明日レベル99の勇者一行が来る、逃げたい(脚本)
〇西洋の円卓会議
ゴブリゴブリ「魔王様、準備が整いました」
魔王 リブデ「うむ」
魔王は席に着き、キョロキョロと周囲を見る。
魔王 リブデ「・・・これだけか?」
ゴブリゴブリ「はい、私とアニマスカル以外は全て勇者一行に殺されました」
アニマスカル「かろうじてザコがまだ何体か残っております」
魔王 リブデ「そうか、では会議を始めよう」
ゴブリゴブリ「では、簡単に説明をいたします」
ゴブリゴブリ「勇者一行ですが、明日には魔王様のところに来る予定です」
魔王 リブデ「明日!?」
魔王 リブデ「・・・」
ゴブリゴブリ「どうされました?」
魔王 リブデ「勝てる気がしない」
「えーーー!?」
魔王 リブデ「だってさー、最近の勇者超強いじゃん!」
魔王 リブデ「今アイツ、レベルいくつよ?」
ゴブリゴブリ「99です」
魔王 リブデ「無理!」
魔王 リブデ「だって我、レベル60くらいでくると思ってたもん」
ゴブリゴブリ「低く見積もりすぎですよ・・・」
魔王 リブデ「しまったなー・・・」
魔王 リブデ「本気出したら勝てるかなー、って思ってたけど」
魔王 リブデ「なんだよレベル99って」
魔王 リブデ「そんなにレベル上げる必要なくない?」
アニマスカル「噂によると勇者一行は『敵を完膚なきまでに叩きのめす』ってのに快感を覚えたみたいです」
魔王 リブデ「タチ悪ぃな」
アニマスカル「でもこれ、原因があるんですよ」
魔王 リブデ「ほう、何故だ」
アニマスカル「勇者一行のレベルが低かった頃の話なのですが・・・」
〇岩山の崖
魔王 リブデ「貴様らが勇者か」
勇者「誰だ貴様は!」
魔王 リブデ「この世の全てを掌握する魔王・・・リブデだ」
魔王 リブデ「挨拶がわりにこれを受け取るがいい」
魔王 リブデ「はあっ!!!!」
ズドドドドド!!!!
勇者「うわあああっ!」
魔王 リブデ「ふん、弱い勇者だな」
魔王 リブデ「もっと強くなって我を楽しませてみせろ」
魔王 リブデ「では、さらばだ」
勇者「ちくしょおおおお!」
勇者「絶対にアイツを倒してやる!」
〇西洋の円卓会議
アニマスカル「魔王様に初めて会った時に、完膚なきまでに叩きのめされてから」
アニマスカル「強くなることに執着しだしたらしいです」
魔王 リブデ「我のせいじゃーーーん!」
魔王 リブデ「マジか・・・」
ゴブリゴブリ「あの、魔王様」
魔王 リブデ「なんだ?」
ゴブリゴブリ「なんかないんですか?」
ゴブリゴブリ「変身できるとか、実は超強い魔法使えるとか」
魔王 リブデ「ない」
ゴブリゴブリ「ええええっ!?」
魔王 リブデ「だって我、魔界で一番強かったしさ」
ゴブリゴブリ「修行とかしなかったんですか?」
魔王 リブデ「めんどいし」
ゴブリゴブリ「そこですよ!そこ!」
ゴブリゴブリ「魔王様だって強くならないとダメに決まってるでしょ!?」
魔王 リブデ「だって、我、強いし・・・」
魔王 リブデ「本気出せば勝てるし・・・」
ゴブリゴブリ「ニートか!」
魔王 リブデ「ニートとか言うな!」
魔王 リブデ「我は魔王ぞ!」
ゴブリゴブリ「じゃあ、今まで何してたんですか?」
魔王 リブデ「・・・ワインみたいな生活してた」
ゴブリゴブリ「それ、寝てたってことですよね!?」
魔王 リブデ「熟成を待ってたんだ」
ゴブリゴブリ「寝てたんでしょ!!!!」
ゴブリゴブリ「はぁ・・・はぁ・・・」
ゴブリゴブリ「あー、もうダメだ、これ」
ゴブリゴブリ「アニマスカル、お前どう思う?」
アニマスカル「ダメですね」
魔王 リブデ「えっ、お前までそんなこと言うの?」
アニマスカル「まさか魔王様がボクよりも気骨がない人だとは」
魔王 リブデ「骨だけにか」
魔王 リブデ「うまいな、10点やろう」
アニマスカル「ありがたき幸せ」
ゴブリゴブリ「前から聞きたかったんですけど、そのポイントってなんですか?」
魔王 リブデ「貯まると休暇が取れる」
ゴブリゴブリ「そんなの貯めなくても取らせてくださいよ!」
魔王 リブデ「1万ポイントで半日だ」
ゴブリゴブリ「ブラック!超ブラックな職場!暗黒!」
魔王 リブデ「ふふ、暗黒か・・・」
ゴブリゴブリ「言葉の響きで気に入らないでください!」
ゴブリゴブリ「それで、結局どうするんですか?」
