第7話 「終わりと始まり」(脚本)
〇手術室
梅見清和「信じたくない」
K「信じられないなら、ちゃんと見てもいいよ」
K「私の宝物だから大事に触ってね」
Kが俺に向かってお守りを放り投げる。
梅見清和「普通に渡せばいいだろ」
K「近づかないほうがいいと思って」
梅見清和「・・・そうだったな」
梅見清和「・・・やっぱり葉月のお守りだ」
梅見清和「でも、俺が知ってるものより ずいぶん古びてる」
梅見清和「葉月のだけど、葉月のものじゃないな」
梅見清和「・・・本当に未来から来たっていうのか」
K「そうだって何回も言ってるのに」
K「言っておくけど、騙す理由はないからね」
梅見清和「もし・・・もしそれが本当なら、 君は俺の・・・」
K「おじいちゃんなんて呼ばないからね」
K「・・・ふふっ。冗談なんて聞きたい気分 じゃないか。ごめんね」
K「私は今も、葉月を助けたいと思ってる」
K「だから葉月を助け出せる 唯一の時間へ飛んだの」
K「それが、今」
梅見清和「・・・・・・」
K「私を信じて。一緒に葉月を助けてほしい」
梅見清和「タイムスリップができるくせに、 俺の力が必要なのか?」
梅見清和「君ひとりの力でどうにかすればいいだろ」
梅見清和「俺より君のほうがずっと 事情に詳しいんだから」
K「そういうわけにはいかないんだよね」
K「そこにある機械、私には触れないんだ」
並んだ手術台の一番奥に謎の機械がある。
かすかに音が聞こえることから、
今も稼働しているのがわかった。
K「それは蟲たちの成長を過剰に促すもの」
K「・・・なんだろう、電磁波とか そういうのを発生させる機械なの。 早く蟲を生ませるために」
K「ここにいる子たちは無理矢理 適合させられて、こうなっちゃった」
梅見清和「葉月がここに連れて来られた理由はそれか」
梅見清和「この機械を壊せばいいんだな?」
K「壊しちゃだめ。操作して」
K「胎内の蟲を殺すように、あなたが動かすの」
梅見清和「・・・君にはできないことなんだな」
K「ほかの時間軸でやってみようと したんだけど、だめだった」
K「本能が嫌がるみたい」
K「だからあなたが必要だった」
K「どんな手を使ってでも葉月を助け出してくれて、なにがあっても蟲を殺してくれる人」
梅見清和「・・・待ってくれ」
梅見清和「これを操作すれば蟲を殺せるなら・・・ 君はどうなるんだ」
K「・・・・・・」
梅見清和「葉月が君を生むんだよな」
梅見清和「じゃあ、ここで葉月が無事に 元の身体に戻ったら・・・」
K「私の自我はもうすぐ失くなるんだ。 だからその前に葉月を助けて、 私自身を失くしたかった」
K「・・・私からのお願いはひとつだけ」
K「お母さんを、助けて」
梅見清和「・・・っ」
梅見清和「結局、君は俺の質問に 答えてくれないんだな・・・」
梅見清和「・・・わかったよ。君が望むようにする」
梅見清和「本当はまだ、 Kの言うことを半分も信じられない」
葉月を手術台に横たわらせ、
謎の機械に近づく。
梅見清和「馬鹿馬鹿しいよな」
梅見清和「俺を騙して、これを使わせようと してるかもしれないのに」
梅見清和「だけど・・・」
K「葉月が死ぬって嘘を吐いて・・・ ごめんなさい」
K「そうでも言わないと、 動いてくれないと思ったから・・・」
梅見清和「・・・なにもしなければ 本当にそうなってたんだろ」
梅見清和「じゃあ、なにも嘘を吐いてないじゃないか」
梅見清和「もう、疑えないよ」
K「・・・あ、待って」
梅見清和「まだなにかあるのか?」
K「もう一個だけお願い・・・だめ?」
梅見清和「・・・なんだ?」
K「葉月を抱き締めていい?」
梅見清和「・・・ああ、いいよ」
K「ごめんね。近づいてほしくないのは わかってるんだけど・・・」
手術台の上で横たわる葉月のもとに、
Kが恐る恐る近づいた。
そして・・・。
・・・ギュッ
K「ごめんね・・・お母さん」
K「生まれてごめんね」
K「ずっと抱き締めてほしかったの・・・」
梅見清和「・・・もう少しだけこうさせてやりたい」
梅見清和「でもK自身がそれを望まないだろう」
梅見清和「・・・K、機械を動かすよ」
K「うん」
ピッ
ピピッ
・・・ピーッ
梅見葉月「・・・ぅえっ!」
ビシャッ!
突然えずいた葉月が、
床に向かって吐き出す。
吐しゃ物の中にはミミズに似た
気味の悪い蟲の姿があった。
梅見葉月「う、ぐっ・・・うえっ・・・うっ・・・」
K「ごめんね、もうちょっとだから」
梅見葉月「ううっ・・・」
梅見清和「・・・! K、身体が!」
K「・・・へえ、過去を変えると こうやって消えることになるんだ」
Kの身体を通して、
向こう側が透けて見える。
床に落ちた蟲の動きが緩慢になると、
比例してKも透き通っていった。
梅見清和「やっぱりそうなるんだな」
梅見清和「葉月が死ななければKは生まれない・・・」
梅見清和「K」
K「なに?」
梅見清和「その・・・疑って悪かった」
梅見清和「ひどいことも言った。本当にごめん」
K「・・・律儀だなあ」
梅見清和「葉月を助けに来てくれてありがとう」
K「・・・うん」
K「あっ、やっぱりもう一個 お願いしたいことあった」
梅見清和「うん?」
K「いつか孫ができたら、 その子をぎゅってしてあげて」
梅見清和「・・・・・・」
K「約束だよ」
K「――おじいちゃん」
梅見清和「K・・・!」
スッ・・・
Kの姿がその場から完全に消え去る。
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Super!
ハラハラさせられました。
お守りはどうなったのか気になりましたね。