ホスピスの女(脚本)
〇病室のベッド
亀井「今日は顔色がいいじゃない」
私「ふふ、そうかい?」
私「ま、もうすぐ死ぬんだがね」
亀井「そうだったわね」
癌で余命宣告された私は
緩和ケア病棟で思わぬ再開を果たした
ホスピスの女
亀井「昨日は懐かしい夢を見たわ」
私「どんな?」
亀井「高校の修学旅行のときの夢」
私「私が君に告って振られた旅行、ね」
私「あれから50年以上も経つんだなあ」
亀井「鈴木先輩と付き合う前だったらね・・・」
私「ほんとにぃ?」
亀井「先輩とは卒業してすぐに別れちゃったの」
私「そうだったんだ」
亀井「その後に付き合ったのが主人だったけど」
亀井「結局離婚しちゃった」
私「そっか・・・」
私「見舞客が来てないようだったけど 事情なんて聞けないからさ」
私「気になってたんだ」
亀井「佐藤くんはどうしてたの?」
私「私も職場の後輩と結婚したけど 子どもができる前に離婚してしまったよ」
私「だから 見舞いに来てくれる人もいないのさ」
亀井「私も一人で死んでいくのかと思ってたけど」
亀井「知ってる人がいて気が楽になったの」
亀井「人生の最期に 神様が気を利かせてくれたのかしら」
私「気を利かせてくれるなら」
私「癌になったり 離婚しない人生が欲しかったな」
亀井「それはそうね」
亀井「もしも・・・ 佐藤くんと付き合ってたら」
亀井「もうちょっと違う人生だったかしら」
私「さあ・・・ね」
私「それはなんとも言えないけれど」
亀井「私ももう長くないけど 最期に佐藤くんに会えて本当によかった」
私「そう言ってもらえるのは 素直に嬉しいよ」
私「私は君に会いたいような・・・」
私「会いたくないような・・・ 複雑な気持ちだったけど」
私「最期に・・・・・・」
医師「2080年1月30日」
医師「13時29分、心停止・・・と」
看護師「佐藤さんが最期に願ったのは 別れた奥さんじゃなくて」
看護師「学生時代の片思いの相手との再開か・・・」
医師「離婚した相手との思い出よりは」
医師「昔の思い出のほうが美しいんじゃない?」
医師「亀井さん、終了させて」
看護師「仮名だから亀井なんて安直ですよね」
医師「終末期の患者さんの思い出の人の 今の名字なんて分からないからね」
看護師「しかもモデリングも一種類だけだし」
医師「どうせ痛み止めでせん妄状態だし・・・ 細かいところは気が付かないのよ」
医師「佐藤さんは認知症の症状も出ていたから なおさらね」
看護師「死の苦痛を緩和するためとはいえ」
看護師「夢をモニタリングしながら 電気信号と薬物の力で展開を弄るのは」
看護師「騙してるみたいで気が引けます」
医師「私が同じ状況なら・・・騙してほしいかな」
看護師「私なら・・・ そこまでしてほしくはないかなぁ」
医師「長く生きてるとね、色々あるのよ」
看護師「コールが!」
医師「すぐ行ってあげて!」
看護師「はい!」
医師「・・・・・・」
医師「気づいてもらえなかったのは寂しいけど」
医師「会えて嬉しかったよ、佐藤くん」
END
いやぁ、いいですねぇ!😆 亀井さんのSF展開から考えさせるような問答、そしてまさかのオチ……盛りだくさんなのに無理なく綺麗に一本にまとまっていて、読後感もとても素敵でした✨
とても完成度高い一本で、うならされました!😆
最後の最後のラストになんか感動してしまいました✨長く生きてると色々ある、かぁ。深いです…
こんな未来が来るかもしれないと思わせるような設定も、切ないラストも素敵で…。ワンシーンにぎゅっと魅力が込められた作品でした。こういうの好きです!
2段オチ、驚かされました! この先、本当にありえそうな世界観も好きですね^^