魔王 リブデ「んー・・・」
魔王 リブデ「戦略的撤退をするしかないな」
ゴブリゴブリ「と、言いますと?」
魔王 リブデ「我の体を半分にしてな」
ゴブリゴブリ「ちょっと待ってください、初耳です」
魔王 リブデ「我、自分で体を半分にできるんだよ。分裂って言った方がいいか」
魔王 リブデ「強さは半減するけどな」
魔王 リブデ「我の半身が勇者たちを足止めして、魔王城から抜け出す」
魔王 リブデ「我の魔力でこの城建ってるから」
魔王 リブデ「半身がダメージ受けると、どんどん城が崩壊する」
魔王 リブデ「その崩壊に乗じてサーッと逃げよう」
魔王 リブデ「そして、他の場所でまたやり直していけばいいだろう」
ゴブリゴブリ「なんだか後ろ向きですけど・・・魔王様がそれでいいなら」
アニマスカル「私も賛成です」
魔王 リブデ「じゃあそうしよ!な!」
〇魔界
次の日
魔王 リブデ「よく来たな、勇者よ!ここまで来たことは褒めてやろう!」
魔王 リブデ「しかし貴様らはここで死ぬのだ!」
勇者「ついに現れたな、魔王リブデ!」
勇者「いくぞ、皆!」
魔法使い「ファイアスパイラル!」
格闘家「超極拳!」
勇者「うおおお!」
魔王 リブデ「貴様ら人間なぞに倒されるものか!」
〇暗い洞窟
その頃、逃げた方の魔王たち一行は・・・
魔王 リブデ「我の半分が戦ってるうちに逃げるぞ」
「はい!」
ゴブリゴブリ「しかし魔王様、こんな道いつできたのですか?」
魔王 リブデ「昨日掘った」
ゴブリゴブリ「仕事早っ!」
ゴゴゴゴゴ!
アニマスカル「崩れ始めましたよ!」
魔王 リブデ「早いな!」
ゴブリゴブリ「急ぎましょう!」
ドドドドド!!
魔王 リブデ「むっ・・・」
ゴブリゴブリ「どうされました、魔王様!」
魔王 リブデ「ダメだな、これ」
「えっ?」
魔王 リブデ「この勢いだともうすぐ崩壊する」
ゴブリゴブリ「じゃあ早く逃げましょう!」
魔王 リブデ「いや、もう無理だ」
魔王 リブデ「我がここに残り、崩壊を防ごう」
「えっ」
魔王 リブデ「我の半身はまだ生きておるようだ、またあの体に戻れば、まだ戦える」
魔王 リブデ「それに、崩壊も少しは防げるだろう」
ゴブリゴブリ「勝てるのですか!?」
魔王 リブデ「無理だ」
魔王 リブデ「だが、貴様らを逃がすことはできよう」
ゴブリゴブリ「そんな・・・、魔王様!」
ゴブリゴブリ「我々も連れて行ってください!」
魔王 リブデ「ならぬ!」
魔王 リブデ「貴様達は、次に我が復活した際にいてもらわぬと困るのだ」
ゴブリゴブリ「復活・・・?」
魔王 リブデ「これを持っていけ」
ゴブリゴブリ「これは・・・?」
魔王 リブデ「我の体の中にある核の一部だ」
魔王 リブデ「これさえあれば、我はいつか復活する」
魔王 リブデ「それまで頼むぞ、2人とも」
「魔王様・・・」
魔王 リブデ「では、さらばだ!」
「魔王様あああああ!」
〇魔界
魔王 リブデ「うおおおお!」
勇者「急に魔王が強くなった!?」
魔王 リブデ「貴様らの力はそんなものか!」
魔王 リブデ「まだ我は倒れぬぞ!さあ来い!」
勇者「言われなくても倒すさ!」
勇者「うおおおおお!」
魔王 リブデ「おおおおおおっ!」
〇岩山
「はぁ・・・はぁ・・・」
ゴブリゴブリ「やっと逃げれた・・・」
アニマスカル「あっ」
ドザアアアアッ・・・
魔王城が目の前で崩壊していく。
ゴブリゴブリ「魔王様・・・」
アニマスカルが、ゴブリゴブリの肩を叩く。
アニマスカル「まだ俺たちは負けてない」
アニマスカル「そうだろ?」
ゴブリゴブリ「そうだったな・・・」
ゴブリゴブリ「見ていろ勇者!」
「次こそは魔王様が勝つ!」
2人は後ろを振り向かず、歩いた。
強く、強く地面を踏みしめながら。
魔王と配下のやりとりがおもしろくて笑えました!
でもその後のやりとりでじーんってきてしまって…。
また魔王が復活するのはいつになるかはわかりませんが、また配下と出会える日まで!
笑あり。感動あり。楽しかったです。魔王は部下を助ける為に自分が犠牲になって死んでいく。悪役にしてはとっても気持ちのいい魔王です。是非、復活してくださいね。
魔王視点でのコメディ展開、とても楽しく読ませてもらいました。この手のファンタジーって、魔王側を主人公、勇者を侵略者として見ても成り立つのだと再発見できました。