凱旋の前日

星夜燈凛

凱旋の前日(脚本)

凱旋の前日

星夜燈凛

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凱旋の前日
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〇宇宙空間
サンド「なぁなぁ、アーサー。お前この前黒髪の美人と一緒に歩いてただろ?!」
アーサー「え?」
サンド「恋人かぁ?羨ましいぜ」
アーサー「あはは・・・・・・」
  言えない。
サンド「まぁ、とにかくもうすぐ魔王戦だ。 あの悪魔に勝って、さっさと結婚でもなんでもしてしまえってんだっ!ははははっ!」
  言えない・・・・・・
アーサー「ちょっと、痛いって。肩叩くなよっ!」
サンド「しかし、魔王ディアドラも酷いことをするよなぁ。 農夫の羊を皆殺しにするなんて・・・・・・ 残忍な噂の絶えないやつだ」
  言えるわけがない。
  その魔王が俺の恋人なんて。
サンド「待ってろよ、俺が魔王ディアドラを   コテンパンにやっつけてるからなっ!」
  絶対にいえない!
  君がコテンパンにしようとしている相手は
  俺の彼女なんだよぉおおおお!!

〇けもの道
ディアドラ「アーサー!」
アーサー「ディア!」
ディアドラ「抜け出してきてくれたの?嬉しい」
ディアドラ「でも、大切な日の前にいいの? 敵の前にのこのこと現れるなんて」
アーサー「ディア。君は敵である前に私が世界で最も愛する人だ。寂しいこと言わないでくれ」
ディアドラ「うふふ・・・・・・そうね」
ディアドラ「でも、その愛が偽りだったとしたらどうする?」
アーサー「え?どういうことだい?」
ディアドラ「私はあなたの敵。人間の敵。 私の意思とは関係なく存在するだけで 魔物を生み出してしまう」
ディアドラ「でも、全てが私が生き延びて この世界を支配するためだったとしたら? そのために 便宜をはかれるあなたに近づいたとしたら?」
ディアドラ「私は今、この場で、帝国で一番強いあなたを殺すことだって出来るのよ?」
アーサー「君はそんなことしないよ。 俺が一番よく分かってる」
ディアドラ「少しも疑わないのね」
アーサー「あぁ。 今更そんなこと言われたって俺は信じない。 今までこの目で見てきたんだ」
アーサー「魔物に襲われて被害にあった人を前に 涙を流す優しい君を。 魔物を生み出す力を制御出来るよう 努力してきた君を」
アーサー「そして、僕の一挙手一投足に 一喜一憂する可愛い君を。 その全てが嘘だと俺は信じない」
ディアドラ「あなたには敵わないわ」
ディアドラ「なら、私を殺して」
アーサー「な、なにを・・・・・・」
ディアドラ「本当はあなたに心置きなく 悪の魔王を討ち滅ぼして欲しかった」
ディアドラ「でも、それが無理なら 誰かの手にかかるより あなたに殺された方がマシだわ」
アーサー「やめてくれっ」
ディアドラ「さぁ、早く殺して頂戴。 あなたのその勇者の剣で」
アーサー「嫌だ、やめてくれ。 なぁ、ディア。一緒に逃げよう? 誰も想像のつかないどこか遠いところへ」
ディアドラ「・・・・・・出来ないわ。 私は最後まで自分の力を制御することが出来なかった。もう、誰も傷つけたくないの」
アーサー「ディア!嫌だ、嫌だ、嫌だ! 君が死ぬなら、俺も死ぬ。 君のいない世界で生きている意味などないのだから」
ディアドラ「生きる意味ね・・・・・・」
ディアドラ「ねぇ、アーサー抱いてくれない? 強く強く、永遠にこの繋がりが消えないくらいに」
アーサー「ディア・・・・・・」
アーサー「あぁ、何度だってそうしてやる。 ディア、こっちにおいで」
  その夜、二人は何度も求め合い慰めあった。
  この世界には二人きりとでもいうように、
  この世界の闇に溶けてしまうくらいに
  そして、答えの見えない許されざる恋が、
  終わりを告げる朝を迎えた。

〇要塞の廊下
  精鋭部隊を指揮し、
  騎士団が魔物と戦っている間に、
  俺達は魔王の部屋の前にたどり着いた。
アーサー「みんな。提案がある。 すまないが、この先 一人で行かせてくれないか」
アリア「ちょっと何言ってんのよ! 手柄を独り占めしようって訳? 信じられないんですけどぉ!」
シーフ「魔王は相当強いんだろ? 一人で行ったって勝ち目はないって」
アリア「そうよ、そうよぉ!」
サンド「待ってくれ」
アリア「サンド!?」
サンド「みんな、アーサーがここまで言うのも珍しい。何か事情があるんだろう。 行かせてやろう」
サンド「ただし、待てるのは30分までだ。 それ以上かかるようなら、俺達も突入する。いいな?」
アーサー「恩に着る、友よ」

〇謁見の間
  仲間と別れ部屋に入ると、魔王の椅子に向かう階段でディアが笑っていた。
ディアドラ「いらっしゃい。待ってたわ、勇者様。 さぁ、殺して頂戴」
アーサー「ディア・・・・・・すまない。 俺の全魔力をもって君を封印する。 この魔法陣の中に入ってくれ」
ディアドラ「わかったわ」
アーサー「ディア、君と過ごした日々は忘れない。 この封印の中で共に眠ろう」
  眩い光が二人を包む。古の封印魔法。
  許されざる恋ならば、せめて俺は君と共にありたい。
アーサー「愛してる、ディア」
ディアドラ「えぇ、私もよ」
ディアドラ「・・・・・・だからごめんなさい!」
  その瞬間、ディアが物凄い力で俺を魔法陣の外に弾き出す。
アーサー「ディア!嫌だ!ディア! 待ってくれ!ディア!」
  『生きて』そう動いた唇と共に
  ディアは長い眠りについた。
アーサー「あぁ・・・・・・うぅ・・・・・・ふっ」
  その場に泣き崩れた俺の耳朶に
  どこからか赤子の泣く声が聞こえてきた。
  まさかと思い、顔をあげると
  魔王の椅子に赤子がいた。
  赤子に近づいた瞬間、
  俺の脳に直接声が響く。
ディアドラ「アーサー。あなたと私の子です。 どうか、人として生きていけるように 助けてあげてください」
アーサー「ディア・・・・・・」
  赤子はディアの美しい黒髪をついで
  目元は自分にそっくりだった。
アーサー「あぁ・・・・・・あぁ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
  魔王は永遠の眠りについた。
  英雄アーサーに生きる意味を残して。
  この物語は帝国の英雄アーサーの
  知られざる真実の物語である。

コメント

  • 切ない中にも希望があって、素敵なお話だなぁと思いました。
    魔王は二人の子どもに希望を託したんですよね。
    だから勇者を魔法陣から出したんだなと。
    でも、二人の別れは悲しかったです。

  • 物語設定がとても濃密で、短編にもかかわらず充実感がある作品ですね。もっと長い作品からコア部分を抽出したのかなと妄想してます。勇者と魔王双方のセリフが情感いっぱいで心を打たれました。

  • 2人の台詞が生き生きしていて、読んでいて楽しかったです。全然ギリギリで完成なさったと思えないほど躍動感がありました。2人の子どもの背負うものもまた大きいですね…。これは長いお話の始まりでもある、という感じで面白かったです。

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