平川探偵事務所 ミステリー・ファイルvol.1『逆さま少女と人形使い』

貴島璃世@りせチャンネル

地下鉄の亡霊(脚本)

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〇黒

〇ファミリーレストランの店内
  都内の、とあるファミレスの店内にて。
斉木佳乃「それで・・・変だ、おかしいって思ったのは、会社の同僚と雑談をしている時でした」
斉木佳乃「・・・」
斉木佳乃「ええと・・・」
斉木佳乃「あのう・・・」
「続けてください」
斉木佳乃「えっ」
「えっ?」
斉木佳乃「あのう。平川さん」
斉木佳乃「やっぱりここでお話しするのはちょっと・・・」
「えっ!?」
斉木佳乃「あの。やっぱり事務所の方が・・・話しやすいっていうか」
斉木佳乃「気が散ってしまって、落ち着かないんです」
「・・・」
斉木佳乃「すみません 勝手なことを言って」
「いや 構いませんよ」
  勝手なことを言う依頼人だ。
  俺の姿を一目見た途端に、怯えた顔で「他の場所がいい」って言うもんだから、近所にあるファミレスに連れて来たのに。
  まあ無理もないか。
平川(相手がこんなガタイのオッサンじゃあな)
平川(若い女が俺の事務所で二人きりになるのを躊躇するのもわからなくもない)
平川「じゃあ、戻りましょうか」
斉木佳乃「は、はい」

〇黒

〇応接室
  俺の事務所にて
平川「どうぞ。そんなに固くならずに」
斉木佳乃「あ、はい」
平川「お茶ぐらいしか無いけど、飲みます?」
斉木佳乃「いいえ。結構です」
平川「そうですか」
平川「ええと。どこまで聞きましたっけ」
斉木佳乃「会社の同僚に、人形の話をしたところまでです」
平川「ああ、そうだった 続けてください」
斉木佳乃「その同僚には、わたしが毎日のように見ているあの人形が見えていない」
斉木佳乃「そんな変な人形なんて見たことがないって言うんです」
平川「なるほど」
  依頼人は宅配会社の事務をしているという
  警察に相談に行ったが相手にされず、心療内科に行けなどと失礼な態度で追い払われてしまった。
  誰に相談したらいいのかわからずに困っていたある日、何気なく見たネット掲示板で、奇怪な体験を取集しているサイトを発見した。
  もしかしたら助けてくれるかもしれない。そう思った依頼人は、藁にもすがる気持ちで自分の体験を綴ったメールを送った。
  怪談サイトの管理人である"先生"がそのメールを読み、ここを紹介したというわけだ。
平川「今日は先約があってね。まずそっちを片付けないといかん」
平川「だから明日の午後、客を装ってきみの会社へ、その人形とやらを見に行くよ」
斉木佳乃「私の話を信じてくれるんですね! ありがとうございます!」
平川「ああ。"先生"からの紹介だからな」
  急に軽い耳鳴りがした。左手が疼くような感触・・・しかしすぐに消えた。少し疲れが溜まっているらしい。

〇応接室
  依頼人の斉木佳乃が帰ったあと、"先生"宛に、いつものようにメールを送る。
  彼女がどんな相談をしたのか、内容を知りたかったからだ。
  同じ相談事でも、話す場合と文章にする場合とでは、比べてみると細かな部分で違っていたり欠けているなんてよくあることだ。
  本人から聞いたこと以外にも、何か手がかりが見つかるかもしれない。
平川("先生"からの返事を待つあいだに、先に用事を片付けることにするか)
  左手の手袋の具合を確かめながら、事務所の窓から外の様子を窺う。

〇寂れた雑居ビル
  通りを行くまばらな人影は、傘を差している方が多かった。雨はまだ止んでいないようだ。

〇応接室
  壁に掛けてあったレインコートに袖を通し、俺は事務所を後にした。

〇商店街
  夜になると活気づくこの辺りも、昼間のこの時間はくたびれた飲み屋が並んでいるだけの薄汚れた街だ。
  下ろされたシャッターと積み上がったビールの空き箱。ところどころにできた水溜り。その表面には薄っすら油膜が張っている。

〇ビルの裏
  水溜りを避けつつ、俺は地下鉄の駅に向かった。

〇地下に続く階段
  狭くて急な階段を降りると風が途絶えた。

〇改札口
  ひとけのない改札を通過し、薄暗い通路をホームへ向かう。

〇地下鉄のホーム
  ・・・妙なやつがふらふらしているのが見えた。
  薄らぼんやりしたシルエットは、かろうじて人の形をしている。
  今日のように冷たい雨が降る日には、こんな、空気が淀んだ場所によく現れる。
  ソレの近くには、若いカップルが電車を待っていたが、男も女も、どちらも気づいていないようだ。
  そんなものの存在など気付かない方が毎日を平穏に過ごせるだろう。

