我、願ったり(脚本)
〇豪華なクルーザー
トモちん「いくつか質問があるんだけど、」
叶 果奈「どうして?」
トモちん「逆質問だ」
叶 果奈「優先すべきはお紅茶じゃない?」
トモちん「── 美味しい。人生で一番かも」
トモちん「揺れるね」
叶 果奈「お紅茶の揺れと海が同期していたら素敵よね──おっと」
トモちん「こぼれてるよ。これが水面なら洪水か津波」
叶 果奈「ああ、お雑巾を陸に置いてきてしまった。で・も、大丈夫よね?」
トモちん「はいハンカチ。ドヤ顔で遠回しな頼み方してると友達減るよ」
トモちん「私のターン!」
トモちん「果奈の部屋、なぜこうなった? パジャマパーティなのにその格好は何? 髪色どうした?」
トモちん「果奈が2人!?」
叶 果奈「自分の等身大フィギュア、欲しかったのよね」
トモちん「なるしすと」
叶 果奈「私、いつかやろう・いつか欲しいって願望を閉じ込めすぎてた」
トモちん「そうでもないぜ?」
叶 果奈「初恋の人にだって、奥手すぎた」
トモちん「叶くんの話してる? 長期的に超法規的アプローチをしていたと記憶してるけど」
叶 果奈「だから結婚したの」
トモちん「結ばれてる! また妹さんを人質に?」
トモちん「あっ、結婚式呼ばれてない。親友なのに」
叶 果奈「ちゃんと正当な手段よ。昨日叶になったの」
トモちん「なんだ昨日か、おめでと──」
トモちん「私のターン!」
トモちん「私の質問に答えて」
叶 果奈「要するに、願ったきりのこと、全部実現させることにしたの」
叶 果奈「そしたら願ったり叶ったりで、も〜大変!」
トモちん「なんでだよ」
トモちん「願望に従ってる状態ってこと?」
叶 果奈「お船に住んでブランド物の服を寝巻きにして魔法少女みたいな髪にしてみたかったの」
トモちん「わかるような理解しがたいような」
叶 果奈「何かない? 願いごと」
トモちん「うーん私、パワースポットでこの幸せがずっと続きますようにーってお守り買って後生大事にするタイプだし」
叶 果奈「限界突破を狙って他のお守りでデコらないの!?」
トモちん「罰当たりでは?」
叶 果奈「流れ星、録画して0.5倍速再生しないの!?」
トモちん「ずるじゃん」
叶 果奈「でも全て私の思い通りになった」
トモちん「悪役のセリフ」
叶 果奈「トモちんの願いだって叶えてあげられるかもしれないのに。無いなんて」
トモちん「たぶん願いは、あるんだよ」
トモちん「大事な人たちとずっと一緒にいること」
トモちん「ピンときてない」
叶 果奈「もう少し具体的でないと実現可能性が」
トモちん「仕事で企画書提出させられてる時を思い出す」
トモちん「あと50年? 欲張りすぎ? たまに会って取り留めもない話をしようよ」
トモちん「そういえばこの船って操縦どうしてるの」
叶 果奈「船舶二級、取ったから」
トモちん「船長あんたかい。不安」
叶 果奈「も〜。大丈ぶ──」
叶 果奈「沈んでる」
トモちん「シャレなんないよ」
トモちん「マジ?」
トモちん「パジャマでこの季節の海、まずいか」
叶 果奈「最後の願い! トモちんだけは陸に!」
トモちん「本気の目だ。真心の友情だ。絶望感」
叶 果奈「あっ出航してなかったわ」
トモちん「なんだよ!」
叶 果奈「いざ危機が迫ると生きようって思うわね。余命宣告されたけどあと50年、生きることにするわ」
トモちん「えっ?」
叶 果奈「会えてよかった」
トモちん「え?」
叶 果奈「願ったから、生きてみせる」
トモちん「追いつけないよ」
果奈さんの奔放すぎる会話内容にトモちん同様に振り回されながら読んでいましたが、余命の話で、急にお話が色彩鮮やかに感じられました。序盤とラストで物語の印象がガラリと変わりました
実はこの二人はもうとっくに海の上で死んでて、永遠に人生を後悔しながら航海しているんじゃないかと思いながら読んでたらちゃんと生きててよかった。正反対のタイプに見えるけど、奥底では分かり合える人間はお互いしかいないみたいな友情がこの二人にはあるように思えました。
死を自覚すると人はより一層強情にもなるんでしょうね。その立場になってみないとわからないことだってあると思います。二人の間に深い愛情があるという所がとても印象に残りました。