパート──

〇木造の一人部屋
  カリカリカリ──
薫「ええと、台形の面積を求める公式は──」
  薫(かおる)は、夜遅くまで熱心に勉強している。
薫「ふう・・・もう寝なくちゃいけない時間だけど」
薫「でもあと漢字の書き取りもしないと。まだ完璧には覚えられてないし」
  ガタンッ!
  アイタッ!!
薫「なに!? 玄関のほうだ・・・!」

〇安アパートの台所
薫「何事!?」
サンタコス女「アタタタタッ・・・!」
  玄関に、サンタコスチュームの見知らぬ女が転がっている。
  どうやらゴミ箱にけつまずいて、尻もちをついたらしい。
薫「ドロボー!!」
サンタコス女「ち、ちが・・・」
  バシ!! バシッ!!
  薫は護身用のハリセンで容赦なく女をしばき倒す。

〇古いアパートの部屋
  薫は、サンタコス女の手足を縄で縛りつける。
サンタコス女「ア、アワワ・・・」
薫「クリスマスにサンタの恰好したら怪しまれ ないと思った? 小賢しいわね」
サンタコス女「ちがいます! わたしはドロボーじゃありません!」
薫「え・・・?」
薫「もしかして、お酒を飲むお店に派遣される人? 繁華街だったら駅のむこう側よ」
サンタコス女「ちがいます。そういうコンパニオンでもありません」
サンタコス女「キョロキョロ。 あら? そういえば親御さんの姿が見えませんが・・・」
薫「父は夜勤で、母は法事で留守よ。だから戸締りはちゃんとしてたのに」
薫「そういえば、あんたどうやって忍び込んできたの?」
サンタコス女「そこはそれ、サンタですから。ドアの隙間からスルッと」
薫「人間にそんなことできるわけないでしょ! 妖怪じゃあるまいし」
サンタコス女「妖怪じゃありません! 見ての通りのサンタクロースです!」
薫「はあ? 子供だと思ってバカにして! 警察に通報を──」
サンタコス女「本当です! 正真正銘本物のサンタクロースなんです!」
  女は真剣な瞳で訴える。
薫(たしかに、嘘を言ってる目じゃないわ・・・!)
薫(警察より、頭の病院に連絡したほうがいいかしら?)
サンタコス女「そうそう、サンタの免許証を持ってますよ。 スカートのポケットに入ってます」
薫「いちおう、それっぽいけど・・・ 氏名は伊藤幸子、国籍は日本、年齢は27才。けっこういってるわね」
サンタコス女「ちゃんとサンタの学校で勉強したんですよ~。これで信じてもらえ──」
サンタコス女「え、もうこんな時間!  今夜中に子供たちにプレゼントを配らないといけないのに!」
サンタコス女「お願いします、縄をほどいてください! 全部で五軒もあるんです!」
薫「五軒だけなの? 少なすぎない?」
サンタコス女「実は今おこなってるのは最終試験で、これに合格したら正式なサンタクロースになれるんです」
薫「ほんとだ。よく見ると”免許証”の前に”仮”てついてる」
サンタコス女「あたし、昔からドジで不器用で何をやってもダメで・・・」
サンタコス女「それでも頑張って頑張って・・・ やっとあと少しで、小さい頃から憧れだったサンタさんになれそうなんです!」
薫「・・・・・・」
サンタコス女「だからお願いします! 早く縄を──」
薫「なんだかフワフワして子供っぽい夢ね」
薫「私はちゃんと勉強して安定した公務員になるつもりよ。貧乏なの嫌だし」
サンタコス女「薫さんは、若いのにしっかりしてますねえ~」
薫「もう五年生なんだからあたりまえよ。いつまでも子供じゃないんだし」
薫「ん、子供? もしかしてあんたって、私にもプレゼントを配りに来たの?」
サンタコス女「はい、もちろん! そこにちゃんとプレゼント用の靴下があるじゃないですか」
薫「あれはただのツリーの飾りよ。リクエストの手紙とか入れてないし」
サンタコス女「そんなのなくても子供たちの欲しいものはわかります。サンタですから!」
薫「じゃあ、あんた。私が欲しいプレゼントを持ってきてるっていうの?」
サンタコス女「はい、ここに!」
薫「それ? 盗品を入れてる袋かと思った」
薫「まあ、いいわ。もしほんとに私が欲しいものだったら、サンタと認めて解放してあげる」
サンタコス女「やった! そうか、はじめからこうすればよかったですね」
  女は縛られた後ろ手で、プレゼントの箱を取り出す。
サンタコス女「はい、どうぞ。メリークリスマス!!」
薫(私の希望は、パーフェクト出版の『小学ハイクラス全科目参考書セット』よ。当たってるわけがないわ)
サンタコス女「薫さんが、心の底からほんとうに欲しいプレゼントを用意しましたよ~」
薫「え・・・!?」
薫(まさか・・・ あの夢のことは誰にも言ったことないし)
  薫は、ドキドキしながら箱を開ける。
  入っていたのは参考書のセットではなく、漫画を描くためのツールセットだった。
薫(私がいちばん欲しかったものだ・・・!)
薫「でもこんなのもらっても・・・ 漫画家なんてなれっこないのに」
サンタコス女「やってみないとわかりませんよ。あたしでも、サンタクロースになれそうなんですから」
薫「う、うん・・・」
薫「あ、ありがとう。サンタさ──」
薫「あれ、こっちのは?」
サンタコス女「漫画のお手本もプレゼントします。薫さんが一番お好きな作品を」
  それはティーン向け恋愛マンガ『生徒会長は蜜の味』全巻セットだった。
サンタコス女「ちょっとHっぽいので内容をチェックしましたが、レイティングはギリギリOKです。さすが薫さんは大人っぽいですねえ」
薫「早く出ていって!  まだ配らなくちゃいけないんでしょ!」
  薫は、縄をほどいて解放してやる
サンタコス女「素敵なクリスマスになりますように!」
  そう言い残すと、女はガラリと窓を開けて部屋を出ていく。
  アイタッ!!
  ベランダの物干し竿に頭をぶつけたらしい。
薫「もう・・・あんな調子で大丈夫なのかしら」

〇宇宙空間
サンタコス女「良いお年を~!」

コメント

  • 大笑いしました!

  • 仮免のサンタさんが、その後本当のサンタクロースになれたのかが気になります。笑
    温かいお話でした。
    子どもが本当に欲しいものは、ちゃんとわかってるんですね。

  • 仮免許を受かるために必死だけど、なんだか子供に諭されてる気もしました笑
    どちらが年上なのか…。
    でも夢に向かうことは悪いことではないですよね!
    可能性を最初から潰してしまうことのほうが良くないのかもしれません!

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