卒業式を”勝つ”ために

見張マコト

卒業式を”勝つ”ために(脚本)

卒業式を”勝つ”ために

見張マコト

今すぐ読む

卒業式を”勝つ”ために
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇散らかった職員室
  とある高校の職員室。
校長「時に諸君、明日は何の日だかわかるかね?」
七瀬「卒業式です」
校長「そう、卒業式だ。 であるならば、逆説的に今日は何の日か・・・・・・わかるかね?」
校長「──新人の新部(あらべ)君?」
新部「え!? そ、卒業式の前日です・・・・・・!!」
校長「そう、卒業式の前日・・・・・・。 学び舎を巣立つ儀式、その最終確認を行う ──総練習だ」
校長「生徒たちも本気で調整してくるだろう。 私から皆に伝えたいことはただ一つ」
校長「──決して”狩られるな”!!!!」
校長「・・・・・・」
校長「以上で本日の職員会議を終了する」
新部(・・・・・・!?)

〇体育館の舞台
新部(朝の職員会議が度肝を抜きすぎて、気持ちがグチャグチャだ)

〇散らかった職員室
  最後に校長が
  「散・・・・・・ッ!!」
  って言って皆が散り散りになったし。

〇体育館の舞台
  そんな顔してちゃ、狩られるわよ。
新部「七瀬さん」
新部「今日の先輩方、どこかいつもと違うヒリつき方をしていて怖いのですが・・・・・・」
七瀬「そうね、新部君は今日が初めてだものね。 だけど彼らはそんなことお構いなしよ」
七瀬「新部君、見て学びなさい!! 此処は既に、あなたの知っている学校ではないのよ・・・・・・」
新部「昔のゲームくらい初心者に優しくない・・・・・・」
  これより、卒業式の総練習を始める!!
新部「一体、何が始まるんだ・・・・・・」

