もう死んでいるだけの男、まだ生きているだけの女

濱村梵

読切(脚本)

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濱村梵

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〇学校の屋上
  屋上にて、1人の少年が身体を震わせ、嫌味なほど澄んだ青空を睨みつける
  眼下では体育の時間だろうか、生徒たちが運動に励んでいる
少年A「これであいつらに復讐できる・・・」
  少年は懐に遺書を忍ばせると、意を決しフェンスに手を掛けた
  すると──
「もしかして、自殺志願者の人?」
  少年Aは驚き、後ろを振り返る
少年B「痛いし、やめた方が良いんじゃない?」
少年A「お前には、関係ないだろ!」
少年A「俺はあいつらに人生をめちゃくちゃにされて!」
少年A「この先、生きてたって何も良いことなんて無いんだよ!」
少年B「ふーん・・・」
少年B「けど、あんまりおススメしないよ?」
少年A「そんなこと言われたって俺は・・・」
少年B「ね、これ見て」
  少年Bがそう言った瞬間―ー
少年A「ひっ!?」
  少年Bの制服は鮮血に包まれ、四肢は悲惨に折れ曲がっている
少年B「人間、けっこう頑丈にできててね」
少年B「簡単に死ねないんだよ。これが」
少年B「意識も中々飛ばなくてさあ」
少年B「地面にのたうちまわって『助けて、助けて』って」
少年B「はは、助けを呼ぶくらいなら飛ぶなって話だよね」
少年A「うっ・・・」
少年A「うわあああぁっ!!!?」
少年B「だから死ぬなら練炭自殺とかの方がおすすめ・・・ってあれ?」
  少年は怯えて走り去っていく
吉田「ちょっと、別の死に方を薦めないでよ」
少年B「ああ、吉田先生」
少年B「見てたなら入ってくればいいのに」
  吉田と呼ばれた教師は少年の隣に座り込み、袋から総菜パンを取り出す
吉田「先生が幽霊と顔見知りなんて、話がこじれるじゃない」
少年B「・・・先生も変な人だよね。幽霊と一緒に食事したいなんて」
  吉田は小さくため息をつく
吉田「職員室にいると息が詰まるからね」
吉田「青空の下、誰かとコミュニケーションを取りたくなるの」
吉田「それがたとえ幽霊相手でも、ね」
少年B「はは、苦労してるんだね」
吉田「ん、それにしても意外」
吉田「あなたが人助けなんて」
少年B「まあ気まぐれもあるけど」
少年B「死のうとしてる人を引き留めたら、徳が積めてすっきり成仏できたりしないかなって」
吉田「成仏?」
少年B「そう、ここに留まるのもいい加減飽きたし」
吉田「ふーん、ちなみに心残りはあるの?」
少年B「心残りねえ」
少年B「あ、例えば先生がキスしてくれたら成仏できたりするかも」
吉田「ぶっ!?冗談言わないでよ!」
少年B「はは、思春期少年の心残りなんてそんなもんだよ」
吉田「えー」
吉田(でも、それでこの子が成仏できるなら・・・)
吉田「ん・・・」
  吉田は覚悟を決め、目をつぶる
吉田「ちょ、ちょっと!」
吉田「早くキスしなさいよ!」
少年A「あ、あのー」
吉田「えっ!?」
吉田「・・・」
少年A「・・・」
少年A「先生、苦労されてるんですね」
吉田「なーっ!?」
少年B「はは・・・」
吉田「・・・・・・」
吉田(憎まれ口を叩く純粋な子どもと)
吉田(誰の助けにもなれていない無能な大人と)
吉田(生きているべきは、どっちなんだろう)
  吉田は嫌味なほど澄んだ青空を睨み付け、冷めたパンをひとくち囓った。

コメント

  • この三者三様の事情を抱えた登場人物、そればパズルのピースのようにカチリとハマってしまったことで、不思議なおかしみが生まれてますね。この空気感、好きです。

  • 少年Bが自殺した理由は不明ですが、少年Aの自殺をやめさせたり吉田先生の話し相手になってあげたり、死んだからこそ人の役に立てているのはなんとも皮肉な話ですね。相手に説教じみたことを言う人がいない関係性が緩やかで穏やかで、嫌味なほどの青空の下で不思議ないい感じです。

  • 語彙力がないので、うまく言えないのですが…
    なんか、好きです…こういうの

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