無欲なキミに貪欲なカレ

鳥飼

【第2話】腹ペコ少年を保護しました。(脚本)

無欲なキミに貪欲なカレ

鳥飼

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〇ダイニング(食事なし)
少年「──・・・んぁ?」
ナナオ「目覚めた?気分はどう?」
少年「お、オマエ・・・ここはどこだ!?」
ナナオ「ここは私の家よ。私はナナオ。 ──君の名前は?」
少年「・・・ヒューゴ」
ナナオ「ヒューゴ君ね! じゃあ、ちょっと待ってて!」
ナナオ「ヒューゴ君! ご飯好き嫌いある?アレルギーとかは?」
ヒューゴ「あのさ、普通・・・ワケわかんねえヤツを 家に入れるか?」
ナナオ「──じゃあ、聞くけど」
ナナオ「目の前でお腹空いたって倒れてる子供を 普通、置き去りに出来ると思う?」
ヒューゴ「子供って・・・俺は──!」
ナナオ「まあ。助けた小鳥が人間でしたって いうのは考えると頭痛くなるから 置いておいて──」
ナナオ「とりあえずご飯にしましょう!」
ヒューゴ「・・・オマエ、変わってるな」
ナナオ「よく言われるよ!」
ナナオ「あ、昨日の残りとかも出してみたんだけど 食べられそうなのある?」
ヒューゴ「食えなくはねえけど──」
ヒューゴ「オマエ!叶えてやるから 何か願いごと言え!」
ナナオ「・・・え?君は鶴の恩返しとかなの?」
ナナオ「あ、新興宗教とかもうちはお断りだよ」
ヒューゴ「そんなんじゃねぇ!俺はニンゲンの 願望を喰う魔族なんだよ!」
ナナオ「へー。ファンタジーだねー」
ナナオ「あ、私お腹空いちゃったから 先にご飯いただくね!」
ヒューゴ「なあ、オマエさ。あんなに大騒ぎしてた くせに色々と順応しすぎじゃねえか?」
ナナオ「それもよく言われる」
ナナオ「うちさ、おばあちゃんがとんでもない 世話焼きさんだったの!」
ナナオ「本当にいろんな人と出会ってきたから 何かもう色々あるのかなってね」
ヒューゴ「・・・そ、そうなのか」
ナナオ「うん。自宅がカーニバルになったり、 魔女みたいな集会になっちゃったりね」
ナナオ「おばあちゃんったら、交流の幅が とっても広かったんだー!」
ヒューゴ「垣根のないニンゲンがいるとは 聞いてるけどな・・・」
ヒューゴ「何かオマエもちょっと 毛色が違う気がしてきたぞ?」
ナナオ「まあ、色々あるよ。うん!」
ヒューゴ「・・・・・・」
ナナオ「・・・ご飯、食べないの?」
ヒューゴ「だから、オマエが願いごとを言えば それが俺のメシになるんだけど・・・」
ナナオ「うーん。私、基本的に 自分の願いごとないしなあー」
ヒューゴ「ほら、身長高くなりてえとか 体重軽くしてえとか、 そういうプチ願望でもいいんだぞ?」
ナナオ「そういう希望もないワケじゃないけど 自分の努力でどうにでもなるじゃない」
ナナオ「どうしても出来ないっていうのは 実はそこまでの願いじゃないとかなのよ」
ヒューゴ「大人しそうな顔して達観してるな オマエ・・・」
ナナオ「よくババくさいとかも言われる」
ヒューゴ「じゃあ!若返りとか! 思考のギャル化とかどうだ!?」
ナナオ「ははは。必死だ!」
ヒューゴ「・・・何かムカつくな」
ヒューゴ「決めた、俺は絶対にオマエから 極上の願い種を採取してやる!」
ナナオ「君のご飯って「願いの種」っていうんだ。魔族とか言ってるけど絵本みたいな お話だね」
ヒューゴ「ば、バカにすんな!」
ヒューゴ「俺はオマエの願望でデッカイ花咲かせて あいつらを見返してやるんだからな!!」
ナナオ「・・・あいつら?」
ヒューゴ「あああ!なんでもねえ! マジで何か願いごとねえのかよっ!」
ナナオ「そうね・・・。 じゃあ、こういうのはどうかな?」
ヒューゴ「おう!何でも言ってみろ!」
ナナオ「ヒューゴ君がとりあえずここにあるご飯 食べてくれたらいいなあ」
ヒューゴ「それは、ちょっと違うだろ!?」
ナナオ「だって私個人の願いごとなんてないし」
ナナオ「大好物じゃないにしろ、 腹ペコの君がご飯を食べてくれたら 私は安心出来るんだけどな~」
ヒューゴ「・・・わ、わかった」
ナナオ「はい。お箸使える?」
ヒューゴ「お、おう・・・」
  自称魔族の男の子は
  上手に箸も使えるようだ。
ナナオ(うん、現実感ないわー)
ナナオ「美味しい?」
ヒューゴ「・・・まあまあ、だな」
ナナオ「そっか」
ヒューゴ「あっ!!」
ナナオ「うん・・・?何これ?」
  私の頭からコロンと小さな玉のような
  ものが飛び出してきた。
ヒューゴ「・・・それが「願いの種」だ」
ナナオ「種というよりもアメ玉みたいな感じだね じゃあ、デザートで食べてね」
ヒューゴ「・・・おう、そうする」
  私はテーブルの脇に小皿を置いて
  その中に種をのせた。

〇川沿いの道
ナナオ「ねえ。本当に大丈夫なの? 家出してるとかじゃないんだよね?」
ヒューゴ「うるせぇなあ・・・! オマエは俺の姉貴かよ!」
ナナオ「でも、お腹空かせてるくらいだし・・・ お家に帰れてないんでしょ?」
ヒューゴ「──家出じゃねぇ!修行中だっ!」
ヒューゴ「俺はオマエをターゲットにしたんだから! これからはちゃんと自分の願いごと 考えておけよ!」
ナナオ「そっか。じゃあ、また遊びにおいでね~」
ヒューゴ(こいつ、あんまり人の話きかねぇな・・・)
ナナオ「あ、お土産にしたデザートも ちゃんと食べるんだよー?」
ヒューゴ「言われなくたって食うから安心しろ! ・・・じゃあな!」
ナナオ「うん。気をつけてねー!」

〇川沿いの道
ナナオ(──おばあちゃん。 本当、人生っていろんなことが 起こるんだね。びっくりだよ)
  ヒューゴ君が消えた夜空を見上げる。
  小鳥になれるくらいだから
  空も飛べるのねーなんて思ってしまった。

〇SHIBUYA SKY
ヒューゴ「なんだよ。こんなの小さすぎだろ・・・」
  袋から出した種を彼はつまみ上げ、
  月にかざしてから口に放り投げた。
ヒューゴ「・・・・・・」
ヒューゴ「・・・うめぇな」
  貪欲なニンゲンの種は舌触りが悪くて
  とても味が濃いと聞く。
ヒューゴ(・・・もう無くなっちまった)
  ──美味しいと思った瞬間に
  それは溶けて消えていってしまった。
ヒューゴ「──アイツの本気の願いだったら、 どんな味がするんだろうな・・・」
  少量の種でも腹が満たされた彼は
  上機嫌で夜空に向かって羽ばたいて
  いくのだった。

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