〇黒
  特に変わった様子もなく、総練習はつつがなく進行していた。

〇体育館の舞台
新部(朝の不穏な感じはなんだったんだ?)
七瀬「これより卒業証書授与を行います。 名前を呼ばれた生徒は返事をして、登壇してください」
先輩教師「ついに、か・・・・・・」
新部「え?」
先輩教師「新部、踏ん張れよ」
新部(じゃあ説明してほしい・・・・・・)
七瀬「赤井直樹」
赤井直樹「ンぽぉーーわ!!!!」
新部(え、あぁ、びっくりした。 返事で茶けるタイプの子か)
新部(初っ端からっていうのは珍しいけど、無いことは無いか)
七瀬「五十嵐勇人」
五十嵐勇人「ンぽぉーーわ!!!!」
新部(2連続!? さっきの子の友達か?)
七瀬「上田さゆり」
上田さゆり「ンぽぉーーわ、ですわ」
新部(・・・・・・)
七瀬「江口豊一」
江口豊一「・・・・・・ンぽぉーーわ」
新部(何が始まっているんだ!?)
新部(何かヤバめの仕来りがある系の地域なのか?)
新部(お嬢様っぽい子も乗り気でない子も、 一様に返事とはとても言えない奇声を発し登壇していく・・・・・・)
七瀬「鰐砕満(わにくだき みつる)」
新部(突然のワ行!? わ、鰐砕!?)
鰐砕満「はい!!」
新部(キングオブ名前負け!?)
新部(しかし、鰐砕の登場でより一層混迷を極めてきた)
新部(結局、あの返事はふざけているのか。 それとも鰐砕が、”ふざけないというふざけ”をかましたのか)
七瀬「鰐砕夜八(わにくだき やはち)」
鰐砕夜八「ンぽぉーーわ!!」
新部(まさかの苗字かぶり!? 鰐砕で!?)
新部(そして奇声系の返事・・・・・・。 ここでは”ンぽぉーーわ”が返事として主流なんだ)
七瀬「鰐”管木”ゆら(わにくだき ゆら)」
鰐管木ゆら「んぽぉーーわぁ」
新部(”斎”藤と”斉”藤みたいなノリが ワニクダキ界にも!?)
七瀬「鰐管木慶太夫(わにくだき よしだゆう)」
鰐管木慶太夫「ンンンッ・・・・・・パァアオオオオ!!!!」
新部(ワニクダギ界の大ボスか!?)
先輩教師「ちゃんと返事!!!! すみません、もう一回お願いします」
新部(部活の監督的な人から一喝されてる・・・・・・)
新部「奇声にも何かしらのラインが引かれているんだ・・・・・・」
七瀬「鰐管木慶太夫」
鰐管木慶太夫「ハイ」
新部「しっかりと反省してる・・・・・・」
先輩教師「よく耐えてくれているね、新部」
新部「先輩」
先輩教師「どうだい? これが卒業式に向けた、生徒たちの全力の調整だよ」
先輩教師「彼らは一世一代のハレの日に・・・・・・」
先輩教師「なんか、めっちゃ目立とうとする!!」
新部「普通に注意してくださいよ・・・・・・」
先輩教師「当然、俺たちの先輩方は注意しまくった」
先輩教師「しかし、人海戦術を駆使する生徒たち全てを注意する前に、先輩方は喉の限界を迎えた」
新部「儚すぎる・・・・・・」
先輩教師「それにあまり注意すると、パワハラだの なんだので謎の大目玉をくらうんだ」
先輩教師「だから俺たち教師は、できる範囲で反撃をしているんだ」
新部「あぁ、だから鰐管木慶太夫の行き過ぎた返事には怒鳴り散らしたんですね」
先輩教師「それだけじゃないさ。 例えば、名前を呼ぶ順番を五十音順に沿わずに適当に呼んだり」
先輩教師「変な返事をされても、顔色一つ変えずにスルーしているんだ」
新部「とても陰湿・・・・・・」
先輩教師「なに、ここからが俺たちの反撃の時間だ!!」
七瀬「それでは、2周目に参ります」
新部(なんでも有りじゃん・・・・・・)
先輩教師「フッ、これが七瀬さんの十八番」
先輩教師「”ノイジーリフレイン” 終焉廻る神の呼び水」
新部「技名!?」
先輩教師「まだまだいくぞ!!」
七瀬「卒業証書授与の途中ですが、ここで学校長より御挨拶申し上げます」
校長「濡れ若葉 ひしゃりひしゃりと 満月や」
新部「・・・・・・え?」
先輩教師「わからないか、新部? これは校長先生お得意の技」
先輩教師「冒頭で意味わからん俳句的な何かを話すことで、スピーチの内容に取っ掛かりにくくさせているんだ」
先輩教師「その結果、生徒たちは長い虚無の時間を過ごさなくてはならず・・・・・・」
先輩教師「──無力化状態となる」
先輩教師「それが・・・・・・」
校長「”メイクヘブンス” 誰も立てぬ我が覇道」
新部(校長はどういうつもりで立ってんだ!?)
先輩教師「今日はまだ、総練習。 明日は何があるかわからない」
先輩教師「新部の”力”も必要となるかもしれない。 心の準備だけはしておいてくれ」
新部「・・・・・・」
新部「──俺も寝るか」
  新部は湖畔の水面が如き静謐に、ゆっくりと身を任せた。

コメント

  • 私が知ってる卒業式と違う!笑
    って笑わせていただきました!
    生徒を無力化する校長先生の挨拶が最強なのかもしれません。
    でも、どこの校長先生もこの攻撃してきますよね。

  • お互いに暗黙のルールを遵守してるっぽい?シュールな攻防がツボにハマりました🤣

  • 想像する卒業式の予行練習とある意味かけ離れていて、知らず知らずにその不思議な世界に引き込まれました。教師たちの反撃が本番でどうなるのか見ものですね!

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