〇地下鉄のホーム
  ソレに近寄る前に、左手の手袋を脱ぎ捨てた。軽く気を込める。
  歩みはそのまま、開いた左手をすれ違いざまにそれに押し当てた。

〇地下鉄のホーム
  カップルの女の方が、ハッとしたように振り向いた。しかしその前に、ソレは跡形もなく消え失せた。
ルイ(・・・なんだろう 気にせいかしら)
  女と目が合ったが、俺は知らん顔をする。
彼氏「どうしたルイ」
ルイ「えっ?」
彼氏「・・・?」
ルイ「ううん なんでもないよ」
  男より女の方が感受性が強い。無論、個人差はあるが。
  この女は、普通の人間なら聞こえないはずの音が聞こえた。だから振り向いたのだ。
  そこへ電車が到着した。カップルの後ろから、俺は電車に乗り込んだ。

〇電車の中
  つり革に掴まり、モニターに流れる映像を何となく眺める。車内広告がこんなスタイルになったのはいつからだろうか。
  少なくとも俺は、ずらっと並んだポスター広告の雑多な感じの方が好きだ。
  そのモニターに急にノイズが・・・

〇電車の中
平川(うっ?)
  左手がズキッとうずいた。
  電車の混み具合は五割ほど。特に怪しいものは・・・
平川「うおっ!?」
  床から青白い手が生えている。その手に足を掴まれた。
平川「フッ」
  靴紐を直す振りでしゃがみ、左手で軽く払う。
  すると、亡霊の手はすぐに形が崩れ、消えた。
平川(雑魚が)
  しかし・・・
平川「おおっ!?」
平川(増えやがったぜ)
  急に、そこいら中に青白い手が生えた。力なくゆらゆら揺れている。
  今日はなぜかやけに多い。いくらこいつらが溜まりやすい地下鉄であっても、いつもはこれほど酷くはない。
平川(めんどくせえな・・・)
  乗客たちはまだ気づいた様子はない。
  しかし、いずれ異変を感じる者が出るだろう。その証拠に・・・
ルイ「ん?」
  さっきのカップルの女が、奇妙な表情でこちらを見ていた。
  見えなくても、何かを感じているようだ。
平川(ああ、そうか。こいつらは俺に引き寄せられているんだ。俺の左手に・・・)
  左手を前に。指を広げて胸の前に突き出し、軽く気を込める。
平川「・・・・・・」
  周囲の瘴気がザワッと揺らいだ。亡霊の手がわらわらと近づいてくる。
  俺の左手には、魔を祓う効果と引き寄せて吸収する作用の二面性がある。
  数の多い雑魚をいちいち相手にするのは効率が悪いから、俺は自分を餌にすることにしたのだ。
  死人の手は俺の足元に群がり、やがて這い登ってきた。
  ザワザワ・・・可聴域を超えて何かが聞こえる気がする。
  車両中のそいつらが俺の体に登り切ったのを確認し、腰の辺りでひとかたまりになって蠢いているそれに、左手を突っ込んだ。
平川「ふんっ!」
  空気が「キン」と鳴った。
  何人かの女が振り向き、カップルの女の背中がビクッと硬直した。
ルイ「えっ! なに今の!?」
ルイ(あれ?)
ルイ(・・・)

〇電車の中
  それからは、降りる駅に到着するまで何も起きなかった。
  地下鉄の怪異に気づいたのは、ただひとり。
  その女の視線をずうっと感じながら、俺は列車を降りた。

〇地下鉄のホーム
平川「うっ!?」
  いきなり、後ろから首を絞められた。
  息が止まった。
  すごい力だ。
平川「く・・・」
  俺の背中に誰かがくっついている。くっついて首を絞めている。
平川「がっ・・・」
  左手をそいつの脇腹に当て、気を込めた。
「うっ!」
  背後でうめき声が上がり、俺の首を絞めていた手が離れた。
平川「きみは・・・」
ルイ「あれ!? わたし・・・」
平川「大丈夫か?」
ルイ「えっ?」
彼氏「ルイ、どうした!?」
彼氏「おい、オッサン 彼女に何をしたんだよ!!」
平川「おまえの彼女は具合が悪いらしい」
彼氏「えっ!?」
平川「介抱してやれ」
平川(まったく、めんどくせえ)
彼氏「お、おい!! ちょっと待てよ!!」
  呼び止める声に耳を貸さず、俺はその場を立ち去る。

コメント

  • 想夏さんの作品はどれも独特の雰囲気と世界観があり、思わず見入ってしまいます。凝った絵作りも好みです。依頼人にしか見えない人形の話の続きが早く知りたいです。

  • スチルすっごくイイですね!

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