はぐくみっ(脚本)
〇ラブホテルの部屋
かつひこ(思いっきり二日酔いだ・・・)
かつひこ(9時半、か)
かつひこ(完全に寝坊しちゃったな)
かつひこ(急いで行けば、午前中の会議には間に合うと思うけど──)
かつひこ(いや、もう今日は休もう・・・)
かつひこ(土日も無く、いつも身を粉にして会社に尽くしているんだ)
かつひこ(今日一日くらいなんとか大目にみてもらえるさ)
昨晩、俺はなつきから半ば強引に呼び出された
というのも、昨日は付き合い始めて3年目の記念日だった
仕事にかまけてその事をすっかり忘れていた俺が悪いのはそうなんだが
それにしても、会食の場は大荒れに荒れた
フォークで目ん玉くり抜かれるかと思ったぜ・・・
荒れ狂う邪神・・・否、彼女をなだめ、飯、酒、供物(プレゼント)を与え
なんとか、うやむやの内にホテルに行くまでこぎつけて、寝かしつけた
かつひこ「はぁ・・・とんだ災難だったぜ」
かつひこ(昨日、コンビニで買ったバナナでも食うか・・・)
かつひこ「もぐもぐ・・・美味いな、これ」
なつき「オハヨ~」
なつき「ん?」
なつき「ふふww」
かつひこ「──?」
かつひこ「何だよ?」
なつき「あはは!だって──」
なつき「裸でバナナ食べてて、なんだかゴリラみたいなんだもんww」
なつき「おっさん臭っww」
かつひこ「──」
かつひこ「何言ってんだよ、君だってすっぴんだしww」
かつひこ「眉毛も無くなってるし、寝癖だってひどいもんだよ」
なつき「・・・」
なつき「やっぱりあなたって格好悪い」
かつひこ「君だってぶさいくだよ」
かつひこ「まるで詐欺だよな、メイクのビフォーアフターで変わり過ぎんだろ」
なつき「・・・」
なつき「あなたって付き合い始めた頃よりお腹もプヨプヨしてきたし」
なつき「髪の毛もだいぶ薄くなったし」
なつき「いつも仕事で会えないって言うけど」
なつき「付き合う前はそんな事なかったよね?」
なつき「むしろ、そっちからの誘いの方が多かったよね」
なつき「何?釣った魚には餌やらないって感じ?」
なつき「大体、そんなに働いてるのに、なんでいまだに貧乏なワケ?」
なつき「ほんっと、成長しないなぁ~、もう」
かつひこ「──」
かつひこ「ハハッww」
かつひこ「何言ってんの?」
かつひこ「その歳で親のすねかじりのニートやってる君に成長うんぬん言われたくないね」
かつひこ「我侭なお嬢様気質ですぐに暴力に訴えるし、子供なのは君の方だろ?」
かつひこ「君だって、付き合い始めた頃はビール1杯で「酔っちゃった~」って、可愛かったのにさ」
かつひこ「今じゃザルだよね」
かつひこ「タバコも覚えて、ビッチ感ハンパねえし」
かつひこ「猫かぶってたんだww」
まただ
また、こんな調子で
凝りもせず同じ事を繰り返してしまう
もうお互いに
本当に・・・
知り過ぎて
なつき「・・・」
なつき「そうよ」
なつき「私はぶさいくだよ」
なつき「外見も中身もとってもとっても不細工だよ」
俺だって──
なつき「でも──」
なつき「これが私の本当の姿なの」
そして、彼女は本当に
本当に優しい笑顔で言ったんだ
なつき「だからね──」
なつき「だから、もうあなたに隠す事なんて何も無いのよ」
かつひこ「──分かってるよ」
─ 終劇 ─
不満や意見を腹に溜めない、全てを曝け出せる、そういった関係性って長続きしますよね。…なるまでが大変ですけどw この2人、この調子で数十年後も言い合いしてるのでしょうねw
かつて「3年目の浮気」という歌謡曲がヒットしたのも納得のお話ですね。文字通り身も蓋も無いやりとりを繰り返す仲になってからが男女の本当の勝負なんでしょうけれど、さて、かつひことなつきはどうなるんでしょうね。